第4話

そして翌日。

朝起きると体のあちこちが痛かった。

今日、愛車(自転車)がないためバスで行くしかない。

朝食をすまし、学校へ行く用意をすます。

玄関で靴をはき、家を出る。

これが日常、あんなことがあったとは思えなかった。

あれが嘘であってほしいけど……。

「よう、昨日は眠れたか?」

この一言でボクは現実に引き戻される。

「おはよう、三雲」

三雲は尻尾をヒラヒラさせていた。

「三雲はずっと、そこにいたの?」

「まさか。お前さんの大好きなお嬢ちゃんが学校へ行くのは見掛けたがな」

三雲の話によると会長はボクが出る前に出たみたいだ。

多分、部活の朝練だろう。

家は近いが会うことは少ない。

まぁ、ボクは邪魔にならなければいいか。

「オレはお嬢ちゃんに奴らのことを説明してないが大丈夫なのか?」

三雲の首の鈴が鳴る。

「大丈夫だとボクは思うけど。 後で報告するんでしょ」

「ああ」

「昨日から気になってたことがあるんだけど」 「なんだ?」

「我縷って何体ぐらいいるの?」

「腐るほどいるさ」

「腐るほどって……」

「率いているのは゛黒い影″だからな。 奴を封印しなければ大量に出てくるな」

聞かなきゃ良かった。

「まぁ、焦るなよ。 その内、お前さんの力もちゃんと使えるようになるだろうし、すぐに奴らを倒せるさ」

励ましてくれてるみたいだ。

学校の方向に向かうバス停まで歩き、ボクはバスに乗る。

三雲とは放課後までのお別れだ。

しかし、゛黒い影″に殺されかけたときと我縷に襲われたときの感覚は一体なんだったのだろう?

思い出そうとしても思い出せない。

なんだか胸の奥がチリチリしているというか……、のどの所になにかが引っ掛かっている。 あの時の感覚を言葉にしたいんだけど表せない。

ふとバスの窓から見える風景にはピンク色はなく、緑の色が街を染めはじめていた。

次第に自分の心の中で何かが膨らんでいるのにはこの時のボクには気がつくことはできなかった。


学校に着くと昨日の戦闘の跡に生徒が群がっていた。

「よう、慶大(けいだい)!」

この呼び方をするのは楠喜多のみだ。

「おはよう、楠喜多。 確かに字は同じだけどボクはその呼び方はあまり嬉しくないよ」楠喜多はニヒヒと笑う。

「失礼、失礼。 わかってるよ。坂春、知ってるかあれ?」

関与しているのでそこはあえてシラをきる。「知らないよ。 なんであんなに群がってるのかも」

「そりゃそうか。 来たばかりなのに知ってるはずないもんな。 なんでも小さいクレーターがあるとかないとか誰かが言ってたな」確かに朝学校に来たら小さいクレーターがあったらびっくりするだろうな。

我縷は会長が倒すとすぐに消えたからボクらしか知らない。

「そういや、坂春」

「何?」

「今日も一緒じゃないんだな。」

「仕方ないよ。 朝は剣道部の朝練で大変だからね」

「そうなのか。 じゃあ、休日くらいだなお前らがイチャイチャできるのは」

「イチャイチャはしないって。 ラフな関係だよ」

「本当に付き合ってるのか怪しいよな、そうなると。 まぁ、オレは別にいいんだけどよ」

そういうと楠喜多はさっさと行ってしまった。

本当に楠喜多は自覚しないでボクの痛い所にトゲをさしてくるというか……。

ボクだって会長と一緒にいたいさ。

だけど、会長にだって会長のプライベートがあるんだ。

だからボクはあまり内面に干渉しないようにしてるんだ。

それでいいと言ってくれているから。

果たして本当に彼女はそう思っているのだろうか?

小さい頃から一緒にいるが彼女の内の一番、深い奥をみたことがない。

ボクは本当に……?

「坂春、何してんだ遅刻すんぞ!」

楠喜多がボクに呼びかけた。

自分の考えに没頭するのをやめる。

「わかった! 今行く!」

考えるのはあとだ。

そう思いつつ、気になることがおおかった。そしてボクはこんな考えをさせた楠喜多にローキックした。


「よしわかった! 私が慶大を守ればいいんだな!」

部活が終わった会長の所に三雲と一緒に行き、かくかくしかじか細かいことを話すと会長はなんなく納得した。

「まぁ、お嬢ちゃんが奴を守ってやればなんとかなるだろう」

「三雲とやら。 一つ気になっていたことがあるんだが」

「なんだ?」

「私が慶大を守る役目だということはわかった。 しかし、慶大が力に目覚めなければ私は力を使えないということか? そうなると昨日は良かったがこれからはどうなる?」

「大丈夫だ。 昨日の力はお嬢ちゃん自身の力だ。 だから坂春はいるだけでも少しだがお嬢ちゃんの力を底上げしてくれる」

「ようは慶大と一緒にいれば楽勝ということか。 よし、慶大。 必ず私が守るぞ!」

会長の自慢のポニーテールが揺れる。

女の子に守って貰う男もそうそういないとおもうけど、なんだか複雑だった。

「ありがとう、会長」

ボクはそれだけしか言えない。

そう、それだけしか言えないんだ。

「しかし、お嬢ちゃん。 ゛黒い影″と遭遇したらかならず逃げろよ。 今のお前さん達には敵う相手じゃないからな」

「わかっているさ。 そんな無謀なことするほどバカじゃないさ」

会長はいたずらっぽく笑いながら三雲を両手で抱える。

三雲はちょっと不機嫌そうに見える。

「私は負けないから大丈夫だ」

会長は自信満々にいう。

それを聞いた三雲は一つ息をし、「それは頼もしいな」といいアクビをする。

「とにかく゛黒い影″意外の奴なら倒せるかもしれん。 それに我縷の襲撃も昨日だけではすみそうにない」

またあんな奴らに命を狙われるとなったら気がおもたくなった。

「まぁ、気をぬかないようにしておけ」

三雲の言った通り、我縷の襲撃は二日に一回のペースで続いた。

そのたびに会長は戦い、ボクは殺されかける。

命がいくつあっても足りないし、命を守る力さえ無いに等しい。

会長ばかりが傷つき、守られてばかりボクはどうしようもない無力感を味わっては会長に詫びばかりしていた。

しかし会長は「慶大が謝る必要はない。 慶大を守ると決めたんだ。 このくらいなんともないさ」と笑っていた。

その言葉にボクはなんとも言えない感情を覚えた。

そしてまた日常と非日常とが絡み合いながらも一ヶ月が過ぎ、季節は本格的な夏に入ろうとしていた。

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