幕間

うるさい犬に黙れと言うことは出来ても、実際に黙らせることは出来ない。

不本意ながら殺害することにしたが、毒殺、撲殺、咬殺と失敗してきた。


改めて、目的に立返る。

問題は、犬がうるさいことにある。

殺害は手段であって目的ではないのだ。


そこで、まずは散歩に連れ出すことにした。


犬の散歩をするのは初めてだが、ビニール袋とトングを持って行けば何とかなると考えた。

言わずもがな、フンの処理である。


首輪とリードを購入し、隣の家の庭で首輪を外して付け替えた。

逃走したと思わせるためである。


リードは短く持つ。

前へ前へと駆けていこうとする犬を見て、ため息をつく。

犬は自分の横を歩くようにしつけるべきなのだ。

犬については主従関係を叩き込まねばならない。

もちろん人間が主、犬が従である。


なお、猫の場合は、猫が主で人間が従である。

人間のみならず猫自身がそう思っている。


ともかく犬には、我先にと前に進み飼い主を引っ張っていくような行為は許されない。


散歩という名の旅は続く。

その間も犬はずっと吠えている。

道中、幾本もの川を直接渡らせる。

水遊びでもしているつもりらしい。


馬鹿め。


水の中を渡らせたのは、臭いを途切れさせるためだ。

臭いをたどって帰れないようにするためである。


そう、散歩という名の旅先で解き放って迷子にする作戦である。

犬にいなくなってもらえば、それでもいいのだ。


道中休憩しつつ、8時間歩いた。

約20kmの長旅である。

山を越え、谷を越え、川も森も越え、湖を迂回してきた。


「ここまで来れば良いだろう」


そっと首輪を外す。

犬は一目散に、どこかに走っていった。


もう二度とあの犬を見ることもあるまい。


旅先の温泉で疲れを癒し、翌日帰宅した。

隣の家の庭先にはいつもの犬が繋がれていて、相変わらず吠えている。


やはり殺害するしかないようだ…。

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