第八話

塵戟との戦いから数日。

激しい戦いの後、我僂は出てきたりしたが、それでも出現の回数が減っていた。

゛名もなきもの″は出現せず、手応えというものがいまいちわかなかった。

日常の中でも特に変化はなかったが唯一、学校では塵戟との戦闘の跡のことが話の話題に上がっていた。

グラウンドには塵戟の攻撃でできたおおきな穴ぼこが数個にわたり、あいていた。

やれ隕石が落ちただのやれ何かが爆発したとかだった。

結局のところ、グラウンドは補修されるまで使えなくなった。

原因はわかってはいたが、ボクは何も知らない顔でいた。

「しかしよ、坂春。二組の高岡がまさかあの女の子と付き合うだなんて思ってもみなかったぜ」

昼休み、ボクと楠喜田はいつものように雑談していた。

「そうだね、ボクも高岡は他の子と付き合うものだと思ってたよ」

「だよな、不思議なもんだな。多分、夏休み前だからな、高岡も彼女が欲しかったんじゃないのか?」

楠喜田とボクは笑う。

ボクはなんとなくこの前の話に出てきた話題をふってみた。

「楠喜田のほうはどうなの?」

「何が?」

「楠喜田と仲がいい子との関係」

「あ~、どうなんだろうな?」

「なんで?がつくんだよ」

「いや、この前も言ったようにオレ自身よくわかんないんだ。別に嫌いとかそういうのはないんだが、なんと言えばいいのか」

「付き合いたいとかそういうこと?」

「そういうのもあるんだが、今のままでもいいかなと」

「珍しいね、楠喜田が女の子のことにガツガツしてないなんて」

「坂春。いつオレが女の子にガツガツしてたよ!?それは誤解を招きそうな感じだな」

「いやよく、楠喜田が可愛い水着のお姉さんとか言ってたから」

「確かに言った記憶があるがあれは本心じゃないぞ!単なる話題だ!」

楠喜田は少し狼狽えていた。

「冗談だよ。狼狽えなくても大丈夫だよ」

「あ~、坂春に一本とられた気がするわ~。変に動揺しちまうからなぁ。そういうお前はどうなんだ?」

「なんにも変わらないよ」

そう、何も変わらない。ただボクの考えや心境は少しずつだけど変化している。

非日常に出会い、自分の無力さにうちひしがれて何かか見えた気がした。

「少しは変化しろよ~! 変化がないとつまらないぜ!」

「楠喜田がつまらないって言うのはおかしいよ」「わりぃ、わりぃ。でも会長とお前が付き合ってること知ってるのはオレだけなんだぜ。お前らの変化はオレにとって楽しみなんだ」「楠喜田……」

「何、しんみりしてんだよ? 男二人でしんみりしたら気持ち悪いだろ!」

楠喜田は苦笑いをしながら言う。

楠喜田に返す言葉を探したけれど、言えることは一つだった。

「楠喜田、ありがとう」

友人としてそういうことを言ってくれる楠喜田に感謝するしかなかった。

「礼なんてする必要はないだろ」

そういってまた彼は苦笑いをした。

ボクは彼が友人であることを誇りに感じた。「まぁ、会長が普通の奴と付き合ってるって知ったら確実に坂春殺されるな。会長は人気があるからなぁ」

「確かにね」

「そんな会長と、夏休みにどっか行ってこいよ。思い出になるぜ」

「余計なお世話だけどね」

そう言ってボクと楠喜田は笑った。


────今日も同じように我僂の出現を学校で待つ。

穴だらけになっていたグラウンドは元の状態に戻されていた。

「元に戻ってるな。しかし、私はそんなに塵戟の攻撃を頑張って回避していたのか」

会長はグラウンドのことで少し驚いていた。「それにしてもあの老人口調の黒猫はどこへいったんだ?」

「三雲なら用があるから二人で退治しろだってさ」

三雲は『オレは今日はちょっと調べごとがあってな、我僂ならば何もしないオレがいなくても、今の二人で簡単に倒せるだろう。』とだけ言い残し、どこかへ消えてしまった。

三雲が調べ事とは珍しいなと思った。

今、よく考えてみると三雲は三雲で素性がよくわからないんだよな。

「そうなのか。二人で少し待つとしよう」

会長は納得し近くの段差に腰を落とした。

「しかしこうやって二人っきりになる時間が多いのはいつ以来だ?」

「そうだね。久しぶりじゃないのかな」

我僂が現れてから時間は限られているとはいえ二人で帰ることはあるものの、三雲がいない状況で二人っきりになる時間は少なかったと言える。

ボクは会長の左隣に腰を掛ける。

「たまにはこういうのもいいだろ」

会長はクスッと笑う。

我僂が出現するのが少ないとはいえ三雲がいないと不思議な感じもする。

「確かにね。今まで我僂が出現してからあまり、そんなことなかったもんね」

「ああ、おかげで私は待ちどおしくて仕方がなかったがな」

そういうと会長はボクに寄りかかる。

久しぶりだからなのかドキドキしてしまう。会長とボクは黙ってしまった。

すこし照れ臭い感じがし、そんな気分をまぎらわせようと夜空をみる。

意外にも夏の夜星が綺麗だった。

ふと楠喜田が言っていたことを思いだす。

『会長とキスしたのかよ?』

意識してしまいそれが引き金となってさらにドキドキしてしまう。

しかも誰もいない真っ暗な状況。

今になると楠喜田のあの嫌らしい笑顔が憎たらしく感じる。

「慶大……」

会長がボクを呼ぶ。

会長のほうへ振り向くとと上目遣いでボクを見つめる。

「か、会長……」

会長は両腕片っ方ずつボクの服の両袖辺りを掴む。

そして会長はボクの顔に自分の顔を近づけるそして潤んだ瞳でボクをみる。

鼻の先と鼻の先がくっつきそうなほど近づいていた。

もうこれは、この状況は……。

「慶大……」

心臓のバクバクという音が聞こえる。

ボクはもうなにがなんだかわからなくなっていた。

頭の思考回路は働かず、理性が崩れかけていた。

「綾音ちゃん……」

ボクは会長の甘い誘惑に誘われ、会長の両肩を持ち自分の唇を会長の唇へと近づけようとする。

もうすべてがぐちゃぐちゃでただ頭の芯が熱くなっているのがわかった。

会長、好きな人との愛し合う行為。

これがもし楠喜田の言っていた変化ならばボクは───

「あ~、お兄ちゃん、お姉さん達がらぶらぶしてるよ、弥霞(ひさか)!」

「あっ、ほんとだねぇ、朝霞(あさか)!」会長と唇が重なる寸前、声がした。

不意な事に会長とボクはびっくりし、首だけ声のした方向に向ける。

そこには小さい子が二人いた。小さいと言ってもボク達と五、六歳くらい離れた見た目をしていて、双子なのだろうか、同じような顔と身長をしていた。

服の形は一緒だったが色は違っており、一方は緑色、もう一方は青色をしていた。

ボクと会長は直ぐ様、密着していた体を離しその子達のほうに体を向ける。

なんだか恥ずかしい気分だ……。

会長を横目で見ると顔が赤くなっていた。

「いいな、いいな」

「いいな、いいな」

双子達は片っ方一人が言うとエコーみたいに同じ言葉を繰り返していた。

「朝霞もらぶらぶしたいな」

「弥霞もらぶらぶしたいな」

双子達は実に楽しそうに笑いながら言う。

「こいつらは一体なんなんだ?」

会長は不思議そうな顔で言う。

「ねぇ、弥霞?」

「なぁに、朝霞?」

双子達は顔を見合せ、相談しはじめる。

二人とも顎の辺りに人差し指をおき首をかしげる。

「私たちもまぜて貰おうか?」

「まぜて貰っちゃおっか?」

二人ともパッと楽しそな顔に戻り、ボク達を見る。

その瞬間、二人に映像的なノイズが走る。

背筋に寒気が走り、空気が重たくなるのがわかった。

「まずい!」

ボクは会長をそばに引き寄せ、床に手をつき叫んだ。

「盾よ!」

同時にボク達の目の前でけたたましい音と共に爆発した。

白い分煙が立ち込める。

「危なかった……」

ボクは呟く。

あと一歩遅れていたら確実に死んでいた。

いきなり現れるのは反則だろ。

けどそんなことは言ってられないか……。

とにかく目覚めた力のおかげで助かった。

無力感を払拭できるだろうか?とにかく、やるしかないな。

「むー、むー、むー!」

うめく声が聞こえ自分の胸元を見てみると会長を抱き寄せていたのはいいが会長の顔ごと自分の胸に押し当てていた。

その為会長は息ができない状態だった。

「ご、ゴメン!」

ボクは直ぐ様離す。

「ぷはぁっ!はぁ、はぁ、バカァ!窒息死させるきかぁ!」

会長は苦しそうに言う。

「本当にゴメン!」

ボクは会長に謝り、あの双子のほうに目を向ける。「゛名もなき者″か……。塵戟より唐突にやるな」会長も気付いたらしく、立ち上がり木刀を持つ。

煙は少しずつ消え、双子達が立っているのがわかった。

「お兄ちゃん達、生きてたね、弥霞!」

「たね、朝霞!」

「黒のおじさんが言ってたとおりすぐに死ななかったね!」

「そうだね、そうだね」

「もっと楽しんじゃおう!」

「そうだね、もっと楽しんじゃおう!」

青い子がピョンピョン跳ねながら言う。

「わたしの名前は朝霞!」

緑色の服の子は一回ターンして言う

「ボクの名前は弥霞!」

「わたしたち!」

「ボクたち!」

「「二人合わせて、朝弥コンビで~す!」」この子たちもこういうテンションなのか。

塵戟も同じような感じだったけど。

テンションが低いのは゛黒い影″だけなのだろうか?

とにかくボクと会長は構える。

「「じゃあ、お兄ちゃんたち!」」

青い色の服を着た朝霞は服の袖の中からマジシャンみたいにそこには入らないはずの二メートルはゆうにありそうな矛を取り出した。そして緑色の子、弥霞は背中の辺りから大人一人分ほどもある大きさの厳めしい盾を取り出した。

「「いっくよ~~~!!」」

二人とも笑顔で言う。

弥霞は会長の方へそして朝霞はボクの方へと突撃してきた。

ボクと会長は別々の方向に逃げる。

会長は弥霞は大きな盾で会長に体当たりし、会長は青く光る木刀で受け止める。

ゴンという重たい音がする。

「お兄ちゃん、よそ見はダメだよ!」

朝霞は無邪気な声でボクに向かって叫ぶ。

ボクは戦えない為、この場合は逃げるしかなかった。

朝霞は三國志に出てくる猛者たちの如く矛を自由自在に操り、ボクに目掛けて突っ込んでくる。

「お兄ちゃん、遊ぼうよ!逃げてちゃつまらないよ!」

可愛い顔して無邪気に矛を振り回す。

ボクを殺すことに躊躇いというものがないらしい。

「慶大!!」

会長は弥霞の盾による攻撃を防ぎつつ、こちらを見て叫んだ。

「会長!」

ボクも逃げながら会長に向かい叫ぶ。

「「ダメだよ~お姉さん達だけでらぶらぶしちゃ! 朝霞、弥霞も混ぜてよ!」」

二人それぞれの攻撃が続く。

「これじゃあ、らちがあかないな!」

会長はくるしそうにしていた。

ボクは朝霞の攻撃を走って避ける。

せっかくグラウンドの整備が終わったというのに二人の攻撃で滅茶苦茶な状態になっていく。必死で走って逃げても反撃する手段が無いため、ボクにはどうしようもできない。

朝霞はボクを殺そうとピョンピョン跳ね飛びながら追っかけてくる。

「お兄ちゃん、つまらないよ!逃げてるだけじゃ!」

こっちは命がけというのに向こうは笑っていた。

会長も弥霞のほうに手こずっている。

クソ……!

せっかく力が目覚めたのに使える力が少ないなんて……。

また無力とか言って終わるのか?

それは嫌だな……。

ボクは走る方向を変えた。

「あり?お兄ちゃんどこ行くのかな?」

ボクは会長の方向へ走る。

会長は攻撃を回避しながら三歩ほど間合いを詰めて、弥霞に攻撃を仕掛ける。

しかし弥霞は盾の為、会長の攻撃をなんなくガードする。

「あはっ!お姉さん、おもしろい、おもしろい!」

「クッ、バカにしてるのか……?」

会長は苦虫を潰したかのような顔をする。

「会長!」

ボクは会長と弥霞の戦闘しているところに突っ込む。

「慶大!?」

会長はびっくりしていた。

弥霞も驚いていた。

「お兄ちゃん、すごいことする~」

弥霞は会長から目標をボクに変え、盾を前にし突っ込んでくる。

後ろからは朝霞が矛を振り回している。

ボクは会長の近くにまで走る。

会長の目をみて合図する。会長は気付くだろうか?

「お兄ちゃん、朝霞だけじゃなくて弥霞とも遊びたいんだね!」

そう言った瞬間だった。朝霞は真横に吹き飛んだ。

「朝霞!」弥霞は叫んだ。

「遊びで殺す気か!今度は私が相手だ!」

会長が走ってきた朝霞に飛び膝蹴りを食らわした。

多分、塵戟の真似したのだろう。

作戦は実行出来たみたいだ。

会長は木刀で相手を攻撃するため弥霞のような防ぐ相手とは戦いにくい。

ならと思いボクは会長の相手を変えてしまったほうが早かった。

弥霞は止まらずにボクに突進してくる。

「盾よ!」

ボクは叫び、弥霞の突進をガードする。

ボクの少し手前で弥霞は固い壁にぶつかったようにガキンという音がし止まった。

「あり?」

弥霞はなんでと言わんばかりに首を傾げる。「無理だよ。君の攻撃は盾で突撃することでしょ。ボクは盾で防ぐことしか出来ないから君の攻撃は効かないよ」

ボクは弥霞に凄んでみるが気にしてなさそうだった。

弥霞は突進するのをやめて構えたままボクを見ている。

正直、足が震えてる。

ここから逃げ出したいけど絶対にそれだけはダメだ。

「お兄さんが白き巫女さんだったんだね~。じゃあ、朝霞と戦ってるのは守護者っていうまもるひとなんだね」

弥霞はものすごく嬉しそうにいう。

「黒のおじさんが言ってたよ。アイツらは強いから手を抜くなって!でもお兄さんはそんなに強くないんだね」

真っ正直にそこまで言われると結構、凹む。会長の方をみる。

会長と朝霞は剣と矛、リーチさはそれぞれ違うが二人とも互角に戦っていた。

「私の至福の時間を壊した罪は大きいぞ!」「あはは!お姉ちゃん、怒ってるぅ!」

「このー!!」

戦っているというよりはジャレあっているといったほうがしっくりくる。

ボクは弥霞の方へ視線を戻す。

「お兄さん、もっと楽しもうよ!ボクともっと遊んで!」

無邪気で可愛いらしくていいんだけれど、躊躇いがない攻撃をだすこの子たちが見せる表情にはゾッとする。

ボクは万策尽きてしまった。

どうしよう……!?

そのときふと思い出した。

『巫女は守護者の強化をすることが役目だからな』

三雲が言っていた。

この前の塵戟の時もそんな感じだった。

これしかないな……。

ボクはもう一度かけだした。

「お兄さん。同じ手は食わないよ!」

弥霞はジャンプし上から落ちる速度を利用しボクに向かい攻撃しかけてきた。

なんとかギリギリでよける。

「あっ、はずれた~!」

ボクは残念がっている弥霞を後に会長の目の前まで走る。

ちょうど、会長と朝霞の距離が離れる。

「慶大!何しているんだ!?」

「会長、目を閉じて!」

「なにを言ってるだ?」

会長は不思議そうな顔をする。

「いいから!」

ボクは息をきらしながらいう。

「朝霞!」

弥霞は盾を持ち直し此方へ突っ込んでくる。「弥霞!」

朝霞も矛を持ち直し突撃してくる。

「「お兄さん、お姉さん、天誅!」」

朝霞、弥霞は嬉しそうに叫ぶ。

それと同時にボクは右手を開いた状態でだし「光よ!」と叫びながら手を握る。

右手から太陽より明るき白い閃光がでる。

辺りが一瞬だけ明るくなる。

そのすきに少し離れたもの影に隠れる。

光が止むと二人はキョロキョロしていた。

「「お兄さんたちが消えちゃったよ?」」

「慶大、無茶は止めてくれって……」

「しっ!」

ボクは会長の口を塞ぐ。会長は黙る。

「ボクに案があるんだ」

ボクは会長から手を離す。

「案ってなんだ?」

「会長には悪いと思ってるんだけどもう一度、ボクを信じて戦ってくれない?」

「いつでも私は慶大を信じてるよ。それがどうしたんだ?」

「いや、この前の塵戟と戦ったとき会長はたくさん傷ついた。前にもいったけどボクは会長に傷ついて欲しくない。けど悔しいことにボクには、彼らに対抗する力がない。だから会長に頼るしかない。だからもう一度……」「もうわかった。私は慶大を守る役目がある。そして慶大は私に力を与える役目がある。ただそれだけのことだ。だから私は私自身ができることをやるよ」

会長は微笑む。

やっぱり彼女は強いなと感じた。

「ありがとう、会長」

守られてるだけじゃなく、ボクも彼女の見えない何かを守っているのだろう。

ボクは会長にお礼を言った。

そして物陰から出る。

「「あっ、いたー!!」」

二人はボクらを指さす。

「慶大、私はいつでもいけるぞ!」

ボクは会長の言葉に頷く。

会長は木刀を正段に構え、叫ぶ。

「我、守護するものなり!」

木刀が青く発光する。

「「お兄さんたちは、まだまだやる気満々だね!」」

二人は公園で遊んでいる子供と変わらない笑顔でいう。

「朝霞」「弥霞」

二人は互いに呼びあい、武器を構える。

「会長、ありがとう。ボクも頑張るから」

確かに無力感は拭えないかもしれない、けれどボクは彼女を護るんだ!

「我、滅する者なり! 悪しき魂を持つ者を滅ぼさん!」

ボクは叫んだ。

それを合図に会長は二人に向かって走りだした。

「「あはは!お姉さん、楽しもう!」」

弥霞と朝霞はそれぞれの武器を構えて会長へと攻撃を仕掛けようとする。

まず弥霞がダッシュで突進をしかける。

それに続いて朝霞が突きを繰り出す。

会長はその攻撃を見越していたのかジャンプする。

普通の人では届かないほど高く空中に浮く。「はっ!」

会長は弥霞に向け、木刀をふる。

ふった瞬間、木刀から青い半月状の斬撃が飛んだ。

「うわぁ!?」

弥霞は驚き盾をすぐに真上にむける。

半月状の斬撃は盾に当たるとゴンと重い音をがし消える。

弥霞は斬撃が当たった衝撃で膝をつく。

「弥霞!」

朝霞は叫ぶと真上を見上げ、落下してくる会長に向かい矛を突く。

しかし、会長はかわすように横に回転し朝霞に向かい突きを出す。

朝霞の肩辺りをかすめるが服が破れただけ以外、外傷はなく、会長を矛で薙ぎ払う。

会長は飛ばされるが空中で体勢を立て直し、地面に難なく着地する。

そこに弥霞は躊躇なく盾で突撃をかける。

会長はサイドステップで素早くかわす。

さらに追いかけるように朝霞は矛で会長を攻撃。

一突きするとさらに突く。

会長はスウェーの要領で攻撃を回避し、距離を図る。

塵戟の時と同じように戦う。

そこにまた弥霞が盾を使い突進する。

彼女は弥霞の攻撃も回避する。

そこからは同じように会長と朝霞、弥霞との激しい攻防がつづく。

会長は二人同時にしても怯まない。

「「お姉さん、強いから面白い!」」

双子は実に楽しそうにしている。

会長は距離を取りつつ斬撃を飛ばす。

二人は外見に似合わない素早さでかわす。

会長の力を上げても塵戟のときみたく簡単にはいかない。

「もう終わらせてやる!」

それでも会長は不適に笑っていた。

「「できるかな~!」」

双子は笑っていた。

朝霞と弥霞は会長に襲いかかる。

会長は斬撃を二人にむけ、飛ばす。

二人は飛んでかわす、しかし会長は朝霞に蹴りを入れる。朝霞はもろにくらい吹き飛び、地面に叩きつけられる。

そこに弥霞は会長へ突撃する。

「同じ手が二度もつうじるかぁ!」

彼女は弥霞の攻撃を避け、回し蹴りでとばし、弥霞も床叩きつけられる。

双子は痛みで顔を歪めた。

「「痛~い!」」

双子は鏡合わせのように立ち上がる。

会長は二人に左右挟まれるような状態になった。距離が離れてるとはいえ、危険だ。

「お前らの力は二人でこんなものか?あまり大したことないんだな」

会長は肩で息をしながら意地悪そうに笑い、二人を挑発する。

「お姉ちゃんだって辛そうじゃん」

朝霞は頬を膨らませていう。

「そうだ、そうだ~!」

弥霞も同じようにする。

「私はひとりだぞ」会長は言い返す。

「「そんなの関係ないもんね~」」

双子は二人してあかんべえをする。

「もう怒ったもん!こんなお姉さん倒しちゃおう!」「うん、そうしよう!弥霞!」

二人は同時に会長に向かい会長を挟むようにあらかぎりの力で突撃する。

「「たぁあああああああああああああ!」」二人の怒号が重なる。

二人の攻撃が会長を挟もうとしたとき──


「お前ら、《矛盾》って言葉しってるか?」会長は空高く、跳躍した。ギリギリのところだった。

目標を失った二人はお互いの攻撃でぶつかりあい、二人の武器は粉々になった。

矛は盾により。

盾は矛により。

───破壊された。

激しい衝突音が辺りに響く。盾は矛の突きにより砕け、矛は盾により折れた。

二人は尻餅をつく。

「お前ら、子供の姿の奴らを倒すのは忍びない」会長はそういうと木刀を振り上げる。

二人は直ぐ様、上を見上げる。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」会長は叫び、木刀をふった。

さっきよりも大きい斬撃を飛ばす。

二人が避けられないほどの大きさだった。

青く輝く閃光を放ち二人をあっという間に飲み込んだ。

同時に会長は少し離れたところに着地した。閃光が止むと二人の姿は消え、二人がいた場所には青い炎が少し燃えていた。

「勝った……」会長は青い炎を見つめその場に座る。「会長!」ボクは駆け寄った。

「慶大。勝ったぞ……」会長は笑う。

ボクは会長を抱きしめた。

「けっ、慶大!?」

「良かった……」

ボクは会長を強く抱きしめた。

自分から提案したとはいえ、不安だった。

しかし、この不安が何からくるものなのか、自分でもよくわからなかった。

けれど会長が無事で良かったと思った。

それが正直な気持ちだった。

「慶大……。痛いよ」

「ごめん」慌てて会長をはなす。

「でも本当に良かった。綾音ちゃんが無事で」「慶大のおかげさ」

「そんなことないよ……」

「いや、慶大が力を貸してくれなければ私は負けていたかもしれん。だから慶大のおかげだよ」

会長は笑う。

「ありがとう……」

ボクはそう言いまた会長を抱きしめた。

「け、慶大!」

また会長は恥ずかしそうにいう。

そして会長もボクの背中に手を回す。

「…………」

「…………」

数分、言葉もなく抱きあっていた。

「そろそろ行こうか……」

「そうだな……」

ボクは立ち上がり、会長を立たせる。

そのとき会長は何かを思い出したような顔をし、ボクを見てから頬を膨らませた。

ボクは気になり、聞いてみた。

「どうしたの?」

「なんでもない」

会長はプイッと横をむく。

どうしたんだろう? まぁ、またこんど聞いてみよう。

「なぁ、慶大」

帰ろうと支度をしているときだった。

会長は突然、質問してきた。

「何?」

「〔名もなき者〕って、何人いるんだろうな?」「何人いるんだろうね。三雲は具体的な人数は言ってなかったけど……」

「まだ他にいるんだろうか?」

ボクと会長は少しだけ黙った。

考えてみると我縷は大量に出現するが、名もなきものが今まで出現したのは三人だけ。

「三雲が帰ってきたら聞いてみよう」

「そうしよう」

会長が答えた時だった───

安心していたボクと会長に本当の脅威はいつのまにか目の前にいた。

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