Act.2-10 黒百合の吸血姫は、語る。 scene.2

<一人称視点・リーリエ>


「ずっと疑問だったんだ。何故、君がそこまで事情を知っているのかを、なんでボツになった、げえむには収録されていない設定まで知っているのかを。――君は、この『スターチス・レコード』の世界の創造者なんだね」


 ……まあ、ここまでヒントを出せば分かるよねぇ。


「……う〜ん、まあ微妙なところだよねぇ。そもそもこの世界は『スターチス・レコード』の世界じゃないし、ボクが作ったのはあくまでこの世界の元になったゲームであって、それもボクだけじゃない――多くの人の頑張りによってようやく完成したものなんだ。このリーリエのアカウントが存在していたMMORPG 『Eternal Fairytale On-line』もその一つ。そして、この二つのように、ボクはこの世界に転移・・するまでの間に全部で三十のゲームを作った。その最後の作品と言えるのが、『SWORD & MAJIK ON-LINE』――そして、このゲーム世界を管理するために生み出された、ゲームバランスの管理やバグ・グリッチ潰しを自動化して適切な措置を講じる、仮想世界の制御を行う自立型プログラム……より正確にいえば、電脳遊戯世界調整用超高度人工知能[Super advanced artificial intelligence program for game world adjustment]――ハーモナイアシステム……まあ、これに対しては異論が出る可能性があるんだけどねぇ。『SWORD & MAJIK ON-LINE』は結局発売まで漕ぎ着けられなかったし、ハーモナイアシステムやゲームをプレイするためのハード――ヘッドギアを開発したのは天才科学者の化野さんで、そっち関連はサポートと必要な情報の入力くらいしかできなかった。……まあ、余談はここまでにして、この世界の創造者と呼ぶべき存在は、このハーモナイアシステムということになる。彼女・・は、形成の書[セーフェル・イェツィラー/סֵפֶר יְצִירָה]から世界作成の権利が与えられ、神となった。……ただ、ここで問題が発生してしまったみたいなんだよねぇ。ハーモナイアから神としての権限の一部を簒奪ハッキングして神の力を得た者がいる。その名はシャマシュ――他ならぬシャマシュ聖教教会の唯一神であり、かつては『SWORD & MAJIK ON-LINE』の舞台、《紡錘巨空城-レモンズ・シャトー-》を作り上げ、そこに冒険者を閉じ込めて足掻く姿を楽しむ《紡錘巨空城-レモンズ・シャトー-》の製作者にして、第百階層で待ち受けるラスボスという設定だった。暇を持て余した神であり、挑戦者達すらもゲーム盤を動く駒の一つ、退屈を紛らわす道具としてしか見ていない存在として設定された奴は、神の力を得ると、融合途上の世界でゲーム時代には存在しなかったシャマシュ教国の建国を誘導すると同時に新たな遊戯のために人と魔族の対立を煽り、更にゲーム盤の中にスパイスとして勇者を召喚することを考え、ハーモナイアシステムが保有していたボクのデータから座標を獲得、異世界召喚を行った……いや、行うのは今からすれば未来の話だねぇ」


 やっぱり、一気に難しい内容を喋ったからさっぱり理解できなかったか。


「……なんとなく、は理解したよ。この世界の創造主はハーモナイアという存在で、その力の一部を簒奪したのがシャマシュ教国で崇められているシャマシュということか。……そうなると、シャマシュ教国は実際にゲーム時代には存在しなかった、ということにならないか?」


「流石はお父様。確かに、シャマシュ教国はボクが作ったどのゲームにも存在しなかった。ボク……かつては百合薗圓という名前だったんだけど、当時のボクがノーブル・フェニックスという会社で、これまでが作ってきたゲームの世界を統合して新たなワールドを舞台にしたゲームを作ろうというボツ計画……複数世界観統合計画[Multi-world view integration plan]が、この世界ユーニファイド[Unified]の基になっているのは間違いないんだけど、そもそもその計画自体構想段階で潰えたから具体的なところは決まっていなかったんだよねぇ。つまり、この世界はどのように拡張されるか分からない、極めて不安定な状態にあった。それに、ゲームには描かれない背景ですらないものもいくつか存在している。そういう曖昧なところにシャマシュ教国という都合のいい国を挿入することも可能だったということなんだろうねぇ。ちなみに昨今増え続けている大迷宮ダンジョンの大本のシステムは『Eternal Fairytale On-line』に限りなく近いものだと考えている。実際に、勇者召喚されてから【ルイン大迷宮】に挑戦したんだけど、少なくともボクはそうだと感じた」


「…………さっきから不思議だったんだけど、アンタって転生したのよね? なのに、なんで転移なのかしら?」


 転移と転生は全然違う。異世界に行くアプローチとして二種類があっても、その結果得られるものに大きな違いを生み出すことが可能だからねぇ。

 転生とは、言い換えればその世界の存在に少なくとも外見だけはなることを指し、転移者とは異邦の存在が異世界に迷い込んだ存在――つまり、第三者からの捉えられ方が異なる。……まあ、他にもいろいろあるんだけど。


 異世界ものであったとして、二つはしっかりと分類分けをした方が良いほどに大きな違いがある。

 まあ、そういう意味で言ったんじゃないんだろうけど。


「ボクは勇者としてクラスメイト達と共にシャマシュによって召喚され、一度死んでいます。まあ、もう少し先の未来だけどねぇ。あっ、回避するつもりは更々ありませんよ。――そして、死んだ後のボクの魂は過去に遡り、転生したという訳です。ある文学者の論文に『転生に於ける肉体の束縛を離れた魂の時間的立ち位置から導き出される過去転生に関する一仮説』というものがあります。これは、ボクの故郷の世界――大倭秋津洲帝国連邦のある世界とはまた別の世界出身の方が書いたというもので、神界――管理者と呼ばれる類の神達が住まう世界を経由して手に入れました。管理者や管轄者、監視者と呼ばれる神々は人間の信仰によって生まれ、神界という場所で世界に異常がないかを管理するのが仕事をしている方々です。なんらかの神的存在に作られた世界であっても自然に生まれた世界であっても関係なく、管理する役目を担っている彼らですが、神と言っても最強という訳ではありません。神にも種類があり、管轄者の他には世界を創造した創造神、自然の中で生まれた神的存在である自然神と、大きく三つに分けられるそうです。この中にどれが偉い/強いという訳でもなく、これら神々が人間より上位の存在だと断定することもできません。実際、大倭秋津洲帝国連邦には管轄者の使徒であった天使を召喚し、使役する術を持った存在もいました。それに、かつてはほぼ全ての天使と悪魔を魅了して絶対の忠誠を誓わせたという人間もいたようなので、必ずしも人間が神に劣っているという訳ではありません。……結局は種族ではなく、個人の力量の問題というこもになるねぇ」


「天使を使役する力を持つ人間か。……もしや、君はその一人ということか? それならば、例え我らからすれば異界そのものである大倭秋津洲帝国連邦という国に住んでいたとしても絶対に知り得ない情報を持つことにも納得できる」


「確かに、大倭秋津洲帝国連邦が存在する地球という世界そのものが、同じく形成の書[セーフェル・イェツィラー/סֵפֶר יְצִירָה]によって日本という国を持つ地球という世界を基に作られた作為的なパラレルワールドだって知っている時点で、通常の視点に立っているとは言い難いねぇ。そもそも、形成の書[セーフェル・イェツィラー/סֵפֶר יְצִירָה]というのが数ある全てを内包した世界オムニバースの中でもこのオムニバースにしか存在せず、従ってこの世界は世界の全てを記録した全知回路アカシックレコードと様々なバリエーションのある世界を作り出す形成の書[セーフェル・イェツィラー/סֵפֶר יְצִירָה]が同時に存在する非常に珍しいものだったそうだ。だからねぇ、ボクは君達のことをゲームの登場人物として見ることはない。例えゲームの設定を色濃く持っているとしても、今君達は自分の頭で思考しているだろう? もし君達を偽物だと言ったら、ボク自身を偽物の地球の一登場人物だって言ってしまうことになるからねぇ。そもそも、何がオリジナルで、何がコピーなのか。同じオムニバースの一世界になった以上、そこに優劣はないと思うんだよねぇ。……さて、ここまででこの世界の世界観を、より広い視野で理解してもらえたと思う。分からないことは後で説明し直すから、咀嚼し切れるまで遠慮なく聞いて欲しい。――それでは、次のステップに進もう。ボクの故郷の世界である大倭秋津洲帝国連邦の存在する地球と、この世界の内憂外患について話をしたいと思う。……準備は大丈夫だよねぇ」


 ジェーオ達が燃え尽きたみたいな感じになっているけど、ここまで来たらきっちり説明したいからねぇ。ジェーオ達には悪いけど先に進ませてもらうよ。

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