第583話向こうの様子と思わぬ訪問者(ウイリアム視点)
「はぁ、一体何が起きているのか。向こうの状況は報告してもらっているが、こうも何も分からないのでは、私達にできることなど」
ユーキ達が消え、そしてアンドレアスがユーキ達がいると思われる、彼等の里の近くに出現した、大きな森を覆うほどの結界の中へ入ってから、どれだけ時間が経ったか。向こうでエシェット達が、どうにかその結界を破ろうとしてくれているが。どうにも上手くいっていないようで。
時々ルトブルとくろにゃんが、向こうの状況を知らせにきてくれている。そして彼等、アンドレアスの仲間も何人かこちらへ来て、我々に手を貸してくれているが。
ユーキが攫われて以降は、向こうもこちらにも、霧は一切発生していない。攫われる者も出ていないようで、ユーキを攫ったために、それが落ち着いたのではないかと。
そしてエシェットはとりあえず、ユーキを攫った者はユーキを殺す事はしないだろうと言ってきた。何故そんな事が分かるのかと聞けば、妖精王や他の時同様、ユーキの力を求めていたのではないかと言うのだ。
詳しい話しを聞く前に、そのユーキを攫ったであろう人物により。時間がないと言われたことと、アンドレアスが森の事には慣れているという事で、アンドレアスだけが、何とか中に入れたらしい。
そしてその人物は…。エシェットも初めて会う精霊だと。中で何が起きているのか、ハッキリとした事が分からないまま、結局今に至っている。
「あなた! 向こうはどう?」
勢いよくドアを開けてオリビアが部屋へ入ってきた。それとほぼ同時に、ルトブルがくろにゃんと共に戻ってきて。ルトブルは私達を見ると顔を横に振った。
「…そう。まだ中へ入れないのね」
オリビアが気を落としながらソファーへ座った。
『腕は中に入るのだがな。それ以上が』
『俺も中に入れないか、何回も魔法を使っているんだが』
『エシェットは?』
『かなり魔力を使っているが、エシェットの魔力でも。あのような物、我は初めて見た。それと、やはり中から他の気配もする。そう、あれと同じような気配だ。完璧に同じではないが、それと複数の人間の気配も』
あれ。あれとは妖精の国で黒服達が使っていた、あのさまざまな魔力石を使い、新しく作り出された魔力石の事だ。どうもその石と同じような気配がすると、エシェットが言っているらしい。
と言うことは、やはり今回のことは、やはりあの黒服達が関係しているのか。全く一体奴等は何をしようとしているのか。最初のユーキの事件とボルフィスの事件以来、少しの間奴等は静かにしていたのに、最近また動きが活発になって来ている。しかも狙う物が…。
『我等はこのまま結界を破ることに集中する』
「ああ、頼む。私はもう少し別の所から…」
その時、アシェルが部屋へ来た。ドアの外で聞くアシェルの声は、彼にしては珍しく、急いでいるようで
「旦那様、エルフの里から使いの方が。それと、オルガノ様をお乗せになった馬車が、今街に外門に到着されたと連絡が」
「オルガノ殿が!? 分かった! すぐに仕度を。すまないがルトブル、彼等の方はオリビアと一緒に話しを聞いて来てもらえるか?」
『分った』
「ルトブル、私は挨拶をしたらすぐに行くわ」
『では先に話しを進めておくぞ』
「ええ。それで良いわ」
どうして今オルガノ殿が? そう思いながらも、もしかしたら向こうでも霧が発生していて、私たちの街の事を知り、その話しをしに来たのか。色々な事を考えながら、すぐにオルガノ殿を迎える準備をし、玄関前でオルガノ殿を待つ。オルガノ殿を乗せた馬車は、すぐに屋敷へと到着した。あれは?
確認すれば、オルガノ殿に馬車の後ろに、特別な荷馬車が。一般の市民が見ればただの荷馬車に見えるだろうが、この荷馬車は他の荷馬車と違い、特別な魔法が施されていてる。
荷馬車の端の4か所に魔力石が埋め込まれていて、それに所有者の血を与え、それと合言葉を唱える。するとその人物しか荷馬車を開けられないように結界を張れるのだ。開けるのは再び血と合言葉を使う。合言葉はその時その時で魔法を使う者が決める事ができる。
ただこのような馬車を所有している者は限られ、実を言うと私の父が、陛下より1台頂いている。久しぶりに見たが、このような馬車を使わないといけない程の何かを持ってきたのか?
馬車から降りたオルガノ殿にすぐに挨拶をする。
「ようこそお越しくださいました」
「突然の訪問ですまない。だがどうしても確認したい事があってね。それにしても…、何かあったのか? 市民は普段通りの生活を送っているようだが。それでも少し街がざわついているようにも」
「霧の事でおいでになったのでは?」
「霧? …やはり何か問題が起きているのか」
とりあえず中へ入って頂こうとしたが、あの荷馬車をどうするか。そう考えていたら、中の物が今回私のところへ来た理由だと。すぐにオルガノ殿が荷馬車へ近づくと魔法を解除し、付いてきていた騎士達が、中からまぁまぁ大きな箱を出してきた。
そしてそのまま私達は客室へ。オリビアは挨拶を済ませるとルトブル達の元へと向かった。
ズンッと重さを感じさせる音を立てて、テーブルの上に箱が置かれる。持ってきた騎士達はそのままドアの前で待機させることに。
「さて、まず話しを始める前に、ユーキ君をここへ連れてきてほしいのだが」
「ユーキをですか?」
困った。私とアシェルの様子にオルガノ殿が聞いてくる。
「…ユーキ君に何かあったんだね。やはりそうか」
そう言ってきたのだった。
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