第404話魅かれ合う者達、1番の幸せ(ルディー視点)

 僕がみんなの所に戻ったら、ルーカスはやれやれって表情をして、アシュリーはフルフル震えだした。そしておもむろに僕の方に歩いて来たと思ったら、思いっきり僕の顔を叩いた。


「な、何するのさアシュリー!?」


 僕は叩かれた頬をさすりながらアシュリーに怒る。


「あなたは、今私が大事な話をしようとしたときに、なんてふざけた格好で戻って来るのよ!」


「だって、仕方ないじゃないか。もとはと言えばアシュリーが僕の髪をあんなにしたから、もとに戻そうと思って、僕だって頑張ったんだよ。だけどさ…」


 だけどどうしても、僕のいつもの綺麗でつやつやでサラサラの髪に戻らないんだよ。もうこのまますぐに戻らないなら、この髪型もユーキ達は喜ぶかと思って、そのまま戻って来たんだ。


 と、ユーキ達の方を見たら、ルーカスがユーキ達を抱っこしてて、ユーキが寝てたよ。何? また具合でも悪くなったの?

 聞けばマシロ達の応援と、魔獣達とたくさん遊んだから、少し休ませてるって。何だ、ビックリさせないでよ。また僕が何かしたかと思ったじゃないか。


 今回のあの黒服達の事件。僕達が手を貸したり、何か時の流れを変えちゃうようなことはしちゃいけないんだけど、今回ばかりは僕達の大切なユーキの魔力の暴走を止めないと、ユーキの命に関わったからね。

 前回の海の時はなんとかユーキの家族が止めてくれて、ユーキも無意識に魔力止めてたけど、今回は変に意識があった分、止めるのに苦労したよね。だってユーキは止めるつもりでも、全然魔力が言う事を聞かないんだもん。


 それに僕の加護が、奴らの変な力で歪んじゃって、ちゃんと発動しなかったし。本当はまだ小さいユーキにあんまり強い加護は付けたくないんだよ。体に負担がかかるから。でも、もうそんなことも言ってられないし。ユーキが帰る前に、もう少し強い加護をつけなくちゃ。


 大体向こうの世界で事件が起き過ぎなんだよ。僕達の思っていなかった事件が、各地で起きてる。ユーキの周りだけじゃない。ウイリアムの友人のザクスのお兄さんを助けに行ったのだって、あんな大規模な魔獣の暴走が起こるはずなかったし、そう言った予想外の事件が、各地で起きてるんだもん。

 ほんとあの世界で何が起きてるのか。


 僕がいろいろ考えてたら、アシュリーに考えを読まれてて、今はその話じゃないのよって。今はって大事な話でしょう? ユーキの未来に関わる事なんだよ?


「確かに大事な事よ。ユーキが私達の所へ来れるかは、あの世界でのあの子の生活が関わってくるのだから。でもこれもとても大切な事なのよ」


 そう言うとアシュリーがユーキ達の所に戻って、ユーキに抱っこされてる、うさぎとルーリアを抱き上げると話始めた。


「あなた達、ここからユーキの世界へ生まれ変わる?」


 僕はその言葉にかなりビックリしたけど、いつも表情を崩さないルーカスも驚きの表情を浮かべていた。


 だってアシュリーがこんな事いうなんて。

 ここに居るアシュリーの友達だって言った動物や魔獣達は、あまりに澄んでいる魂を持っていた為に、世界の悪意に耐えられなく亡くなってしまった者達だ。

 アシュリーはそういう子達をここに集めて、悪意に染められてしまった魂を浄化し、彼らに心の安らぎを与え、来世への道を開けるようにしている。


 魂が浄化され、安らぎが訪れた者達はその時が来ると、自然と次の段階に移行する。その子達にあった世界へと送られ、新しい命として生まれ、そこで幸せに暮らす。

 そう自然と運命は廻って行くんだ。僕達は安らぎをあげるだけで、その転生には手を貸さない。だって自然が1番だから。


 でも僕もルーカスも時々手を貸しちゃうんだけどね。それでアシュリーに怒られて。アシュリーはこういう事は時間をかけて、その時が来るまでは絶対に何もしない。もし手を貸して無理に何かを進めようとして、あの子達がまた傷ついたらって考えてるんだ。それなのに…。


 まさかアシュリーからあの子達に生まれ変わる? 何て聞くなんて、思いもしなかったよ。

 それまで寂しそうにユーキの方を見ていたうさぎとルーリアが、パァ~と表所を明るくさせてアシュリーの方を見た。


『僕達、もう生まれ変われるの!?』


『ボクと一緒にここに来た子達、みんなもう生まれ変わっちゃって、ボクちょっと寂しかったの』


「本当はもう少しだけ、あなた達にはここ居て、心を休ませてもらいたかったけど、このままユーキと別れて、心の落ち着きがなくなってしまったら、転生はもっと遅くなるわ」


 それに、と続けるアシュリー。もしこのままこの子達がユーキと別れたら、ユーキに会いたいばかりに心が休まらず、さらに転生の時期が延びちゃうかもしれないって。

 確かにアシュリーの言ってることは正しいかも。休むはずのこの場所が、かえってこの子達に負担になるかもね。でも…。


「でもね、これだけはきちんと分かっておいて。生まれ変わっても一瞬でユーキの所へ行けないのよ。あなた達の生まれる場所はそれぞれ違う。そんなあなた達を私達がユーキの所に導くの。どのくらい時間がかかるか、それは私にも分からない。すぐかもしれないし、ずっと後かもしれない。ただ、転生をここで待って、それからユーキの所へ行くよりも、私が送ったあげた方が、それだけ早くユーキに会えるわ。私のお話分かる?」


 2人が真剣なまなざしでアシュリーの顔を見ながら、こくんって頷く。それからユーキを見つめて。


『僕、ユーキにすぐに会えないかもしれないのは嫌だけど、でもここで待ってるより、早く会えるんでしょう? だったら僕やっぱり生まれ変わりたい』


『ボクも。少しでも早くユーキに会いに行くの。それでユーキと契約して、ずっと一緒に居るんだ。いっぱい遊ぶんだよ!』


 ニコニコアシュリーに向って笑う2匹。アシュリーも笑って、2匹をユーキの膝の上に戻す。2匹は最初ユーキの膝の上でしょんぼりしていたのと打って変わり、すぐに気持ちよさそうに微笑んだまま、他の子達と一緒に寝始めた。


「アシュリー、本当に良かったの? 完全に元気になるまで、って言うのがアシュリーじゃなかった? いつも普通に転生の時期が来た子にさえ、大丈夫ってかなり心配して引き留めようとするのに」


「魂が惹かれ合う者同士なら私が心配したところで、そんなに待たないうちに、勝手に2匹はどうにかして、転生しようとするでしょう。なら、少しでも早くユーキ達が出会う事ができるようにしてあげるのが、私達の役目。でしょう?」


 ユーキの頭をそっと撫でるアシュリー。


「みんなの幸せが、私の喜びよ。さぁ、この話はおしまい。今度はあなたの話よ。私考えたのだけれど…」


 アシュリーがある提案をしてきた。僕だけがユーキに加護を与えないで、みんなで加護を与えないかって。変に強力な加護を与えるよりも、その方が体の負担がすくなくなるかもしれない。

 それにいろんな加護があった方が、今僕達が分からない何かが起きている世界で、いろいろな物からユーキを守れるんじゃないかって言ってきた。


「確かに、アシュリーの言う事もあるな。今度ルディーが強力な加護を与えたところで、また上手く発動しないかもしれないし、もしそうなった場合、俺達の加護がユーキを守る」


「でしょう? ルディーの加護信用できないのよね」


 2人共酷くない? 僕の加護はちゃんとしてるよ。まぁ、最初の時は僕が失敗したけど、今はちゃんと加護付けてたのに、何でだか分からないけど発動しなかったんだよ。

 でも確かにアシュリーの言う通り、たくさんの加護があった方が、いろんなことに対処できるよね。


「…もうすぐ、向こうが終わりそうだぞ、どうする?」


 僕はちょっと考えた後頷いた。そんな僕を見てみんなも頷く。


「決まりだな。良し、もう少ししたらユーキを起こそう。最後にみんな少し遊びたいだろうからな。その間に俺達が加護を与え、向こうが片付きしだい、ユーキを帰そう」


「ええ」


「ユーキ、起きたら僕の頭喜んでくれるかな?」

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