方法その5 カイゼン
うるさい犬に黙れと言うことは出来ても、実際に黙らせることは出来ない。
毒殺と撲殺と咬殺、迷子作戦そして埋却は失敗した。
とはいえ失敗は成功の母である。
以前の失敗を踏まえ、もう一度試みることにした。
タマネギを炒めてチョコレートと和えた。
タマネギのしんなりした食感がいまひとつであったので、今度はフライドオニオンとしてクリスピーな食感を出すこととした。
つまみ食いしたが、相変わらず美味い。
もう一押し何かを与えたい。
これは毒ではないが、異物として釣糸を混入させることにした。
紐状の異物を飲み込むことは、他の異物を飲むのと比較して圧倒的に危険である。
腸管で引っ掛かりでもしたら、腸を手繰り寄せる形になって腸管に裂傷を引き起こす。
そして問題は、どのように犬に食べさせるかというところである。
前回は食べさせることが出来ずに失敗したのである。
毒チョコから釣糸を出し、振り回して狩猟闘争本能を刺激して食いつかせることが出来るかもしれない。
土佐闘犬を連れてきた時と同じである。
撲殺についても考えを改めた。
鈍器で殴ることは確かに有効だが、物理力の行使という点では刺殺や斬殺、圧殺など様々な方法がある。
一撃の重い7番アイアンよりも、軽量なスキーストックを用いることを検討する。
威力は7番アイアンに大きく劣るが、打撃と刺突、両方の使い方が可能で軽量で取り回しが良く、素早い攻撃が出来る得物である。
スキーストックは長さが120cm程度※1であり、リーチは十分である。
スキーストックには長さ可変式と固定式があるが、もちろん固定式を使う。
材質はカーボンコンポジットかジュラルミンが主流である。
打撃と刺突に使うにあたって、曲げに強いとされるカーボンコンポジットを選択する。
先端付近の皿状部品、つまりバスケットを取り外し、先端を鋭利に研ぎあげる。
中空なので穴が空くが、巨大な注射針のような武器が出来上がった。
中空構造は、刺突後に血液が流出する経路たりうる点で、むしろ望ましい。
これで得物は完成した。
土佐闘犬を連れてきたら友達になってしまったが、そもそも犬に犬をぶつけることが間違っていた。
縄張り争い等の形で闘争になり体格差から土佐闘犬が勝つ筈だったが、今回は争いにならなかった。
確かに、群れで行動するオオカミを家畜化した犬は、上下関係や友人関係を築きやすい傾向にある。
ここで連れてくるべきはクマである。
クマは群れを作らず単独行動をする動物であり、基本的に何かと仲良くという発想はない。
特にオスのクマは凶暴であり、同種の子殺しをも厭わない。
殺すのは自らの子ではないが。
なお、クマは表情筋が乏しく何を考えているのか顔から読み取れない、怒っていてもわからないという特徴がある。※2
このためクマを扱うのは少々難しいところがあるが、やむをえない。
クマを扱う上では細心の注意を払うこととし、土佐闘犬に用いたメデトミジンの他、ケタミンという麻酔薬を併用することとした。
ケタミンは解離性麻酔薬と呼ばれ※3、麻薬及び向精神薬取締法にて麻薬に指定されている。
書類上の扱いが非常に面倒であるが、メデトミジン同様に筋肉内投与で効果を発揮する点で、安全にクマに麻酔をかけることが出来る。
クマの厚い皮膚を貫通させるため、初速が速く射程も長い麻酔銃を用意した。
もっとも、麻酔銃で撃って、麻酔が効くまでの間は逃げるという作戦が成立するほどの即効性はない。
猛獣を本当に数秒で倒すことの出来る麻酔薬も存在するが、ほとんど流通していない。
麻酔銃は、檻に入れて捕獲してから撃つ。
犬を埋却しようと穴を掘ったら温泉が出てしまったが、その源泉に投げ込んで溺死させることが可能かもしれない。
残念ながら、茹で上げられるほど熱くはないのである。
溺死させるだけなら源泉である必要はない。
せっかく湧いた温泉をわざわざ汚染する必要はない。
逆転の発送である。
穴を掘って犬を入れて穴を埋めるのではない。
犬がいるところにどんどん土を盛っていくのだ。
犬を杭に繋いで、そこに土を盛っていけば生き埋めになると共に古墳のようなものが出来上がるだろう。
黙りさえするなら、犬を祀るも祀らないも特段何も考えはない。
─猫が鳴く。
誰かが家にやってきた。
─資料─
※1 スキー・スノボ研究所
※2 養老孟司 ヒトの見方
※3 獣医薬理学
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