11.追跡

駆ける、駆ける、駆ける。

木々を慣れた動きで潜り抜ける。

頬を掠めた葉など気にならない程に、自分は急いていた。









普段通り部屋にいた時だった。

突如物凄い勢いで扉が開かれる。

扉の先にいたのは顔面蒼白のエルサだった。

「ここにもいない?!じゃあ本当にいないじゃない!」

「...おい」

「ごめんなさいね怒るのもわかるのだけど!あんたモークシャ見てない?!」

「...?」

「...いないのよ、何処にも。それと、これは狩人族のあんたなら分かると思うけど」



「あの子の部屋、知らない人間の香りがするわ」





そのまま「あんたも一応関わり深かったんだから関係者」と彼女の部屋に連れていかれる。

狩人族はその種族性故に五感の感性が普通の人間より野生に近いものになっている。

慣れた人間の匂いなど嗅ぎ分けるのは容易かった。

「...この匂い、術の類か。転移系の」

「流石長の息子、話が早い。恐らく連れ去られたんだと思う。最近彼女、街場の依頼も受けてたから、厄介なのに目をつけられたかもしれない」

エルサは焦る息を一度落ち着け、言い足す。

「それと、彼女そういうの駄目なのよ。術とか毒とか。外因的に植え込まれるタイプの状態異常に」

「...不老不死なんじゃないのか」

「ああ、確かに不老不死なのだけど、それが逆効果みたい。死ねないし傷も治るじゃない?それで些細な効果でも逆にみたい。ここに来てからは薬作って貰ってそれで治してるけど、昔はずっと消えるまで何日も人目につかない箇所で、体が毒に慣れるまで寝込んで無理矢理治してたらしいし」

「そんな無茶な話が」

「あったのよ。今でこそあんな風に私達に接するけど、仲間になった当初はほんと、人形みたいに笑わないし、ただただ目的遂行の為に生きてます私、みたいな感じだったし。恐らく嘘じゃない」

「...」

「ああもうどうしましょう...まだ伝えてない仲間にも伝えなければなのだけど...」

「俺が行く」

「...は?本当に?」

「この程度なら追える」

「いやそうなんだろうけどさ...えぇ?あんた一人とか確実にみんな許さないけど」

「お前らの命令を聞く気は無い」

「あーはいはいそうでしたね!はぁ...止めても無駄なのわかるからこっちで話はつけとく、行ってきなさいよもう」

「...」

そのまま何も言わずに部屋を出る。

後ろから、言ったなりに責任取ってなんとかしなさいよ、と聞こえた。









そうして話は冒頭まで回帰する。

任務の話を彼女が部屋に来た際にしていたのを頭の端から引っ張り出し、情報と自身の感性を頼りに、たどり着いたのが、この森だった。


何故自分が急いているのかも分からなかった。

ただ自分の中のなにかが、奪い返せと警鐘を鳴らしている。

衝動が俺を強引に動かす。

抗う術は無かった。


無性に苛立ちが募る。何故だ、と舌打ちする。

当たり前の様に横にあった影が忽然と消えた事が、こんなにも俺を前に掻き立てるのか。

不可解だ。何も交わした物は無いというのに。



何も分からないまま狂犬は駆ける。





見失った灯火をもう一度灯す為に。

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