第400話ユーキを助けるために(エシェット視点)

 妖精王が奴らの陣を破壊してくれたおかげで、我らのいる空間の壁もさらに薄くなり、ようやく我らが通れるだけの隙間が、空間の壁にできた。これでようやくユーキの元へ行ける。

 急いでくろにゃんの周りに集まり、急いでユーキの元へ移動しようとしたときだった。


「!!」


「どうした?」


「ユーキが不味い!! くろにゃん急いで移動するぞ!!」


「何だって!!」


「分かった!」


 急いで全員でくろにゃんにユーキの所へ運んでもらう。向かった先で我が見たものは、ユーキとマシロが特別な結界に包まれていて、マシロのしっぽに包まれてユーキが眠っている姿だった。

 我の後ろでピュイを治しながら、チラチラユーキを見るディル、心配で結界の周りに集まるリュカ達。ウイリアムもユーキのことを呼ぶが、怪我に気づいたオリビアに止められた。  

 

 ルトブルがアブラムと戦う中、この結界も、今のユーキの状態もかなり不味い。まさかとても幼い今のユーキが、これほどの結界を張るとは、さすがの我も予想していなかった。

 そしてこのあふれ出る魔力。このユーキが認めた者しか入れない結界を張るのには、相当な魔力を使う。それなのに、結界に魔力を使うだけでなく、このまま魔力を溢れさせ続けたら、確実にユーキは命を落としてしまう。急いで止めなければ。


 我に、ユーキが作り出したこの特別な結界に入れるか? 今まで我が生きて、やってきた事の中で、おそらく1番難しいのではないか? しかし我がやらなければ。他に誰がユーキを止められる? 待っていろユーキ。必ず助けてやる。

 我は集中し、結界の中に入る事だけを考えた。アブラムの方はルトブルと、ユーキに力を貰った妖精王に任せておけばいい。


 結界の壁、どこでもいい。どこか薄いところはないか? 前、横、上と順番に確認していく。

 …!! あった! ユーキのいる斜め横の辺り、その辺が少しだけ周りよりも結界が薄い。我はそこへ移動し、結界に手を触れる。


 バチバチバチッ!! 


 かなりの衝撃に、我の体が軽く飛ばされてしまった。そして体は傷だらけだ。だがそんなことは気にしていられない。こんなもの後でディルに治してもらえば良いのだ。

 我はすぐに結界に近づき、もう1度、今度は先程よりも力を込めて、結界に触った。中に居るユーキに衝撃が伝わらないように。すべての衝撃を我に集めるように。


 少しすると。我の手が結界の中に入り始めた。良し、これなら。さらに力を込め中に入ろうとすると、ずずずずずっ。なかなかの勢いで結界の中に入り始めた。ふう、我の力をほとんど使ってしまった。だがこれで。

 ようやく体全体が結界の中に入った時には、我はフラフラになっていた。体もぼろぼろだ。


「エシェット、大丈夫か」


「ああ、我のことよりも今はユーキだ。だが、我の予想以上に、我は力を使ってしまった。予定では我だけでなんとかなるはずだったのだが。良いか、マシロ。お前はユーキに声をかけ続けろ。我はユーキの力をどうにか抑え込んでみる」


「分かった」


 それからどれだけ時間が過ぎたのか。実際にはそんなに時間は経っていなかったが、我にはとても長い時間だった。そして短くも長い時間は、ユーキを最悪な状態へと向かわせてしまい。


「くそっ、やはり今の我らではどうすることもできないか」


 今にも我のすべての力が付きかけようとしている。そしてユーキの命も。


 我は目を閉じ、深呼吸をした。周りにウイリアム達がいる今、あまりこのことはまだ知られたくなかったが。


「エシェット、お前が何を考えているか分かっている。おそらく今の状況も分かっているだろう」


 目を開けマシロを見る。マシロの表情で、今マシロが考えていることが本心でないことは、すぐに分かった。できるなら自分の側で、自分たちの力でユーキを救いたいのだ。しかし、今の我らの力ではユーキは救えない。

 2人で頷き、マシロは少しでも外に声が漏れないようにと、風魔法を我らの周りに展開する。その後すぐに我は、マシロのしっぽごとユーキをギュっと抱きしめ、我の後にはマシロが、しっぽでユーキをギュっと包んだ後、ユーキの顔に自分の顔を擦り付ける。


 そしてそれを見届けた我は、大きく息を吸い込んだ。


「見ているのであろう!! お前の加護はこんなものなのか! まったく役に立たんではないか!! ユーキを救えない我ら自身にも腹が立つが、もうそうも言っていられない! 少しの間だけ、お前達にユーキを預ける。ユーキを選び、この世界へ送ったのはお前達だ! 今すぐユーキを助けろ!!」


 そう我が言った瞬間、ユーキを強い光りが包んだ。そしてその光りが消えると、結界は消え、今までマシロのしっぽに包まれていたユーキの姿は消えていた。ユーキをちゃんと連れて行ったようだ。ホッとした。

 

 しかし…。我らの周り、ルトブル達が戦っている音は聞こえるが、その他の音、いや声がしていない。少しの沈黙のあと、オリビアが悲鳴に似た声で、ユーキの名前を呼んだ。


「ユーキちゃん!!」


 我らの所へ走り寄って来たウイリアム達。ウイリアム達は何が起こったか分かっていない。分かっているのはルトブルと妖精王くらいだろう。今までここに居たユーキが消えたのだ。ウイリアム達が慌てるのは当たり前だ。

 ウイリアムは駆け寄った姿勢で、最後はふらふらと我の所へやってくると、我の胸ぐらをつかみ、


「ユーキは、ユーキはどこだ!!」


 と、怒鳴って来た。


「大丈夫だ。心配するな。今ユーキは1番安全な場所に移動しただけだ。こちらの事がすべて終わるころには、ユーキも帰って来る」


「だからユーキは、何処に行ったかと」


 我はウイリアムのことを突き放す。よろよろと後ろに下がり、尻餅をつくウイリアム。ディルが急いで我の方に飛んできた。ピュイの治療が終わったようだ。ピュイを見ると、顔色良く、静かな寝息を立て寝ていた。良し、ピュイはもう大丈夫だな。


「エシェット、ユーキは大丈夫なんだな? 絶対帰って来るんだよな」


「ああ、必ずだ」


 少しの沈黙のあとディルも、そして周りに集まって来ていたリュカ達も静かに頷いた。


「分かったぞ。オレ、エシェットの言う事、信用するぞ」


「うん、ボク達も。ね!」


「うん、僕信じる!」


『僕達も!!』


 皆がそう言うと、泣いているオリビアも小さく頷き、ウイリアムは床にこぶしを叩きつけ、しぶしぶ頷いた。


「よし、ユーキに早く帰ってきてもらうように、オレ、これからエシェットの怪我治すぞ」


「ああ、頼む」


 まだまだ魔力に余裕のあるディルに、怪我を治してもらう。

 

 ユーキ、どうか元気なユーキに、いつものユーキに戻って、我らの所へ帰ってきてくれ。それまでにこちらはすべてを片付けておく。


      *********


 ゆらゆら、ふわふわ。ゆらゆら、ふわふわ。


 あれ? 何だろう。マシロベッドのおしっぽにくるまって僕寝てたよね。いつものもふもふじゃない感じ。でもふわふわな感じがします。


「…で、…ぞ」


「…は、…って」


 誰? 煩いよ。僕おやすみなさいって言ったでしょう。静かにして。ん? あれ~? マシロのお声じゃないし、お母さん達のお声でもないし、リュカ達のお声でもない。う~ん。でも僕このお声知ってる気がする。

 僕はお目々を擦りながら、お顔をあげました。僕寝る前に何してたっけ。僕の周りキラキラだったのは覚えてます。でもその前は?

 

「あっ、起きた?」


 僕は聞いたことのあるお声がまたして、そっちの方を見ました。それでアンソニーお兄ちゃんよりもちょっと若いお兄さんが立ってて、僕のこと見てニコニコしてました。

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