第十二話

「夏休みだー!」

夏休み直前のクラスの雰囲気はすでに浮かれた状態で、それと同時に楠喜多も浮かれていた。

「テンション高いなー」

「坂春、もう夏休みなんだ!楽しまないでどうする!」

楠喜多の目には力がこもっていた。

「そうだね……」ボクは苦笑いをした。

「しかし、この前お前暗かったのに、元気になったな」

楠喜多は笑いながらいう。

「もしかして会長との関係であったのか?」「この前、落ち込んでいたのは綾音も確かに関係なくないけれど彼女が原因ではないよ」楠喜多は瞼をパチパチと開いたり、閉じたりとボクを不思議な物でも見るかのようにみていた。

「へぇ~…………」

そういうと楠喜多は表情をなんだかいやらしい顔にしながら言った。

「なっ、なんだよ!?」

「いや、お前があれほど会長を名前で呼ぶの恥ずかしがってたのに、今になっては下の名前で呼ぶとは。まさか会長といいところまで行ったのか。教えろ、お前はどこまで行ったんだ。キスか?それともその先の果てまで行ったのか!?」

楠喜多はそういうとボクの首を絞めてきた。楠喜多はテンションが高くなると危ない人間だと分かった。

ボクは逃げようと必死になる。

「答えろよ、幸せもの!」

段々、首が絞まり意識がヤバい……。

「キ、キス……」

ボクは楠喜多にタップしながら言った。

楠喜多はボクの首から手を放す。

「キスしたのか……。うらやましいぜ、畜生!」

「げほ、だからって首を絞めなくてもいいじゃないか。楠喜多はどうなんだよ。例の子とは上手くいったの?」

「え~と、なんのことやら……」

楠喜多は目が空中を泳ぎ、冷や汗をかいていた。「楠喜多~!」

ボクは楠喜多にやられたことをそのままやり返した。

これがボクの日常。

いつもと変わらないやり取り。

いつもと変わらない風景。



────「しかし、お前さんたちも大変だよな」

三雲は一つアクビをする。

「何が?」

ボクは三雲をみる。

「あのとき黒い影を倒しておけば、こんなことにはならなかったのにな」

「…………確かに」

ボクは自分の非力さを反省する。

「まぁ、いいじゃないか」

会長はボクの肩に手をおき、三雲にいう。

「私たちといるのが長くなっていいじゃないか」

「そりゃ、そうだ……」

三雲はふっと鼻で笑う。

夏休みになってからの第一日目、我婁を待つボクら。

学校から近所にある大きな公園に場所を変えた。

ここならむき出しの地面だからいくら抉れても大丈夫だし、人は余り近づかないからうってつけの場所だ。

ボクらが話していると、ドンという重たい物を落としたかのような音がし複数の我僂が現れる。

そして奥には黒い影が冷笑をしながら立っていた。

「来たか……」

会長は袋にしまっていた木刀を取り出すと我僂たちを見据え、木刀を構える。

辺りはセミの鳴き声と木々が揺れる音だけが聞こえていた。

我僂たちは赤い眼をギラつかせながら、ボクらを睨む。

「我は守護するものなり!」

会長が叫ぶ。

「好きだよ、慶大」

会長はそう言い微笑む。

「ボクも好きだよ」

ボクは答える。

金色に光る月の下、会長は真っ直ぐ前を見据える。

見据える先には黒い影と我僂がいた。

喋る黒い猫。

得体の知れない化け物。

それを統率する漆黒の男。

これらがボクらの非日常。

終わらせることはできなかった。

非日常は続くだろうけれど、最初のときのような恐怖はなかった。

彼女がいるから───

立ち向かうこともできる。

そうボクは思い、叫ぶ。

ボクと会長は青藍色の光に包まれる。

「さぁ、始めるか!」

そういうと会長は非日常に向かって走り出した。

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