第397話あの頃の私、今の私(妖精王視点)

 ふっと目を覚ます。少しの間気を失っていたらしい。綺麗な光で目を覚ました。この光は私がユーキ達に渡した石の光りか? 石が光っているという事は、ユーキ達に何か?

 良く見ようと頭を上げる。見えたものはピュイが輝き、そして奴らの赤い結界が消えるところだった。

 ピュイは結界を消すと頑張って練習していたからな。練習の成果が出て良かった。


 しかし、私の渡した石はここまでの力がなかったはず。守るためだけの力だ。魔法が発動しても、ここまで輝くことはないはずだが?

 そんなことを思っているとピュイがふらふらと地面に落ち、そんなピュイのことをユーキが抱きしめた。


 マシロが近くに居た、雷の男を殺し、すぐにもう1人の男に向う。アブラムもユーキの元へ向かっていた。私もユーキを助けようと立ち上がろうとしたが、力を使いすぎたせいか、ほとんど動くことができなかった。


 そんな中男がユーキへ剣を向けた。皆を抱きしめ守るように縮こまるユーキ。間に合わない。私は最後の力を使いユーキ達を助けようとした。

 その時また、いや先程よりも強い光りが、ユーキから溢れだす。これも私の渡した石の力だと確信するのに時間はいらなかった。そしてまた疑問が。私にこれほども輝きを出せる力はないと。


 光りがユーキ達を守り、マシロが男を倒す。その間にユーキの元へとたどり着くアブラム。今度こそ私が助けなければ。

 なんとかふらふらと立ち上がると、魔力を溜めようと試みた。ふと足元を見れば足が透けていることに気づく。

 次の攻撃で私は消えるだろう。それは確信だった。


 あの方もあの時、こういう気持ちだったのか…。


 が、最後の攻撃をする前に、ルトブル達がユーキの元へかけつけ、私は最後の攻撃をせずに、その場に座り込んだ。

 なんてタイミングの良い。私は妖精の国の王だと言いながら、結局は彼らが事態を打開している。役に立たない王だな、私は。


 マシロとルトブルがアブラムと戦い始めた。赤い結界が消えても、マシロ達よりも強い力を操り戦うアブラム。私はその間にユーキが石に溜めてくれた魔力が残っていないか確認したが、この妖精の国を守るための魔力以外残っていなかった。やはり使える力は、今私の中にある魔力だけだ。


 ふと先程思い出したことを、もう1度思い出した。あの方もあの時、こういう気持ちだったのか…。という事を。


 私が妖精の王になり、どれだけの月日が流れたのか。あの方とは先代の妖精王様、ルーティン様のことだ。

 私はルーティン様にいろいろな事を教わった。妖精の国を守る心構え、どうこの国を束ねていけば良いのか。皆のために何をすれば良いのか。


 そしてルーティン様に教わったことはそれだけではない。いろいろ余計なことも教わった。自然に涌き出るお酒の湖が、遠い昔にはあって、そこでお酒を教わり、あの頃は珍しくもなかった女神達との付き合い方など、よけいなこともいろいろ教わった。


 あの頃はとても楽しかった。いつまでもそんな生活が続くと。ルーティン様が守る妖精の国は無敵だと。


 しかしそれは突然終わりを迎える。妖精の国が魔獣達に襲われたのだ。なぜか狂暴化した魔獣達が、大挙として押し寄せたのだ。

 あの時のあの闇の力は何だったのか。妖精の国を隠すための結界が破壊され、たくさんの妖精達が犠牲に。


 その時私はルーティン様と永遠の別れをすることに。すべての狂暴化した魔獣を倒したルーティン様に、魔力も体力ももう残されてはいなかった。

 今にも消えそうなルーティン様に、私はなにもできずに、ただただ泣くことしかできなかった。


 そんな私にルーティン様は、これからの妖精の国を任せると。もうすべて大切な事は私に伝えてある、だからお前に任せるのだと。


『泣くな。お前はこれから王として、この国を守っていくのだ。お前が私の所へ生まれてくれてよかった。安心して私は消えることができる』


『ルーティン様!!』


『私も長く生きた。たくさんの出会いと別れがあり、楽しい事も苦しい事も、いろいろな事を経験したが、最後はこの国を守って消えることができる。とても幸せな時間だった。お願いがあるのだが、私は皆の笑顔を見ながら逝きたい』


 私は涙を拭き、そして生き残った妖精達を集めた。


『ルーティン様、あなたが守ってくださった妖精の国を、これからは必ず私が守って見せます』


『そうだ。その意気だ。だがたまには息抜きも必要だぞ』


 ニコっと笑い、そっと目を閉じるルーティン様。


『私は幸せ者だ。こんなにも大切な者達に囲まれて逝くことができるのだから』


 それがルーティン様の最後の言葉だった。

 それから私は妖精の国を、元の姿まで復興し、新たにたくさんの妖精達を見守って、ここまで来たのだ。

 

 私はルーティン様のように、しっかりと妖精の国を守って来れただろうか。妖精達、そしてここに遊びに来てくれた魔獣達は幸せだっただろうか。それならばこんなに嬉しい事はない。あの時のルーティン様もこんな気持ちだったのか。


 私が消えたら、消えてどうなるかは分からないが、消えた者同士ルーティン様にどこかで、意識だけでも良いから再会できないだろうか。今まであったことを、ルーティン様に出会えたこと、そしてたくさんの妖精達と過ごせて、とても幸せだったことを伝えたい。

 もしできる事ならば、意識だけでなく少しの時間で良いからこの体のまま、ルーティン様がおられた頃は嫌いで、今は大好きなお酒を飲みながら話をできればな。


 ユーキ達の方を見る。ピュイの治療をしているが、あまり上手くいっていないようだ。この完全に消えていない空間と、城を囲むようにアブラム達のあの陣のせいで、上手くいっていないのでは?


 私は深呼吸をして、もう1度最後の力を溜め始めた。そういえば次の妖精王に、まだ何も伝えていなかったな。急な事で言えていなかった。だが、まぁ、教えることはもう殆どないからな大丈夫だろう。私の時のように泣かれるだろうが。とてもやさしい子だからな。

 魔力を溜めながら気配をさぐる。あの子は無事なようだ。良かった。消える前に会えると良いが。

 

 そしてもう1つの気配、彼の気配も探る。彼とはエシェットのことだが、彼らもそろそろこちらに来れそうだ。彼がくればアブラムを倒すことができるだろう。彼が来るまでにユーキがアブラムに襲われることがあれば、私はすぐに今溜めている魔力でユーキを守る。私を、私達を守りに来てくれた、とても暖かい魔力を持つユーキを。


 私は床に座り直した。そういえば、私が勝手に消えたら彼は怒るだろうな。あれでもかなり長い付き合いだし、消える時は必ず俺に言えと、顔を合わせるたびに言っていたからな。いつもとげとげ、ツンツンしているが、アンドレアスもとても優しい男だ。彼と友人になれて良かった。

 気配ではアンドレアスも他の者達も無事を確認できている。


「彼も少しは悲しんでくれるだろうか。何故言わなかったと怒るだけはやめてほしいな」


 最後の魔力が私の体の中にすべて集まった。さぁ、これで私はいつでも動ける。タイミングを見極めろ!

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