Act.2-16 素材回収クエスト:ワイバーンの鱗を三匹分手に入れろ! 延長戦!! scene.2

<一人称視点・リーリエ>


 ――その場所は、花畑だった。赤や黄、紫や青――様々な色の花々が緑のキャンバスの上で鮮やかに咲いている。


 ……まさか、ドラゴネスト・マウンテンの山頂が花畑になっているとは思わなかった。

 ドラゴネスト・マウンテンはかなりの標高だけど、森林限界を無視してこうして花が咲いているってところを見るとやっぱりここってゲームを基にした異世界なんだなって思う。……実際、苦労して登った山頂に美しい花畑があったら「ここまで頑張ってよかった!!」って気持ちになるし。


 ……まあ、結局ボク達は花畑よりも別の存在モノに対する衝撃の方が大き過ぎて花畑に対する驚きなんてすぐに霞んでしまったんだけど。


 金色の鱗を持つヴリトラが仔竜に見えるほどの巨体を持つドラゴン――山に入ってからここまで二日掛かったけど、一度もこれほどの巨体のドラゴンを見たことはなかった。……最大がヴリトラだったから文句なしで記録更新だねぇ。


『……ふぁぁぁぁあ。よく寝た……あれ? もしかしてニンゲン? 珍しいね? こんなところまで来るなんて』


 警戒度MAXで臨戦態勢を取るジーノ達を制して、人語――ボクからしたら大倭言葉――で声を掛けてくるドラゴン。……まあ、敵、ではないと考えた方が良さそうだねぇ。戦おうと思えば戦えるけど、どこまで犠牲が出るか分かったものじゃないから避けたいというのが本音だ。

 それに……このドラゴンは多分。


「もしかして、古代竜エンシェント・ドラゴンですか?」


 ドラゴネスト・マウンテンは『スターチス・レコード』の中に登場する予定だったフィールドで、直接イベントには関係ない伝承なども用意されていたけど、構想の段階でボツにされてしまった。

 その一つが古代竜エンシェント・ドラゴン――二億年前からドラゴネスト・マウンテンの周辺に棲みついている最古にして最強の竜種の一体。


『ボクのことを知っているんだ……確かに昔、古代竜エンシェント・ドラゴンって呼ばれていたこともあったね。懐かしいなあ。……まあ、ボクはここで花を愛でて、ゆっくり暮らしていればそれでいいんだけどね。昔からマゾク? って人達に軍門に降れって言われたり、カミサマ? って呼ばれたりしていたんだけど、なんでなんだろう?』


 ああ、思い出した……古代竜エンシェント・ドラゴンは純粋で優しい性格で、自分の力には無自覚だって設定した気がする……直接イベントには関係ない伝承にまで惜しみなく力を入れるって、当時のボクって結構暇だったんだねぇ。まあ、割と完璧主義なところがあるから一度設定するって決めたらとことん穴を埋めるように設定していくタイプなんだけど。


「……お嬢様、このドラゴンって本当に信用していいの? 油断したところをガブってされない?」


 まあ、こんなに巨体のドラゴンを見て警戒しない方がおかしいよねぇ。アクア達がビビるのも当然かぁ……。


「まあ、恐ろしいことには間違いないけどねぇ。もし、ボクらが古代竜エンシェント・ドラゴンさんの平穏を乱したら、堪忍袋の尾が切れるような真似をしたら、ボクらは命を踏み躙られると思う。でも、それはやった事の報いが返ってきただけだろうし、見た通りかなり穏健派なドラゴンみたいだから戦いになることはないと思うよ。それに、戦おうとすればすぐにボクらを倒せるんじゃないかな? 体格差的には」


 まあ、体格差が全てを決める訳じゃない。【ブライトネス王家の裏の剣】の真の実力も見れていないし、ボクだって本気を出せば古代竜エンシェント・ドラゴンを屠ることは十分に可能。ただ、戦う必要のない相手と戦うってのは気乗りしないけど。


『ところで、お姉さん達は何をしに来たの?』


「ワイバーンって呼ばれているドラゴンを倒して素材を採取に来たんだけど……ワイバーンって古代竜エンシェント・ドラゴンさんのお仲間だったのかな? ……それなら悪いことをしたねぇ」


『別にボクはワイバーン? あの硬いドラゴンのことかな? は仲間じゃないよ。ボクはボク――ここでずっと一匹、ここに沢山生息しているドラゴン? ってのは、ボクの子供でもなんでもないからね。自然界は弱肉強食だし、負ける方が悪いと思うよ。だから、別に気を遣わなくていいよ。……そうじゃなくてね。お姉さん達がもしこの山の調査をしている人ならお願いしたいことがあって』


 ……まあ、調査しているっていう見解に間違いはないからねぇ。しかし、古代竜エンシェント・ドラゴンが依頼することってなんだろう? 大抵のことは自分で解決できるからずっと天涯孤独で生きてきたんだと思っていたんだけど。


「お願いしたいことって何かな? 内容にもよるけど、協力できることなら協力するよ」


「ちょっと待ってくださいよ、お嬢様。そんな簡単に受けちゃっていいんですか!? あまりにも人が良過ぎますよ!」


『まあ、そうだよね……何も見返り無しにお願いするのはダメだよね。お姉さん達もお仕事できているんだし。……そういえば、寝床にしている祠に綺麗な石とか金とか集めてあるんだけど、それじゃあダメかな?』


 それってもしかしなくても宝石とか黄金のことだよねぇ……。


「悪いことは言わないから人間の金銭感覚というのも少しは勉強した方がいいよ? それとボクは損得勘定だけで動く人間じゃないからねぇ。……まあ、最終的に得になるように動くこともあるけど、それだけじゃないんだよ。それで、お願いしたいことって何かな?」


 ヒースが「お嬢様、折角とんでもない報酬がもらえそうなのに勿体ない」って言っているけど……一応ボクらって貴族と使用人だよ。そんなケチ臭いみみっちいことを言っていたら品が落ちるんじゃないかな?


『ありがとう。それじゃあ、ついてきて』


 古代竜エンシェント・ドラゴンはそう言うと姿を変えた。

 結構ダンディーなおじさま風の見た目になったのは歩く振動でボク達がダメージを受けないようにするためかな? 気配りができる人……じゃなかったドラゴンさんだねぇ。


 山頂花畑を登ってきた方と反対側に進んでいく。

 歩いて十分弱……辿り着いた場所も花畑なんだけど……。


「――これ、一体何なんだい!?」


 思わず声を出したラルだけじゃない。ベテランであまり表情に出さないジーノも含めて、誰もがその得体の知れないものに驚いていた。

 まあ、ボクの場合はその正体を理解して驚いたんだけど……。


「……ゲートウェイダンジョン」


「……ご存知なのですか、お嬢様」


 ジーノの言葉に首肯をもって応える。


古代竜エンシェント・ドラゴンさん、教えてくれてありがとう。……これは、ボクらだけの手で終える問題じゃない。裏だけではなく表側の戦力も……いや、生半可なものを巻き込んでしまったら冒険者を犬死にさせるようなもの。人選は慎重にしないといけないねぇ。……この先は恐らく迷宮に通じている」


「その迷宮って最近増えている大迷宮ダンジョンのことかしら?」


 まあ、エリシェアが迷宮と聞いてそっちを連想するのは当然だよねぇ。これまでには無かった形の新種の大迷宮ダンジョン――普通はそう捉えると思うけど、実際はそんなものじゃないことをボクは知っている。――何故なら、これもまたボクの作品の一つと言えるから。


「これは、エリシェアさん達が思い浮かべるような大迷宮ダンジョンじゃない。同じダンジョンって呼ばれているものでも全く別物――ボク達の業界の人はこの先に広がっている世界をこう呼んだ、不思議のダンジョンと」


 ランダム生成ダンジョン、ターン制行動、空腹度の存在、未鑑定アイテム、モンスターハウス、ダンジョン内の店、天候――このようなシステムが存在する、入る度に地形の変わるダンジョンは、一般的に不思議のダンジョンや不思議なダンジョンと呼ばれている。

 それがこの先に待ち受ける世界の名前――そして、この特殊なタイプのダンジョンは『SWORD & MAJIK ON-LINE』にも、『スターチス・レコード』にも、『Eternal Fairytale On-line』にも登場しなかった。


 このタイプのダンジョンが登場するのは、ボク達が手掛けたゲームの中ではアレしかない。


「……『不思議のダンジョン;ゲートウェイフロンティア』」


「お嬢様が手掛けたゲームの一つということでしょうか? しかし……この件、我々はともかくこの古代竜エンシェント・ドラゴンに教えるのは。まあ、悠久の時間を一体で過ごしてきた古代竜エンシェント・ドラゴンに教えたところで情報が流出して混乱が起きるということはないでしょうが」


 ジーノの懸念はもっとも。確かに、この世界の元がゲームだって話はすぐに飲み込めないだろうし、飲み込んだら飲み込んだでパニックになる。――自分達が虚構の存在だって、ボクなら虚構とか現実だとか、そんなつまらないことには拘らないけど、他のみんなは違うだろうからねぇ。

 それに、この世界がゲームを基にしていながらも一つの世界なんだって、ここに生きる人達には誰一人として脇役や背景キャラとして運命づけられてはいないんだって絶対に信じてもらえないからねぇ。


古代竜エンシェント・ドラゴンさん、ボクはこの世界の重要な秘密を知っている。それは今回の件にも関わることなんだ。話したいけど、この情報はあまり広めたくない。……ボクは誰にも広めないで自分の中に秘めてくれるなら教えるけど……どうかな?」


『別に誰にも話さないよ。……でも、数十年しか生きていないのに二億年前から生きているボクが知らないことを知っているってニンゲンって凄いんだね』


「より正確に言えば生まれてから二年ですけどね、お嬢様は」


「ヒース、女の子の年齢をバラすみたいなデリカシーのない行動ばかりしているからモテないんだよ? ちなみに、正確には十七歳+二歳。リーリエは十代前半みたいな年齢だし、十四歳設定にした記憶があるけど、実際は現実での二時間が一日換算だったから、約八十四歳ってことになるかな? まあ、年齢不詳なジーノさんのことは分からないけど、このメンバーでは二番か三番の歳ってことになるよ? ……この身体に関しては老いないから関係ないんだけどねぇ」


 ……まあ、だからってローザの姿の時にロリババア扱いしたらアクアに告げ口するけど……というか、隣を見た方がいいよ? アクアが物凄い怖い顔をしているから。


「それじゃあ、一旦屋敷に戻ってお父様達に報告しようか? その時に古代竜エンシェント・ドラゴンさんにも同席してもらえばいいと思うんだけど……ジーノさん的にはそれでいいかな?」


「……一度旦那様に確認を取ってもよろしいでしょうか? お嬢様」


 ということで、一度ジーノだけを屋敷に送り届けてから、掻い摘んでボクの出自や元の世界のことを古代竜エンシェント・ドラゴンに聞かせた。……まあ、前提知識だからねぇ。合流する前に知っておいてもらわないと話についてこられないから。

 あっ、別に古代竜エンシェント・ドラゴンを仲間に引き入れようって考えている訳じゃないよ? 確かに、あわよくばとは思っているけど、古代竜エンシェント・ドラゴンの素敵なドラゴンライフの邪魔をしたいとは思わないからねぇ。

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