――二月十八日――

 どうすることも出来ないまま、次の朝が来て、紫杏はまた学校へ行った。そして――。

「お前、しばらくここに来るな」

 ――昼休みに屋上で会うなり、冷一の言った台詞がこれだった。

「えっ、どうして?」

 紫杏は驚いて冷一を見た。

「しばらく、俺たちは一緒にいない方がいい。登下校も別々に」

「だからどうして?」

 冷一は本からちらりと目を上げた。

「お前は何も言われなかったのか?」

「……?」

「昨日のこと」

「昨日のこと?」

「噂になってる」

 紫杏はどきっとした。

「噂って……まさか、坂巻さんが?」

「ああ、あいつが言い触らしたのかもな」

 今日、紫杏は静香と一言も口を利いていなかった。彼女は昨日のことなど全く気にしていない様子で、紫杏の方を見もしなかったのだ。それなのに――?

「どっ……どんな噂?」

 恐る恐る尋ねてみる。

「俺とお前が、手を繋いで歩いてたって」

「……え?」

 冷一は大きなため息をついた。

「これだから女は嫌なんだ。男女がちょっと一緒にいるだけで、アヤシイだのヤラシイだの」

「……」

 考えていたこととまるで違ったため、紫杏は体の力が抜けてしまった。

「人ごとだと思ってる?」

「え」

「どうせ自分は、元の世界に帰ってしまえば関係ない、とか」

「そ、そんなこと思ってないよ」

 元の世界でも同じようなことがあったのだから、紫杏にとっても人ごとではない。

「土日の間に何とか収まるといいけどな」

 冷一は難しい顔をして、本を閉じた。

「そうだね」

「噂のことじゃないぞ。お前の問題だ」

「ああ……うん」

「その『坂巻さん』が――別の誰かかもしれないけど――魔法を掛けた張本人が来て、元の世界に戻してくれれば一番いいんだけど……もう四日目だし、それは期待出来そうにないよな」

 紫杏は頷いた。

「助けを待ってるだけじゃだめだと思う。自力で戻る方法を見つけなくちゃ」

 冷一はちょっと意外そうに紫杏を見た。

「まあ、まだ原因だってはっきりしてないんだから、他の可能性についてもよく考えてみろよ。こっちの世界のことでも、そっちの世界のことでも、気になることがあったら何でも言え」

「うん」

 俺も考えてみる、と冷一は言った。

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