第384話分かれた魔力石

 それはとても眩しい光りだった。目を開ける事ができず、確認はできなかったが、結界が張ってあるのに、部屋の中は風が吹き荒れ、ガタガタと部屋を揺らす。


「エシェット! 何をしている!?」


 これだけの騒ぎのなか、エシェットに私の声は聞こえないと分かっていたが、言わずには

いられなかった。

 そして隣で妖精王の声が。


「不味い!? この威力は…。エシェットもう少し威力を抑えろ!! このままでは私の結界がもたん!」


 私よりも大きな声で叫ぶ妖精王。この妖精王の声は聞こえたのか、微かにエシェットの声が私にも聞こえてきた。


「だから大丈夫だと言っているだろう。もうこれ以上は威力を上げないから安心しろ。それにもうすぐだ!」


 何が、何がもうすぐなんだ。


「何が大丈夫だ。何がもうすぐだ。まったく」


 私の考えていたことと同じことを言う妖精王。


 そんな事をしているうちに、だんだんと私達の周りを吹き荒れていた風が収まり始めた。それに伴い、今まで目を閉じていても眩しさを感じていたのに、その眩しさもなくなって来て、私はそっと目を開ける。


 部屋の中は花も草も木も、そして妖精王が用意してくれた椅子やテーブルも、すべてがめちゃくちゃになり、隣に立っている妖精王の表情はかなり険しいものだった。

 結界の中にいるエシェットといえば、まだ結界の中は光りが強く、今のエシェットの状態は分からない。が、すぐにエシェットが話しかけてきた。


「あと少しだ」


 その言葉の通り、それからすぐ光りは消え始め、ぼさぼさ頭のエシェットの姿が。そして石を持っている手はまだ光りに包まれているが、もう危険はなさそうで、ふぅ、とため息をついた。まったく私達が止めるのも聞かずに…。


「これまでだな」


 その言葉と共に、エシェットの手の光は消え、微かに光っていた体の周りの光も消え、それを確認した妖精王が結界を解いた。そしてすぐにエシェットの所へ行くと怒り始める。


「何ださっきの力は! お前は私の城を破壊するつもりなのか!!」


「大丈夫と言っただろう。我が大丈夫と言えば大丈夫なのだ。まぁ、我が思っていたよりも石が頑丈だったのは違っていたが」


「こんなに強い力を使うなら、今度から別の場所にしてくれ。この城には妖精達がたくさんいるんだ。それに君の主人のユーキも居るんだぞ。まったく!!」


 エシェットが悪い悪いと笑いながら、それを怒りながら妖精王が、私達の所に歩いて来た。


「全部とはいかなかったが、ほぼできたぞ」


 エシェットが見せてきたもの、それはたくさんの魔力石だった。こんなに持っていたか? それにあのいろいろな色に見える石が小さくなっているような。


「これがこの石の正体だ。どうやってやったかは分からんが、我の力をかなり注いでやっとここまで、元の石に戻した」


 火、水、土、風、その他にも知らない色の魔力石が何個かあった。


「どういう事だ?」


「これらすべての魔力石で、あの石は出来ているのだ」


 エシェットによればあの石は、このすべての魔力石が合体されて出来ていたものだと。

 エシェットが外部から強力な魔力を当てたため、何かの方法で合体させられていた石が、元の個々の石へと戻ったそうだ。


 しかしエシェットがあれ程の力を使っても、すべての石を元に戻すことはできず、私達が見た事のない色の魔力石やあの赤い石は、まだ他の魔力石と合体したままだと。だから見たことがなかったのか。


 ユーキの石が3つに見えると言ったのを聞いたとき、もしかしたらと思ったらしい。エシェットもルトブルもマシロもジュード達も見たことのない、妖精王までが見たことのない石。人間達が何かの方法を使って、新しい石を作りだしたのでは。

 そしてどんな方法で石を合体させているか分からないが、外部から違う力を与えれば、何とか魔力石が離れるのでは。そこまで考えたらしい。


 良くあれだけの情報でここまで考えられるな、と感心したが、それでもなにも私達に相談なしにアレをやるのは。


「お前は私には話しても良かったのではないか。お前も結界を張ったかもしれんが、それ以上に強い結界を張ったのは私だ。言ってくれれば結界を2重にするなど、いろいろしたものを」


「部屋が少し荒れただけだ。問題ないだろう? それよりもこの石について話すぞ」


 はぁ、妖精王の大きなため息が聞こえた。


 エシェットのことは一旦置いておいて、あの石の話を始める。他の魔力石を分かれたとはいえ、まだ他の石と混ざっている石。皆で観察したが、何の石が混ざっているのか全く分からない。

 

 が、1つ分かった?こともある。それは石の色だ。あれだけ皆が別の色に見えていた石が、今は濃い赤色、濃い青色、黒色。この3種類になったのだ。もしかしたらユーキはこの3種類以外が見えるかもしれないが、それでも今ここに居るメンバーは、この3種類の色が見えるだけになった。


「赤、青、黒、という事は、火、水または氷、闇でしょうか?」


 オリバーが他の魔力石と比べる。


「いや、もしかしたら混ざってて、色が変わって見えるのかもしれないぞ。ほらあるだろう、青と赤を混ぜたら紫になるとか」


「おや、リアム良く分かりますね。絵に関しては最悪な感性を持っているあなたが」


「俺だってそれくらい分かるぞ」


「学生時代私の絵を描くのに、出来上がった絵は、ゴブリンの絵だったあなたが?」


「いつの話だ!」


 そう学生時代、授業の一貫で、見た物を瞬時に描くという訓練をした。これはとても大切な授業で、例えば私達のように時々街の近くの森や林へ調査に行ったり、あるいはこういう戦いで前線に居る時、もし見た事もない魔獣、あるいは見たことのない人物を見つけた時、それを報告する義務がある。

 もちろん文章だけで相手の特徴を書き、知らせを出しても良いのだが、絵があった方が分かりやすく、後から来た者達は戦いやすくなる。


 そのための練習だったのだが…。リアムの描いたオリバーの絵は破壊的なものだった。そうオリバーの言う通り、あれはゴブリンだ。

 その絵を見たときのオリバー。あれは忘れられない。得意の氷魔法を使いリアムは体の半分を氷に覆われ、動けなくなったリアムで他の魔法の練習を始めるオリバー。

 その時たまたま近くに居た先生が、被害を受け、少しの間我々は絵の授業の出入りを許されなかった。


「私は今でもはっきり覚えていますよ」


 あの時の事を、今でもオリバーはなにかあるたびに出してくる。あのゴブリンの絵は衝撃だったからな。

 しかし今は石の話をしなければ。


「オリバーその話はまた今度だ。それでエシェット、他に分かった事はあるか」


「この石については、もう少し調べなければ分からないが、分かっていることが少しあるぞ。この石が何にしろ、きっと我らは誰も見た事がない石が使われているという事。それからこの石を使うには、持っている人間がこの石に魔力を流さないと使えないという事だ」


 石についてはもしかしたらと思っているから、エシェットの言う事も分かるが、その後の言葉は?


 エシェットがこの石を奪うとき、捕まえた男はやはり変な結界を体に張っていたらしい。しかし他の者に比べて石の使い方も戦い方も劣っていたその人間の結界は、エシェットの攻撃にだんだんと耐え切れなくなったらしく。最大の攻撃をエシェットがすると、結界ごと男の腕を斬り落としたと。


 その時は石を付けている手を、逆の腕を斬り落としたエシェット。結界を破壊し、すべての結界が消えると思っていたが違った。他の部分の結界が消えなかったのだ。

 すぐに攻撃して今度は足を斬り落とす。それでも結界は消えない。次に石の付けている方の腕を斬り落とした。


 その瞬間魔力が石から溢れ、それが消えると男の結界も消えた。すかさず石に魔力を流すエシェット。その時は深く考えず、先程のように強い魔力で石を攻撃しなかったため、石が分かれることはなかった。


 そしてエシェットが魔力を流した時に不思議な事が起こった。

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