第405話最後の戦い(エシェット視点)
「さて、そろそろかの」
「ずいぶん時間がかかったね。僕、もっともたないかと思ったよ」
「あの男の復讐心が、それほど大きいものだという事じゃろう」
「あいつ生き残るかな?」
わしは自分の手の中にある石を見る。今までにないほど魔力が溜まっている。これではあと少しの命じゃろう。
「この前生き残ったら次の実験に回すと言ったがのう、無理そうじゃ」
「ふーん、ま、でもそれだけ、僕が使うときは安全になるって事だもんね。実験されてる姿が見れないのはつまらないけど、新しい力を使えるから良いかぁ」
「ほれ、フラフラするんじゃない。行くぞ」
わしの後ろをビジターが鼻歌を歌いながらついてくる。アブラム達が戦っている場所から、今までに感じた事のないくらいの力を感じるのに、それを感じているはずのビジターは、全然緊張していない。普通こういった場所に初めてきて、これだけの力を感じれば、不安を感じ倒れてもおかしくないんじゃが。
鼻歌を歌いながら、周りまで気にする余裕があるとは、将来がますます楽しみじゃ。
この様子では、もう妖精の国を手に入れるのは無理じゃろう。まぁ、今回は実験がメインじゃからな。同時に妖精の国が手に入ればと思っとったが。とりあえずわしの実験は成功しそうじゃから良いかの。
さぁ、すべてが終わったら、すぐに報告に向かわなければ。お待ちになられている方々が山ほどいる。そして孫を紹介し、孫の力を知ってもらう。この石を使えば、元々魔力の強いビジターだ。すぐに戦力として使っていただけるだろう。そして将来的には…。
ふふふふ、今から楽しみじゃわい。
「じぃ、これで今回の石は完成? まだ直すの?」
「一応完成じゃが、お前の体のためにも、日々のメンテナスはかかせん。アブラムと同じ目にあいたくなければな」
「そうか。ま、でもじぃがそれは何とかしてくれるんでしょう?」
「ああ、わしに任せろ」
さぁ、すべてを終わらせに行くかの。
*********
目の前にはアブラムの他、ほかの空間から駆け付けた、黒服と冒険者達が玄関ホールへと集合した。アブラム達を前に、我とマシロ、ルトブルと妖精王が並ぶ。本当はすぐにウイリアム達を家に帰すことを考えたが、それは止めた。
今更だが、変な力を使っている黒服達の仲間が、ユーキ達の家に来ていないとも限らない。我らが一緒に帰らず、もしウイリアム達に何かあれば、ユーキが悲しみのあまり、また体に変化が起きてしまう可能性もあるし、1番はユーキが悲しむ姿を見たくないのだ。
城を覆っていたあの陣による結界がなくなった今、そしてユーキに貰った魔力が尽きないうちに、一気に奴らを倒す。そしてユーキが笑ってここへ戻って来れるようにしなければ。
今ディルがウイリアムの怪我を治している。ウイリアムが終わったらジョシュアの怪我を治すように言っておいた。最初ウイリアムはジョシュアを先に治させようとしたが、ウイリアムの怪我はかなり酷いからな。もし何かあればユーキが悲しむぞと言えば、大人しくディルの治療を受け始めた。
「ユーキが帰って来るまでにすべてを終わらせるぞ」
「ああ」
「もちろんだ」
「私もたっぷり魔力を分けてもらったからね」
「我らがユーキから貰った魔力、無駄にするなよ。一気に決めるぞ!!」
じりじりと我らと奴らの間が詰まってくる。そして最初に動き始めたのは、後からここに集まって来た者達だった。そちらはマシロとルトブルに任せている。マシロ達が飛び出した。結界のなくなった今、ユーキの力を貰った我らにかなうものなどいない。一瞬で向かってきた半分の者達がマシロ達に倒される。
それを確認すると、我と妖精王はアブラムの元へ。奴も我らの元へ飛び出してきた。
先程からアブラムの様子がおかしかった。ずっとブツブツ何かをつぶやき、だが我らを見るその目は、本当に人間かと思うほどに殺気をふくんでいた。
そして奴の体には、奴が身に着けている赤い石から、禍々しい闇の力が溢れだし、それが体に絡みついている。あれで奴は平気なのか? あれだけの力、普通の人間ならば、意識を保っていられないはずだ。
最初の攻撃を避け、妖精王と我は二手に分かれると、アブラムを挟み撃ちにするように攻撃する。我らの攻撃を一瞬で避けるアブラム。そしてすぐに次の攻撃を放ってくる。
「どこだ…」
何だ? なんと言っている?
「何故いない、どこへやった…」
何をブツブツ言っているんだ? と、突然アブラムが大きな声をあげた。
「何処へやったあぁぁぁぁぁぁっ!!」
何の話だ? アブラムは叫ぶとより一層強い攻撃を仕掛けてくる。目があり得ぬほど血走っている。
「あのガキを何処へやったぁぁぁ!! 言え!!」
そうか。先程からブツブツ言っていたのは、ユーキのことを言っていたのか。軽くマシロから話を聞いたが、かなりユーキに執着していたようだからな。ユーキが消えて頭に血が上り、あの赤い石の力が、暴走仕掛けている状態か。
「あのガキをだぜ!! 捕まえて俺の奴隷にしてやる…いや、殺してやる!!」
「あいにくだが、ユーキが帰って来る頃には、お前はもうこの世に居ない。さっさと消えてくれ」
我と妖精王もユーキに貰った魔力をフルに使い、攻撃を強める。そして、その攻撃がついにアブラムにあたり始めた。
そんな中、我らの所にマシロとルトブルが駆け付けた。向こうは完全に倒したらしい。
「もう皆生きていない。後は外でまだウロウロしている連中と、アブラムだけだ」
「外の連中など、大した敵ではない。いいか、これが最後の攻撃にするぞ」
全員で魔力を溜める。奴も魔力を溜めているが、我ら全員の力には到底及ばない。そして…。
ドガガガガガアァァァァァァッ!!
我らの攻撃がアブラムの攻撃とぶつかり、そして奴の魔法を吹き飛ばし、我らの攻撃がアブラムに直撃する。
大きな爆発とともに、城に大きな穴が空いたのが分かったが、すぐに煙で何も見えなくなった。我らはすぐにウイリアム達の所に戻り結界を張る。
そしてしばらくして、煙が収まって来ると我らの前に、ありえない光景が。アブラムがボロボロに血をだらだら流しながら立っていたのだ。
「あいつは人間か」
ルトブルがつぶやく。我もそう思った。もうあいつは人間ではないだろう。腹に穴も開いているんだぞ。そしてその穴を石の闇の力が塞いでいっている。
「ハハハハハ、ハハハハハハハ」
奴が笑い始めた。頭までおかしくなったか。リュカ達が我らの近くに来ると、気持ち悪い、早く倒してと。危ないから動くなというのに。が、確かにリュカ達の言う通りだ。回復が追いつく前にもう1度攻撃を。そう思い、皆が攻撃の体制に入った時だった。
「ぐっ、何だ!? があぁぁぁっ!!」
急にアブラムが苦しみ始めた。が、回復はされ続けていて、腹の穴は半分までふさがって来ていたのだが、突然赤い石から先程よりも強い闇の力が一気に溢れだし、アブラムを包んだ。
あまりの力に近づくことができない。何なんだ一体。何が起きているんだ?
「があぁぁぁぁぁ!! があっ!?」
さらに苦しみだすアブラム。と、それは急に始まった。腹の穴がふさがって行くとともに、奴の左腕が溶け始めたのだ。奴の表情が歪み、苦しんでいた声が絶叫に変わる。
右腕がすべて溶けたところで、お腹の穴がすべてふさがり、奴はその場に倒れ込んだ。
「ぐっ、があぁぁぁ、力が…!?」
そこに新しい気配が近づいてくるのに気づき、我がマシロ達に戦闘態勢に入れというと、あまりのことに止まってしまっていたマシロ達がすぐ態勢を整える。
「ほう、まだ意識を保っておられましたか」
奴のすぐ側に奴と同じ黒服を来た老人と、ずいぶんと若いアンソニーくらいの男が現れた。
*********
『ユーキ、起きて』
『そろそろ起きないと遊ぶ時間なくなっちゃうよ』
「うにゅうぅぅぅ」
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