第三話
───学校に着いた時には、午後七時四十分を越していた。
学校の門の近くに自転車を止め、学校の中へはいる。
夜の学校はすでに学校の中の電気は大体、消えており化け物が出るに相応しい不気味な雰囲気になっていた。
「マズいな……」
「どうしたの三雲?」 「我縷が何体かいるな……。 襲ってきたら無事ではすまないことだけは頭に入れておけ」
我縷を見たこともないのに頭の中で恐ろしい想像してしまい、三雲の言葉がボクの恐怖心に拍車をかける。
「わかった」
ボクはそれだけ言う。
「さて、行くか」
まず初めにボクと三雲は学校の敷地にある剣道場を目指す。
ボクの高校にある剣道場は入り口である門から校舎三つを挟み敷地内の一番奥にあたる場所にあった。
会長は部活での練習が終わっても剣道場に残り、自己練習を欠かさずしていて、自己練習などすべてを終わらせるのは大体、八時すぎだった。
今日も練習をしていると思っていたが、ボクの予想は外れてしまったみたいだけだ。
「遅かった……」
すでに剣道場の電気は消え、誰もいないことを示していた。
「ここには居ないみたいだぞ。 どうする?」
「どうするって言われても……」
ポケットから携帯をとりだし、電話かける。「……………。……………。」
頼む、繋がってくれ!
「…………。 どうした、慶大?」
繋がった!
「会長!」
ボクはほっとした。
しかし、まだ無事だとは言えない。 近くには我縷がいる。
「もしもし、会長! 会長!」
「どうした、慶大? そんなに慌てて?」
「会長は今、どこにいるの!?」
「私か? 私は学校の中だが……。 今は第三校舎の近くだが」
ボクは急いで辺りを見回す。
第三校舎は剣道場に近い!
学校の中は街灯がなく、辺りは真っ暗だった。
見えない……!
どこに……?
もう一度あたりを見回す。
そうすると五十メートルほど離れた暗闇の中に小さな灯りがちらつき、人影が見えるいていた。
あれは多分、会長だ……!
「慶大! おい、慶大? もしもし?」
受話器から会長の声が聞こえたが、受話器を耳から離し、ボクはさけんだ。
「会長!」
シルエットは此方を向いたように見える。
ボクは直ぐ様、そのシルエットになった人影に向かってダッシュした。
「慶大! どうしたんだその格好は!?」
会長はボクを見るなり、そう言った。
ボクは会長に近づくと無事に会えたことが嬉しくて抱きしめる。
それと同時に会長の竹刀袋が地面に落ちる。「け、慶大?」
会長はボクの行動に困惑していた。
ボクは会長を離すと肩を持ち会長を見る。
「会長! ケガはない? 何か変わったことはあった?」
「い、いや……。怪我もないし変わったことも無かったぞ。 私より慶大の方がボロボロじゃないか」
そう言われ、自分の体を見ると制服が砂ぼこりなどで汚れていた。
「はは。 確かに会長の言う通りだ。 会長!」
「はっ、はい!?」
「とりあえず早く逃げよう! ここは危ない!」
竹刀袋を拾い、会長の手をとり走りだそうとする。
しかし会長はボクを止める。
「何を言ってるんだ!? 慶大、説明してくれ!」
「ちゃんと説明するから!」
「何があったんだ?」
「説明してられないよ、今は逃げないと危ないんだ!」
「だからなんで!?」
「お前さん達、言い争いはそこまでにした方がいいぞ」
足元から声が聞こえた。
「えっ?」
「えっ?」
会長とボクの会話は三雲の声に遮られた。
そのとき暗い闇の中にさっきと同じようなノイズがおこる。
今回は痛みは無いものの、この感じは気持ち悪い。
会長も何か感じているみたいだ。
「これはなんだ!?」
「安心して激しい痛みになるけどすぐに治まるよ」
心臓の鼓動が速くなる。
冷や汗が額から顔に垂れる。
感覚でなんとなくわかった。
「遅かったみたいだな……」
三雲は呟く。
約数メートル離れたところに何かが立っていた。
それにはノイズがかかっていた。
しかし、゛黒い影″ほどの重圧はないが緊張感が漂う。
暗い闇の中に赤く小さい光が二つ。
手に巨大な何かを持っていた。
よく見ると、指の先に巨大な爪がついていた。
馬のような顔が長く、口には鋭い牙が着いていた。
魂を喰らうはずなのになんであんな暴力的なんだよ。
もう一目だけで化け物だとわかる。
我縷は肩を少し上下している。
多分、三雲が言う魂の匂い。
それでボクらがいたのがわかったのだろう。我縷は動かず、ボクらをジッと見て動かない。 「慶大……? あれはなんだ……?」
会長はすでに回復し、奴を見ていた。
「あれが我縷だ」
三雲が言う。
会長はそれにびっくりしていた。
「猫が喋った!?」
「同じ反応すんなよ。 驚くのはまた後だ、お嬢ちゃん」
三雲は崩れたいい方をしているがしっかりと我縷を見据えていた。
「ヤバいぞ、坂春。 今すぐ逃げろ!」
ボクが走り出そうとしたとき我縷が吼えた。「ゴァァァァァァァァァァァァァァァァ!」我縷の叫びで辺りが震える。
「耳が……!」
「ぐぁぁ……!」
「いきなり、吼えやがって!」
会長とボクは耳を塞ぎ、三雲は苦しそうだった。
逃げなければ……!
ボクらはひるんでしまった。
その瞬間に我縷はジャンプした。
何をするきだ?
まさか……!?
「やばいっ、綾音ちゃん! 三雲!」
会長達にタックルした。
ボクらは少し離れたところに倒れる。
ボクの予想は的中した。
けたたましい音と共にはボクらがいたところが爆発した。
我縷はその真ん中に立っていた。
地面は小さなクレーターになっていた。
かわしていなければ、死体になっていた。
ボクらは思っいきりダッシュする。
学校の門へと急がないと!
もう体は疲れていたがまだ動けるとふんばり会長の手を引き走る。
「慶大! あいつは一体なんだ!?」
「さっき帰る途中、変な男に遭遇したんだ。 突然、その男にボクは殺されかけた」
ボクは焦っている頭で会長に説明する。
「なっ!?」
「死にそうになったところを、そこにいる三雲に命を助けてもらった。で、男がボクを殺そうとしたのには理由があって、ボクは白き巫女の魂っていうのを持っているらしいんだ!会長もそれに関係してるんだ!」
「私がか!?」
「そう!だから今、襲ってくる奴も関係があるんだ! 奴は我縷! 魂を喰らう化け物なんだ!」
我縷が追ってくる気配がないが、急がなければ殺られる。
恐怖で全身が震える。
「三雲!」
「なんだ!?」
「我縷を止められないの!? さっき、゛黒い影″を止めてたやつで!?」
「無理だ! さっきので力が少ししか残っていない!」
三雲はボクらに並んで走る。
三雲もダメなのか!
「ボクらは奴を倒す力を持っていないよ!」「わかってる! だから逃げているんだろう!」
門まで約数十メートルというところだった。ボクらは気を抜いていた。
我縷は走るボクらの目の前に上から現れた。最悪なことに右に校舎、左に学校の回りを囲む壁に挟まれ退路は一つだけになる。
「ハァァァ……」
我縷は息を深く吐きボクらを睨む。
「くそっ、戻ろ……!?」
来た道にはもう一体、我縷がいた。
ボクらの退路をふさいでいる。
そんなのありかよ……!
ピンチばかりだ。
今日はついていないみたいだ。
「どうする、坂春? 絶対絶命だな」
三雲は言う。
そんなこと言われなくてもわかってる!
くそっ、もう終わりなのか!?
膝がガクガクしてまともにたってられない。最初に現れた我縷がボクらに近寄る。
目を見ると、感情がこもっておらず、ただ飢えた獣としての輝きはあった。
それが逆に不気味でそして気持ち悪くてボクはもうまともに動けない。
我縷が右手を振り上げる。
右手の巨大な爪が空に向けられる。
───会長がいるのにやっぱりボクは男として情けない。
力があれば、奴らを倒す力があれば、こんなくだらないことにはならないんだ。
もう何がなんだかわからなくなっていた。
だからもう終わりなのか……?
好きな女の子を助けることも出来ずに、大切なことを見つけ出せないのに……。
ボクは力が欲しい。
奴らを倒す為の───
我縷の右手が降り下ろされた瞬間だった。
二体の我縷はそれぞれ、引っ張られるように後ろに吹き飛んだ。
「何が……!?」
「慶大! お前の体が光ってるぞ……!?」
ボクは自分の体を見る。
薄い青色に光っていた。
「お前さんの力が目覚めたんだよ」
「そうなの、三雲!?」
「そうだ。 だが詳しく説明してる暇はない! まだ我縷は生きてるぞ」
吹き飛んだ我縷達は起き上がっていた。
「お嬢ちゃん。 お前さん、アイツの武器になってやれ」
「やっぱり、喋る猫は不思議だ。 猫にお嬢ちゃんなど言われるのは初めてだ。 で私はどう戦えばいいんだ?」
会長は三雲に詳しく聞いていないにも関わらず、冷静になっている。
「お嬢ちゃん、お前さんの木刀を持て!」
「それだけでいいのか?」
会長は素早く自分の竹刀袋から木刀をだす。「そしてこう言え、゛我、守護する者なり″と」「わかった」
会長は一言だけいうと我縷を見据える。
そして木刀を右手に持ち、こう言った。
「我、守護する者なり」
会長が持っていた、木刀の刀身に当たる場所が薄い青色に輝きだす。
「これは一体なんだ!?」
「お嬢ちゃん、お前さんの武器だよ。 それで我縷を倒せる」
「わかったよ」
会長はそう言うとしっかりと木刀の先を我縷の方に向け、正段の構えをする。
ボクは会長から離れたところで後ろの我縷を見ていた。
どうにもこうにもボクはビビって動けない。こんな化け物を目の前にして怖がらないとはどんな感じなのだろう。
二体の我縷が同時に動き、前後から攻めてきた。
前後の我縷は、腕をボクらにむかい振り下げる。
「今だ!」
待っていたかのように三雲が会長に向かい、叫ぶ。
会長はそれに従い、素早く振る。
相手の爪はアスファルトを抉るほどの強度を持つのに対し、会長は木刀だ。
さっきから変な光がでてるが何の役に立つのだろう?
勝てるはずない。
「綾音ちゃん!」
そう叫んだときだった。
会長は二体の我縷の爪を木刀で斬り裂いた。「なっ!?」
ボクは驚く。
会長は木刀で硬い物を斬った
「ガァァ!」
爪を切られた我縷達はうめく。
「まだ我縷は生きてる! それで奴らを斬れ!」
会長は三雲の言葉に一つ頷き、我縷に向かい駆け出す。
「三雲、会長は何をしたの?」
ボクは三雲に聞く
「何もしてないさ、ただ斬っただけだ」
「斬っただけって……、それじゃ、説明になってない」
「あ~、言葉の通りさ。 さっき言ったろ、守護者は武器を使うと」
思い返してみるとそうだ。
「確かに」
「不安定だがお前さんの力が目覚め、お嬢ちゃんは力を使えるようになり、木刀を媒体として力を使ってるんだ。 ただお嬢ちゃんに自覚はないがな」
そういうことだったのか。
会長は二体同時に相手をしていた。
我縷の攻撃をかわしつつ、我縷一体との距離をつめていき、もう一体との距離をはかる。かわしたら、
近くの我縷がもう一方の爪で攻撃をしようと腕をふりかぶる。
会長は隙を見逃さなかった。
「はっ!」
素早く懐に入り、木刀で我縷の首を右真横に一閃した。
我縷の首が飛び、頭を失った体からは黒っぽい血が勢いよく吹き出す。
そして地面に倒れる。
青い火に包まれ、跡形もなく消えた。
会長は肩が上下に揺れていた。
すかさず残ったもう一体の我縷が攻撃を仕掛ける。
我縷は左手の手刀で、真っ向から会長を突きにいく。
会長は左足を軸にし、回れ右のように一回転し我縷の手刀をかわしつつも、木刀を真横に振った。
我縷の首はなくなっていた。
そして突っ込んだ勢いでそのまま前に我縷は倒れ、青い火に包まれる。
俊敏な我縷を会長はいとも簡単に倒してしまった。
普段の会長の身体能力も高いけどなんであんなにいきなり動きがよくなったんだろうか?「力の影響で普段の身体能力が底上げされたんだろう」
三雲はアクビを一つする。
「あのお嬢ちゃんは元々の身体能力がいいから更に動きにキレがある。 それにお嬢ちゃんは冷静だからあそこまでの動きができたんだ」
ボクには不思議だった。
なぜ会長、いや綾音は初めてだというのに。今日出会ったばかりのわけのわからない目の前の現実に、死ぬかもしれない恐怖に。
何故、彼女は受け入れられるのか?
なんで恐れないのか?
我縷に襲われかけた時、会長は躊躇なく他の立ち向かった。
彼女は自分だけでなく、三雲、ボク、彼女は全員のことを考えその行動に出た。
それに比べ、ボクは自分のことだけ考え、気付くとこんな風に地べたに座り込んでいる。情けないし、自分が嫌になる……。
そんな風に自分を自嘲していると会長がふらふらしながら戻ってきた。
「慶大。 大丈夫か?」
彼女は少し微笑みながら言う。
会長は学生服のブレザーには我縷の血が少し着き、腕の部分が破けていた。
「ボクは大丈夫だよ。 変な光も消えたから。会長のおがげだよ」
「そうか……、良かった。 おい、そこの黒猫」
「なんだいお嬢ちゃん?」
「慶大が襲われた理由と白きなんとかの説明を、」
そこまで言うと会長は真後ろに倒れた。
「会長!?」
ボクは会長に駆け寄った。
会長は寝息をたて眠っていた。
「寝てる……?」
「初めて力を使って大幅に体力を消耗したんだろう」
「そっか……」
「とりあえず、今日はここまでだな。 早く切り上げないと他の奴らが来るな」
「そうみたいだね……」
遠くで残っていた職員の声が聞こえた。
急いで会長を抱え、学校の外
ボクは会長を背中におぶり会長の家まで送り届け、家路に着いた。
多分、明日、学校では噂になってるだろうな。 それに自転車は学校においたままにした。
「明日にはお嬢ちゃんが目覚めるだろうし、お前さんもゆっくりしておけ」と言い残し三雲は途中で何処かへ消えた。
会長を迎えにいくという約束はこのような形になった。
初めてボクと会長はこの時、意味のわからないモノたちに出会い。
ボクは自分の心に何かを覚えた。
そんなこんなで始まりの一日は終わった。
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