10.喪失
本当にお人好しだと思う。こうやって毎日何でもないような話をする為だけに此処に来るなど。
他愛も無い話ばかりだ。聞いた処で何の意味も為さない。
そんな話を常に聞き流していた。
「ほら、私、死ねないから。傷もある程度したら消えるし」
彼女は死なない、傷つかない。そういう風に生まれた、と言っていた。
それが自分だったらどれほどよかっただろうか。体中にある消えない拷問の痕も消してしまえるならば。
雨の音が嫌いだ。あの暗い部屋で聞いた耳障りな雨音だからだ。
身体の傷が嫌いだ。二度と癒えることの無い日々を思い出すから。
忘れられるなら忘れたかった。
でも毎日は否が応にも過去を俺に突きつける。
雨の日は体の傷が疼く。
辛い、苦しい、目を背けたい。
そんな中、たった一つの救いが欲しかった。
ただ、それだけだった。
この日々に正直言って意味はないと思った。
でも殺せなかった、裏切れなかった。
分からなかった。
何故か手が動こうとしない、それが分からなかった。
居心地の良さなんてそんなもの、馬鹿げている。
それでもこうやって自分はここでのうのうと生きている。
自分が分からない。
こんな単純なことでさえわからないほど自身は何かに搔き乱されていた。
そんな或る日、
モークシャが失踪した。
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