――二月十四日――
校舎に引き返した紫杏は階段を上がり、美術部の部室を覗いた。林崎の姿はない。中にいた生徒に尋ねると――。
『え、林崎? たった今帰ったよ、タイミング悪かったねー』
紫杏は教室に駆け付けた。林崎の姿はない。残っていた生徒に尋ねると――。
『え、林崎くん? たった今、鞄取りに来て出てったよ。一歩遅かったねー』
紫杏はまた階段を降り、昇降口まで走った。林崎の姿は――ない。そのまま外に出て、グラウンドを突っ切る。校門のところで、ようやく林崎の姿が見つかった。
『林崎くん、ちょっと待って!』
息を切らしながら叫ぶと、林崎は振り返った。
『何? どうしたの?』
『ごめんね。あの……』
紫杏は林崎の手元に目をやった。
『それ』
赤い紙バッグを指差す。
『これ? 昼休みにもらったんだ。――バレンタインのチョコレートかな?』
林崎は手にした紙バッグを軽く持ち上げて見せた。
――良かった。まだ開けてないみたい。
『それ、私のなの。その子とぶつかって落とした時、入れ替わっちゃったの』
『あ、そうなんだ』
紫杏はずっと握り締めていた紙バッグを差し出した。
『中、見ちゃってごめんね。こっちが彼女の。そっちは……』
『うん、返すね。ちゃんと桔流に渡さないとね……』
林崎は優しく微笑んだ。
『ちゃんと、伝えなきゃ。後悔しないように』
――林崎のその言葉で、紫杏は決心した。やっぱりちゃんと、気持ちを伝えなければいけないと。明日こそ、このチョコレートを渡して、告白しようと――。
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