Act.4-14 エルフの女剣士の族長の娘〜互いを守れる強さを手に入れるために〜

<一人称視点・リーリエ>


「……知っていたのですね。私が族長の娘だと……最初から」


「まあねぇ。ボクにはステータスを見ることができる力がある。……君達は『スターチス・レコード』の出身者に分類されるからステータスは表示されないけど、名前だけは確認できるんだよねぇ。……でも、だから二人を助けた訳じゃないよ。僕は例え誰であったとしても助けていた。……ボクは手を伸ばせば救える命を億劫だから、理由がないからと断念するようなタイプじゃないからねぇ。今も族長には一対一で交渉したいと思っているし、便宜を図ってもらおうだなんて考えていないよ。……ただ、ここでマグノーリエさんの真名を話題に出したのは、マグノーリエさんが強くなれる可能性に、家系……というか、立場かな? そういうものが絡んでくるからだよ」


「……あの、私が族長の娘であることが、強くなれることに関係あるのですか?」


 全く繋がらないと、疑問を浮かべている二人……まあ、そりゃそうだよねぇ。

 とりあえず、テントの外へ……暴れても大丈夫なところに移動しないとねぇ。


「それじゃあ、まずはそちらの話からするとしようかな? 勿論、ボクは教えられる範囲で二人に相応しい戦い方を教えるから、これはその一角だと考えてもらいたい。……それじゃあ、まずは……闘気の話をしようか。闘気昇纏・金剛闘気! 闘気昇纏・剛力闘気! 闘気昇纏・迅速闘気!」


 それぞれ、左手に剛力闘気、右手に剛力闘気、両足に迅速闘気を纏わせる。


「まず、これが見えるかな?」


「はい……右手、左手、両足に薄らと炎のようなものが見えます。三種類の青色……ですよね」


 プリムヴェールも頷いている……二人とも見えているようだねぇ。


「まず、これが金剛闘気、剛力闘気、迅速闘気と呼ばれる力です。金剛闘気は硬さを、剛力闘気は力の強化を、迅速闘気は素早さを向上させるものだからねぇ、まあ三種類の闘気があることを理解して使い分けることが最初のうちは重要かな? イメージは、内部の気の流れを感じ取って、丹田に力を入れて汲み上げるみたいな感じで……この基本ができなかったらそもそもお話にならないからねぇ」


 早速二人も挑戦……しかし、凄いねぇ。すぐにプリムヴェールは全身の淡い銀色の迅速闘気を、マグノーリエは右手に淡い金色の剛力闘気を纏わせた。


「これでいいのか? しかし、剛力や金剛や迅速はどのように切り替えたらいいのだ?」


「イメージだよ。硬さを求めれば硬さが、剛さを求めれば剛さが、迅さを求めれば迅さが闘気となって立ち昇る。……それと、もう一つ治癒闘気と言っても体内を巡らせて傷を癒す闘気があるんだけど、これって太陽の光と同質の生命エネルギー的なものだから吸血鬼や太陽光を苦手とする種族の場合は肉体がダメージを受けることになるんだよねぇ……自分の治癒闘気であっても。これは体内から指などを通じて水や金属を伝導させることが可能で、自身の治癒以外にも他者の治癒や攻撃手段として用いることができる……まあ、ボクみたいな吸血姫と戦うなら覚えておいた方がいいよ。ああ、過剰に与えると失神や最悪の場合は死亡することがあるから実は武器として利用することもできるんだけどねぇ。自身の治癒に使うものを内活闘気、他者の治癒・攻撃に使用するものを外活闘気と呼び区別するらしいけど、まあ、そこまで覚えておかなくてもいいんじゃないかな? とにかく、部位とどのような性質を与えるかのイメージ。これが、武装の気の基本だよ」


 ……ちなみに、名称とかは鑑定スキルを利用して確認しているよ? これって世間一般でどういう名称がつけられているのかも、その詳細も知ることができるからねぇ。


「これだけでも、十分強くなれた気がします」


「まだまだ、これで満足してもらっちゃ困るねぇ。……次は武装の気の奥義――武装闘気だねぇ。これは、金剛闘気、剛力闘気、迅速闘気を一つに束ねるイメージ……そうすると、こんな風に闘気が収束して黒い色に変わるから、こうなると闘気を認識できない人にも見えるようになるんだよねぇ」


 限られた者――バトルセンスのある人にしか見えない三種闘気に対して、武装闘気は誰の目から見えるほど明らかな凝縮されたエネルギーなんだよねぇ。


「武装闘気の使い方の基本は全身を、或いは身体の一部、或いは武器を硬化させることだけど、直接相手に触れずに武装闘気を衝撃波として放つことで吹き飛ばす武気衝撃、相手の身体に直接武装闘気を流し込むことで内部から敵の身体を破壊する武流爆撃など様々なバリエーションがあるんだよねぇ。まずは硬化、それからバリエーションを少しずつ試していくといいよ。これの実践は後回しにしてもらって、次に行こうか。続いて見聞の気、通称見気は気を読む技術で、鍛えることで視界に入らない相手の位置、数、行動が読めるようになる。まずは、自分の闘気をイメージして、次にそのイメージを外に広げていく感じかな? 最初は周囲の気を少しだけ感じるところから初めて、さっき挙げた領域に達したらとりあえずは及第点というところだねぇ。まあ、そこでやめてもいいんだけど、更に鍛えることでは未来視や他者の心を読むこと、生き物の感情を感じ取るなどの領域に達することができる。最終的には霸者の気に至ることができるものが持つ『王の資質』を見ることができるようになる……ボクはこれを使ってマグノーリエさんが『王の資質』を持つことを見抜いたんだよ」


「マグノーリエ様が『王の資質』を持つことは分かったが、他に『王の資質』を持つ者はいるのか?」


「そうだねぇ……まず、非覚醒者は、ここにいるメンバーだったら王弟バルトロメオ、大臣ディラン、リボンの似合うメイドのアクア、ナトゥーフ、その他にブライトネス王国の王族全員は該当しそうだって話だよ。覚醒者は、ボク、ブライトネス王国国王のラインヴェルド陛下、ボクの実父でラピスラズリ公爵家当主のカノープスの三人かな? まあ、覚醒してからやり合ったことはないからなんとも言えないけどねぇ。二人とも覚醒したって聞いたのがボクが緑霊の森に向けた旅に出発する丁度一日前だったし」


「……あの、王族や貴族とは普通戦うものなのでしょうか? もしかして、人間ってそんな野蛮な風習を!?」


「あ〜、ナイナイ。うちの王様はちょっとぶっ壊れているし、お父様も無駄な戦いこそしないけど研鑽に余念がない人だからねぇ。……癖の強い、破茶滅茶な王様だけど、エルフだからって差別する人じゃないよ、二人とも。まあ、お関わりになりたくはない類の人だけどねぇ。……まあ、悪い人ではないから。寧ろ、他の貴族とか、天上光聖女教とかの方が厄介だからねぇ……まあ、破天荒だけど莫迦じゃないし……寧ろ切れ物過ぎて厄介ってタイプだから、何かしら考えがあっての緑霊の森への使節団派遣だと思うからねぇ。大丈夫じゃないのかな?」


 ……その切り札っていうのがボクとかだったら笑えないけど……あの人なら遣りかねないからなぁ。王様と二人で天上光聖女教の総本山に乗り込むとか……まあ、取らぬ狸の皮算用な話だし、それを考えるのは後でいいか。


「それじゃあ、話を戻して――。最後は霸者の気……通称、霸気なんだけど。これも大きく分けて二つの霸気が存在して、魂魄の霸気と覇道の霸気と呼ばれているんだよねぇ。まずは、覇道の霸気から……特にマグノーリエさんはよく見ていてねぇ」


 覇道の霸気を発動した瞬間、まるでヒビが入るように亀裂が走り、何本かの木々が倒れた。

 と同時に、巻き込まれた魔物も何体か気絶したみたいだねぇ……やっぱり、無傷の獲物を得るのに丁度いい力だよねぇ、これ。


「覇道の霸気は相手を威圧することで自分の実力よりも遥かに劣る実力を持つ相手を気絶させることができる……圧倒的実力を持つ者の覇道の霸気の場合は周囲の環境にも影響が及び、直接物理的なダメージを与えることすら可能になるみたいだけど、これって修行してどうのこうのってものじゃないからねぇ。元々の素質プラス戦闘経験を積んで基礎の強さを上げるしかないんだよ……。ちなみに、武装闘気、見気に上乗せすることでその上限を突破することもできるから同じ武装闘気使い、見気使いでも霸気持ちか否かでかなり実力に差が出るだろうねぇ。で、もう一つ――魂魄の霸気は魂の根幹に根差す力で、気そのものを己の根源たる象へと近づけて、変化させる力。つまり、魂の形を顕在化させる力なんだけど、この性質は千差万別で一人として同じ効果を持つ者はいないから、まあ自分で見つけるしかないってことだねぇ。ちなみにボクのは《鏡》の性質で、鏡写して自分が見た魂魄の霸気や自分が受けた魂魄の霸気を同レベルで自在に操ることができるっていうものだから実践しろって言われても難しいんだよ。まあ、そんなところだから、とりあえず武装闘気と見気の二つは身につけてもらいたいねぇ。それから二人共通で原初魔法、瀬島新代魔法、『SWORD & MAJIK ON-LINE』のマジックスキル。プリムヴェールさんには剣士だから……そうだねぇ、千羽鬼殺流と『SWORD & MAJIK ON-LINE』のウェポンスキルを教えるのが一番かな? プリムヴェールさんって真っ直ぐだから、奇襲とか搦め手とか苦手そうだからねぇ……」


 さて……今夜は長くなりそうだねぇ。明日支障がないといいけど……あっ、二人に、ねぇ。僕は勿論平気だよ。リーリエのアカウント使っているし。

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