14.えん
次に、私が目が覚めた時にいたのは、楪の救護室だった。
あの後彼は私の事を拠点まで運んでくれたらしい。
仲間達に色々と釘を刺されて部屋に戻ると、すぐにエルサが訪ねてきた。
彼女は一通り私に体調の事などを聞くと、満足したように頷き、色々と事の顛末を話してくれた。どうやら彼に救出を許可したのは彼女のようだった。
「なんか今まで見たことない感じだったんだよね。自分が行くって言い出した時は耳を疑ってしまったわ」
「…そうだったのね」
「?どうしたの、そんなぼーっとして。なんかあった?巻きこんじゃったとか思ってる?」
「そんなことはないよ、大丈夫」
「…もしかしてなんかアイツにされた?」
「えっ、いや、そんな、別に何もないよ、本当に大丈夫だって」
「怪しい…」
「えええ…」
「なんかあったって私の勘が言ってるわ…ホラ言いなさいよ」
「いや、あの、ちょ」
「おい」
「…!?」
「げ」
突然の三人目に驚くと、そこにはチェイスの姿が。
「別に何も俺はしていない。無駄な詮索をするな」
「ほんとにぃ…?モークシャ脅されてない?」
「脅されてなんてとんでもない…」
「そんなことはどうでもいい、モークシャ、次の仕事の資料で目を通してほしい箇所がある。来てくれ」
「え、あ、ちょ」
「えーちょっと勝手に連れて…行っちゃったよ」
半ば強制的につれていかれる姿を諦めて見送るエルサ。完全に姿が消えたのを確認し、溜息を吐いた。
「やっぱなんかあったわね…推せるわ…」
モークシャが部屋に戻ってきたのは結局夕方日が落ち始めてからだった。
なんやかんやと仕事の話から雑談も交え色々しているうちに結構な時間が経ってしまっていた。流石に疲れたので暖かい飲み物でも入れて休むか、と私は台所の方へ向かった。
珈琲を機械で淹れながら色々と考え事をする。
あの時、彼が私を助けに来てくれたこと。
彼が私に言ったこと。
「…」
「おや、ふむふむふむふむ?」
「…!?」
いつの間に横で顔を覗き込まれていたことに気づいて後ずさる。
声の主はヨミだった。
「ああごめん、驚かせてしまったのならすまない。いやはや、面白い」
「…?」
「いや、なかなか興味深い。今の君は、人の欲を研究する僕が観察するに大いに値する」
「どういうこと?」
「今まで君はまぁ切り捨ててしまえば感情がまぁつまらない!まるで起伏がないんだ見ていて面白みがなかったさ。それが今はどうだい」
そういうと私の目の前にふわふわと浮いてやってきて、輝かんばかりの笑顔を向けた。
「君は何かに心狂わされている!見たらわかる、僕にはわかるのさ」
「えっ?!」
「それが何だかは知らないけど、見てる分に最高に面白いから、観察はさせてもらうよ。それじゃ」
「あっ待って…ぇええぇ…?」
自分は感情の出し方すら忘れていたのに、何かに狂わされてる?
自分はどうなってしまったのだろう。
「…」
なにもわからないまま、私は自分の胸に手を当てた。
鼓動が、優しく速く響いた。
淹れ終わった珈琲を部屋に運びながら考える。
明日は、どんな良いことがあるだろうか。
出来るならば、彼と一緒に。
黎明と慈雨 zank @zank_entabi
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