――二月十五日――

 昼休み、紫杏は深紅のクラス――二年一組までやって来た。

 ドアから顔を覗かせ、廊下側の席にいる深紅を呼ぶ。

「深紅、深紅!」

「あー、紫杏」

 深紅が立ち上がって近付いて来た。

「何ー? 何か用?」

「あのね、チョ……」

「そうそう、紫杏、遅刻したんだってね。貴美恵に聞いたよー」

「コ……」

「私より先に出たのに、何やってたの? ホントとろいんだから、紫杏は」

 いつだって紫杏の方が先に出ているし、それでもいつも紫杏の方が遅い。とろいのだっていつものことだ。今更嫌味を言わなくても……。

「そういえば、深紅は今日、歩きだったんだね」

「うん、紫杏につられて早めに出たからね」

「それにしても珍しいよね……深紅があの長い坂を自分の足で……」

 ――ううん、今はそれより。

「チョコ!」

「え?」

「私のチョコレート知らない?」

「チョコレート?」

 深紅はぽかんと口を開けた。

「深紅昨日、見たじゃない!」

「バレンタインのチョコ? 冷一に渡したんじゃないの?」

「わ、渡してないよ! て言うか、どっか行っちゃったの!」

「でも、私は見てないよ。間違いなく持って帰ったの?」

 持って帰った――つもりだったのだが。学校を出た時、本当に持っていただろうか。自信がなくなって来た……。

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