12.崇拝
しまった、と思った。
まさか依頼書に空間のパスを繋ぐ魔術がかかっているとは。完全に予想外だった。
部屋で息を抜いている所を狙われてしまえば流石に追い払うことはできない。
更に連中、厄介なことに痺れ薬を使ってきたものだから堪らない。
少し抵抗を止める程度のつもりだったのだろうが、私はそういったものに耐性が恐ろしいほど無い。微量でも致命的なのだ。
そのまま昏倒してしまい、気付いたらこうして軟禁されていた、ということのようだった。
そこまで時間は経っていないはずだが、仲間はもう探し回っているだろうか。
迷惑をかけてしまっている、と自責の念が積もる。
足枷を付けられ地面に固定されてしまっているので、立つのすら厳しいうえに外の明かりすら見えない。目の前の鉄格子が現実を残酷に見せつけていた。
何故こんな風に…?
「ああ、目が覚めたんですね」
格子の鍵を開け、男が一人入ってくる。依頼人だった男だ。
「...」
「ああ、そんな怖い顔をしないでください。多少手荒なことをしましたが、もう急に襲いかかったりはしません」
「貴方、どういうつもり」
「そうですね...少し私の話をしましょうか」
彼はそう言うと、戸を閉め、微笑した。
「私昔失業して財産を失ってしまった時があったんですよ。生きる意味もどうでも良くなってしまって、ただただ街を行くあてもなく放浪してたんです。そんな時ですね、転機が訪れたんです」
男の顔が恍惚に染まる。
「ある女性が、私を救ってくれたんです!ああ今でも忘れません、あの姿はまさに聖女でした。彷徨う私に食べ物をくれ、私を光の元に連れてくれました。私に役割を与えてくれて、私の心の傷を埋めてくれた。あの人は絶望の縁にあった私でも愛してくれた。
…なのにあの人は私のことを見なくなった。私は悲しみに暮れました。そんな時に、貴方を見かけたんですよ。」
成程、おおかたの元凶は理解した。
アレもそういうつもりで接したわけじゃなく恐らくいつもの胸糞悪い遊びだろうが、やはり引き起こす結果は最悪だ。それに一度アレと関わった人間は大抵確実に精神がアレに囚われ破綻する。それはこの男も例外ではない。思わず顔を顰める。
「彼女と瓜二つの姿、貴方がいればそれでいい。貴方は私の救世主なのです。どうか、私とここに一緒にいてくれませんか?」
「…ここから出して」
「そんな訳にはいきません」
この様子だと話し合いは無駄そうだ。
「なら力づくでも…」
「と言うと思いまして」
「ぁ…っ?!」
首筋に鋭い点のような痛みが走る。この伝染する感じは、
「残念ながら私非力なので、薬を打たせてもらいますね。薬学得意なんです」
拘束されているうえに武器もない。まさに打つ手の無い状態だった。
意識が朦朧とし、身体の力が抜けていく。
誰か、助けて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます