Still Raining, Still Dreaming - 6

『適切ではないが、その反対からは程遠い』という状況を説明するのに、どれほどのややこしい言葉が必要なのだろう。

 この曲──ロンドン・コーリングは、静かな曲である、とは説明できない。

 しかしやかましい、という言葉からは程遠いのだ。曲調から伝わる情景はむなしく、寂しい。だがそれ以上に激しい感情もまた感じられるのである。

「この曲は一般に言う『ロック』の概念からは、少し離れているかもしれません。曲調は激しくはないし、そもそもパンク含むニューウェイブ自体一昔前の流行りですから」

 プレイヤーから黙ったままの彼女に視線を変え、続ける。

「今更な話ではありますが、パンク・ロックというのは仕事のない若者たちの、現状に対する『怒り』を代弁したものです。パンクが爆発的なブームを生んだのは、同じ怒りを抱えた者が後に続いたことに起因するでしょう。問題は、彼らが皮肉にもそのロックによって仕事を得たことです。曲がりなりにも収入を得て不満が解消された彼らの初期衝動は、変容を余儀なくされました」

 事実、セックス・ピストルズはシングルを1枚、アルバムを1枚発表したそのすぐ後で実質的に活動が終わってしまっている。もっとも、彼らの場合はあまりに過激な言動も原因の一つだっただろうけれど。

「ですが、このロンドン・コーリングは『パンク・ロック』という怒りのロックを体現し、そのうえで彼ら独自の音楽を展開しています。他のパンク・バンドが数年で解散していったパンク最初期に、10年もの期間活動を持つのはクラッシュの特色であると十分言えるでしょう」

 えーそれで、と続けようとした矢先、

「ロックって静かなのね。意外だわ」

「……もう少し過激なものを想像してましたか?」

 ちょっと意外だ。

一口ひとくちにロックと言っても、曲調はまさに千差万別です。ものすごく過激な曲もあれば、逆に物静かな曲だってあります。この曲は──それでも平均的かな」

 ただ曲調と共にボーカル部分というのも大きなウェイトを占めるので、総合的には結構な激しさである。


「ところで」

 話題が飛び飛びになってきた。

「そのアルバム、円盤がもう1枚あるけど……」

 それは? という視線を感じる。彼女にしては珍しい意思表示だ。

「実はさっきの方がDisc2なんです。個人的には2枚目の方が全体的には耳馴染みが良くて。Disc1に興味、ありますか?」

 彼女は小さく頷いた。次第に輪郭がぼやけてくる。

「僕がクラッシュで一番好きなのはDisc1こっちの、とある曲なんです。『I Fought the Law』って曲なんですが、これはカバーでして」

 カバーだが、ロンドン・コーリングと並んでクラッシュを象徴する曲である。

「彼らのもう一つの特徴に、『カバーが上手い』というのもあるんです。曲を解釈して、自分たちのものに変換する。カバーの元曲と聴き比べるとまるで別物になっていますが、見事にパンクに形を変えているんですよ」

 少し暗くなってきた。視界が狭い。

「クラッシュの魅力の──」

 僕の声だ。

「……のジョー・ストラマーはクラッシュの解散までアルバムを──」



 聞こえないはずの雨音と、夢みたいな自分の声が響き続けて──

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