第500話突然のお別れ

「フィオレート、あしたかえる?」


「ええ。明日帰るのよ。大切な用事ができたの。だから今日は帰る用意をして、明日じぃじのお家に帰るのよ」


 ボルフィスから帰って来て5日目。最初フィオレートは、まだまだずっと僕のお家に居るって言ってました。今までいっぱいお仕事してたから、まだまだいっぱいお休みだったんだ。でも今日の夕方お母さんが、急にフィオレートが帰るって言ったの。


 僕達はそれを聞いてすぐにリリースの所に行きます。リリースはお馬さんの小屋のお隣りに、新しく小屋を作ってもらってそこに居るんだ。

 それで小屋に行った僕達は、すぐにリリースにもう会えないか聞きます。お家に帰って来てから、僕達に攻撃を教えてくれてたんだ。明日も教えてもらうお約束してたの。それから別の日にはリク君も遊びに来て、一緒に教えてもらうお約束してました。


『ごめんなさいね。とっても大切な用事なのよ』


 リリースもお母さんが言ったことと、同じ事言いました。僕達しょんぼりです。教えてもらえないのもしょんぼりだし、急にリリースとバイバイもしょんぼり。


「ユーキちゃん、みんなも。お仕事だから仕方ないのよ。お仕事が大切なのは分かっているでしょう。お兄様はきっとお仕事が終わったら、また遊びに来てくれるわ。だから明日はきちんとさようならをしましょうね」


 う~ん。フィオレートはどっちでも良いの。僕達はリリースとバイバイがしょんぼりなの。僕がそう言ったら、みんなもねぇって。それ聞いてお母さんもお父さんも困った顔して笑ってました。


 夜のご飯になって、何処かに行ってたフィオレートが帰って来て、最後のご飯を一緒に食べます。それから窓を開けて、リリースはお外だけど一緒に食べて。僕達は最後だから、みんなのデザートの果物、1個ずつリリースにあげました。


 本当はさようならとありがとうの、プレゼントあげたかったんだけど。でも帰るって聞いたの夕方だったでしょう? だから準備できなくて。みんなでお話し合いして、デザートをプレゼントすることにしたんだ。リリース、とっても喜んでくれたよ。


「ご馳走様」


「あら、もう良いのですか?」


「ああ、ちょっと準備に手間取っていてね。せっかく最後の夜だから、オリビアやユーキ達とゆっくりしたかったのだが、先に失礼しますよ」


 そう言って、先にご飯を食べ終わったフィオレートが、お部屋から出て行っちゃいました。その後お母さんとお父さんも先にお部屋から出て行っちゃって。何かみんなバタバタ。せっかく最後のご飯なのに。でも良いもんね。僕達はリリースとゆっくりご飯を食べるもんね。


      *********


「お兄様」


「オリビア来たのかい? すまないがこのままで話をするよ」


 私とオリビアがお義兄さんを追って客室に行くと、そこには書類が散らばっていて、そして他の荷物も散らばっていた。明日帰るとは思えない散らかりようだ。それだけ緊急という事か。


「それで一体どうしたのですか?」


「動きがあったようなのでね。それを調べに行かなければ」


「ガーディローのことですか?」


「ああ。連絡が来てね。まだ確証はないが、重要人物が消えたらしい」


 やはり獣人の国、ガーディローについてのことだった。冒険に行っている最中に聞いた、あの内乱が起こるかもしれない、それについての重要人が消えたのだろう。


「彼らだけに任せても良いのだけれどね。やはりここは私が行った方が、確実だろうと思ったんだよ」


「内容が内容ですからね。お兄様のあの話が本当ならば、他の国にも影響が」


「そうだ。だから私が行って潜入した方が確実だろう」


 お義兄さんは明日の朝早くオリビアの実家に戻り、お義兄さんの部下数人とともに、ガーディローへ向かうらしい。


 オリビアは忙しく動くお義兄さんを見ながら、決して手伝うことなく話だけをする。この散らばっている書類。これにどれだけの情報が記されているか。

しかしそれを見ることは許されない。これはお義兄さんの仕事だからだ。お義兄さんが手伝ってくれと言えば別だが。

 

それにもし片付けを手伝い、書類の中身を見たとして。私達はその内容を外へ漏らすことは絶対にないが。

 絶対に? そう、私達は絶対にないと思っていても、何かの拍子に、自分でも気づかないうちに、その情報を漏らしてしまったら? ほんのちょっとの漏れが、何か重大な問題につながりかねないのだ。

 

 それを分かっているから、オリビアも私も手伝う事はしない。お義兄さんもそのつもりで片付けをしている。が、この散らかりよう。明日までに片付くのか?


「お兄様」


「何だい?」


「何故いつも、こう散らかすのですか? きちんと整頓していれば、明日と言わずに今日の夜には戻れたのでは?」


「私はこれが落ち着くんだよ」


「ですがこういう時に、すぐに動けないではないですか」


「…君は年々、母上に似て来るね。まぁそれは良いとして。頼みがあるのだけれど。くろにゃんとモリオン、どちらでも良いのですが、明日私を家まで送ってもらえないですかね」


「はぁ、分かりました。聞いてきますね」


 オリビアが部屋から出て行く。ユーキはオリビアから話を聞いて、お義兄さんが大切な仕事で帰ることを知っているからな。くろにゃん達に送ってくれるよう、お願いしてくれるだろう。などと考えていると。

 聞きに行ったオリビアがすぐに戻って来た。そして私が考えていた通り、ユーキがくろにゃん達にお願いしてくれて、くろにゃんが送ってくれることに。


 それからお義兄さんの片付けは、朝方まで続いた。

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