13.偶像
辿り着いたのは小さな寂れた小屋だった。
間違いない、この中に彼女はいる。
中には、顔を青くして項垂れた彼女の姿と見知らぬ男の姿が。
彼女と自身を隔てる鉄格子に手を掛ける。
「…誰ですか貴方、客はお呼びでないのですが」
「…そいつを放せ」
「ああ、助けに来たんですか。嫌ですよ、彼女は私の救世主なんですから」
「巫山戯るな」
「貴方はそこで立って見ていればいいんですよ。私達の間に入らないでください」
男が彼女の頬に触れる。ぞわりと身体が強い感情に逆立つ。手に籠る力は隔てる格子の前では無力だった。
その時、彼女が微かに目を開け、身を捩った。
「…っ…!たす、け…!」
「ああ駄目ですよ、不要な人間の名前を呼ばないでください」
抵抗する身体はいとも容易く組み敷かれる。彼女の赤い瞳が恐怖に滲んでいく。
「嫌、嫌!やめて!」
「ああもう、流石に煩いなぁ!」
抵抗をやめない姿に、痺れを切らした男が舌打ちする。
「お前は私のものなんだよ!」
そのまま、首目掛け一直線に注射針が刺さる。
「い、っ...ぁ」
紅玉の瞳が見開かれる。
その瞬間、俺の頭で、何かがぷつりと切れた。
「これでもう大人し......あ?」
安堵した男の顔に疑問符が浮かんだ時には、男の首はごとりと地に落ちていた。
続くように崩れ落ちる体。
鉄格子は鋭利な傷と力任せの曲がり方をしており、無理やりに、しかして的確に壊されている。
首のあった箇所から撒き散る血。残った無駄な体を足で床に蹴り落とす。
こんな穢れたものが、彼女に触れるな。
彼女の頬に返り血が付いているのに気が付く。直ぐにそれを拭き取り、項垂れていた身体を起こし抱きかかえると、彼女は泣きそうな顔をした。
「…ごめんなさい、本当に、ごめんなさい…」
「…」
「私のせいで、貴方を巻き込んでしまった…何も関係ないのに、私のせいで」
「…俺には、理解できない」
「え…?」
「お前が見てきたものも、与えようとしたものも、理解できない。生きる意味になるとは、思えない」
「…」
「…だが」
「…?」
「お前が消えた時、苦しかった。…もう、失いたくないんだ、何も」
「…!」
「離れないでくれ、消えないでくれ。他のことはどうでもいい。ただ、お前が、傍にいてくれればいい」
紺色の装備に包まれた身体は酷く華奢で、抱いている腕に力を入れたら、直ぐに砕けてしまうのではないかと思った。彼女の目から、一筋の涙が流れた。
「う、ぁ…」
「モークシャ、お前は誰にも渡さない。お前は俺のものだ…だから」
「…チェイス、ごめんなさい。もう置いていかない、消えたりなんてしないから…だから」
彼女の涙でくぐもった声が、今の自分には酷く温かく感じた。
そうして、彼女が薬で意識が途切れるまで、二人は暗い檻の中で、互いの鼓動を感じあっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます