第4話
心霊主義者。
スピリチェアリスト。
彼らは幽霊を六種類に分別している。
「守護霊」「背後霊」「自然霊」「動物霊」「浮遊霊」「地縛霊」の六種類。
その中でもある特定の地に住み着いているのを地縛霊と呼ぶらしいのだが、地縛霊になる者にも何パターンもあるのだ。
まずは自分が戦争、事故、災害で突発的に死んでしまった人が、自分の死を受け入れきれずなる場合。
恨みや憎しみ、憎悪の気持ちという悪感情の流れの中で自分の死を受け入れきれずになる場合。
自殺したが、自分が死ねたとは思っておらず、何度も自殺を試みる場合。
つまりは基本的には「死の自覚」という物がキーになっていると僕は思うのだ。
しかし彼女──
だから僕はじゃあ何故彼女は成仏出来ていないのだろうか──とずっと考えてしまっている。
実際「死の自覚」なんて一ミリも無いのかもしれない──しかし本当はそう演じているだけかもしれない。
だからと言って彼女の事を信じないというのはあまりにも酷い話って奴だ。
しかし演技じゃないとしたら、これもまた問題だ。
彼女は地縛霊として存在しているのに、彼女は地縛霊として条件を満たしていないのだ。
もしくはその条件をすっ飛ばしてしまうぐらいの未練ややり残したことがあるか──だな。
そこまで僕は考えて「彼女のやりたい事探し」をこりゃあ予想以上の大仕事だなと思い、現実を見つめた。
*
抱え込もうとしても抱え込めない。
そんなの人生には幾つもある。
数え切れないほどに──数えたくもないぐらいだ。
「アンッ──ダメ、イクッ……!」
中学二年生の時に死んだ女の子とアダルトビデオを見てる子の状況──正直僕如きには抱えられるものでは無い。
そして背負いたくないものでもある……。
映画を観終わった後に、塩竈がパンパンだったリュックから取り出したのはアダルトビデオだった。
塩竈曰く「俺達も高校生になるまで見れなくて悔しかったし、彼女もそれと同様で中学生の時に見たかった一人かもしれないだろ!」だそうだ。
どこからツッコミを入れてやろうか迷うレベルの発言だった。
確かに中学生の時にアダルトビデオ等の成人向け作品を見れなくてやきもきしていた気持ちがあるのは嘘ではない。
本心だ。
だからといって、彼女がその一人と想定して一緒にアダルトビデオを見るのは少し違うのではないだろうか。
絹衣は手で両目を覆い隠しながら、指と指の隙間を少しだけ作り、そこから覗くようにアダルトビデオを見ている。
口はキュッと結ばれ、顔は真っ赤になっている。
そして男子高校生の僕は映像や絹衣のその可愛らしい反応でモジモジしてしまう。
はあ最悪。
もう色々と。
初めて会った人というか、幽霊とその会った日にアダルトビデオを見るなんてな……。
人生何があるか分からないとよく言われるけど、流石にこれは予想出来なかったぜ。
化け物に会った僕ですら驚いてしまう出来事である。
僕達の背後からあやふやな顔をしている絹衣をチラ見してから僕は言葉を発する。
因みに塩竈は物凄く楽しそうにアダルトビデオを観ているので、もうコイツと友達でいるのやめようかなと僕は思っていた。
「なあ、塩竈。もう良くないか? 一度目の性行為は終わったんだし、もう見たということになってるだろう──絹衣にはまだこういうの早いよ、流石に」
僕は絹衣のことを思い、彼女をカバーするためにその発言したのだが、彼女は僕の発言を聞いた途端に怒り始める。
立ち上がり、真っ赤な顔をもっと赤くさせながら僕に言ってくる。
「な、な何言ってるの! 私そこまで子供じゃないし、これぐらいのえち、え、えっちぃ奴なんてよゆーだし! アソコの事をグロいなんて思ってないし! 気持ちよさちょーだし!」
噛みまくりだ。
人生最大の危機ぐらいの噛みようだ。
いやもう人生は終わっているのだけども。
というかその言い訳はどうなのだろうか。
「いやその言い訳は不味いでしょ、絹衣」
「私は大人だからこれぐらいは当然の世界だし……」
「……」
もうツッコミづらいわ。
ここまでまくると。
まあ兎に角この行動には
というか本当に何の意味があったのだろうか、これには。
*
逢魔が時の刺引トンネルは昼間の明るい時に入るのとは訳が違う程の寒気を感じる。
曰く付きのトンネルはやはりレベルが違うのだろう。
そういうのはこういう時間に肌で感じられる。
僕達は夕日が沈む前に帰宅を開始することに決めていたので、アダルトビデオを見た後、絹衣の家を後にした。
絹衣の家からの帰り道。
その途中で──僕は口を開き、塩竈に問う。
「なあ、塩竈。どうすればこの事件は解決すると思う?」
「分からないけど、竜二がいればなんとかなるさ」
「なんで僕なんだよ」
「うーん俺は俺だからかなあ。そもそもの問題なんだよ。俺は確かに勘が鋭い──けど人を救える力は持ってねぇよ、的なね。まあ多少は人を促す力はあると思うけど」
「お前は昔からそうだよな。自分では救わずに、誰かに救わせようとするもんな。なんでなんだよ」
「おー、なんか竜二前より突っかかる様になったな。成長したというか、なんかあったのか?」
僕は結乃のことを脳内で思いながら言う。
「何もない。特にな。僕は僕のままだ──ってか話を有耶無耶にしてくるな。それは僕の流儀だぞ」
「夏休み開始一週間、何も連絡してこなかったくせにか?」
「お前どうせいつも通り最初の一週間で宿題済ませる作戦してたんだろ? だから気を使ってやったんだよ」
「ふーーん、なるほどね。まあしてたのは事実だけど、ちぃーっとばかし寂しかったわよ……」
「なんだその女口調は、気持ち悪いわ!」
「いやぁん、こわぁい……!」
「本当に気持ち悪いからやめろ! そして話を有耶無耶にするな! さっさと思っていることを言えよ!」
「──はあ、だから俺は人を救える力を持ってないんだよ。ただそれだけじゃあ駄目なのか?」
駄目だ。
つまらない事を言うなよ。
その言葉はお前らしくもない。
「あー駄目だ。お前は頭が良い、勘も鋭い、多少馬鹿かもしれないが、それでも良い奴だ。しかしお前が人を救ってる所を僕は見たことがない。そのチャンスは今まで沢山あったはずなのに──そして今も目の前に絹衣という女の子がいるのに」
「……」
「そして僕はお前や赤倉、望々の存在があって生きようと思っているが、同時に『自殺をするな』というあの約束に縛られているから生きていることも確かだ。お前ならあの約束無しでも僕一人ぐらいは口車に乗せて生かせることも出来ただろうが。何故、直接的に人を助けない。何故──何故お前は人を救おうとしないんだ。意味わかんねぇわ」
「竜二には分からないかもな。ま、気にするなよ。そーいうものもあるよ、俺達親友だけどな」
「…………意味わかんねぇ……僕にはお前のことが全然分からない。大好きだけど、信用してるけど、塩竈のことがよく分からない」
「全部分かったらそれこそ気持ち悪いだろう? だから分かんなくていいんだよ。あのな」
竜二──と塩竈。
「どっから見ても同じ人間なんてのはいないんだよ。そんなのはゲームとかアニメの二次元の中だけだ。正義の勇者は勿論ゲームの中だったら皆から好かれてるだろうけど、現実だったら何人かは勇者のことを殺戮兵器呼ばわりして嫌ったりするだろう? もし悪魔がいたとしても全員から嫌われたりはしてないだろう? 何人からは崇拝されて好かれてるはずだ。しかもその勇者や悪魔だって四六時中ずっと良い奴だったり、悪い奴ということは有り得ないんだよ。どんな奴だってな──ある人に対しては悪感情で虐めたり、ある人には愛情で優しくしたりするもんだ。だからどっから見ても同じなんて奴はいないんだよ。俺達もそうだ。俺達は二次元のキャラクターじゃないんだ。リアルの人間なんだよ。だから椴松が知らない俺ってのがいるのは至極当たり前なんだぜ? 見たことがない部分があるのは普通だ」
「そりゃあそうかもしれないけど、じゃあ僕の知らないお前は誰か救ったのか? 救える力を持ってたのか?」
いや絶対に持っているけどな、救える力は。
僕の方だ。持っていないのは。
僕は人を殺した人間だからな。
当たり前だ。
人殺しに人なんて救えるわけがない。
人殺しが出来るのは人を救わないことだけだ。
僕の問いに塩竈は答えなかった。
ただ「どうだろうな」という態度で、モヤモヤさせてきただけだ。
曖昧にする──それは僕のやり方のはずなのに。
そうしてる内に塩竈の家に着き、明日もバイトが終わったら絹衣の家に行こうと約束をして僕達は別れた。
塩竈が家に着いてしまったので、一人になった僕──。
そのまま自宅に帰宅するのも良かったんだが、僕は青髪で怪訝な瞳の少女に会いたくなり、その子の家に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます