第383話石の正体
何故わざわざ危ない石をユーキに見せなければいけないんだ、と最初は思っていたのだが、エシェットに言われた通り見せて正解だった。
私達があの石を見ると、赤と思っていた石は赤色だけではなく、それぞれがいろいろな色に見える、とても不思議な石だった。
その中でもユーキは誰よりも見える色の数が多く、私達が大体3つの色が見えたのに対し、ユーキは7種類以上の色が見えていた。
またそれだけではなかった。私達が話している最中に、1人石を観察していたユーキが、急に騒ぎ出したと思ったら、今度は石が2つや3つに見えると言い出したのだ。色が変わるときに石が分かれると。
言われて石を確認したのだが、ユーキ以外が石の分かれるところを見ることはなかった。が、エシェットがニヤッと笑ったのを私は見逃さなかった。私には分からないがエシェットは何かに気が付いたのだろう。
エシェットによれば先程の攻撃で、奴らの気配が後退したという事だったので、今のうちに場所を移動し石の話をすることにした。
ユーキ達が私に抱きつき、お仕事がんばれと送り出してくれ、ユーキ達が泊っている部屋に向ったのを確認すると、私達も移動を始める。
「ルトブル、お前は外で見張っておけ。我の攻撃で後退したとはいえ、いつまた現れるか分からん。ここに居る魔獣達も手伝うと言っていたからな。交代で見張りを」
「分かった」
ルトブルがすぐに城から出て行く。初め妖精の国に来たばかりの時は。妖精の国にあんなにたくさんの魔獣がいるとは思ってもみなかった。
妖精の国には、かなりの魔獣が居て、しかもその魔獣の半分くらいが、私達では敵わないような、上位種だったのだ。妖精王曰く
「皆、この国にゆっくり遊びに来るんだ」
だそうだ。ここに居る時は上位種の魔獣も、他の弱い魔獣を襲ったりせず、静かに過ごしているらしい。
妖精王に新たに部屋を借り、石について話し合うことにした。エシェットが捕まえてきた男は、こちらも部屋を借りてアシェルが連れて行き、話をする準備をしている。
部屋に移動しながら、軽く捕まえた男についてエシェットに聞くことにする。
「それにしても良く捕まえる事ができたな。部屋の中から攻撃の音を聞いたが、あれ程でなければダメな程、この石の能力が高いという事だが。捕まえた男も、石を扱える程力を持っている者だったか?」
「いや、あれは石の力によって強くなっていたに過ぎん。だが…」
今回男を捕まえる事ができたのはたまたまだったと。後の人間達が、もし捕まえた男のように弱い人間でなければ、アブラムのような人間達ばかりだったら。
また同じことをしようとすれば、この妖精の国はおろか、妖精の国がどこにあるか知らないが、遠く離れた人間の街を、何個も消滅させることになると。
そんな危ない攻撃をしたのかと、先頭を歩いていた妖精王がこちらを振り向いた。
「1番外側に張った、今回ユーキ君に手伝ってもらった結界が、完全に破られてしまった。お願いしておいて申し訳ないんだが、それで妖精の国がなくなってしまったら」
「分かっている。だからそうならないように、結界がもつギリギリの威力で攻撃したのだ。今妖精の国にはユーキがいるのだぞ。我がそんな攻撃をするわけないであろう」
「本当か?」
ため息をついて前を向く妖精王。
ついでに私は今の男の状態についても聞くことにした。
「ああ、両方の足と腕を斬り落としたが、我の持っていた特別な木の実で死なないようにしてあるから安心しろ。ああ、それから…」
戻って来る時、男の悲鳴を聞いていたら、こんなバカな人間達のために、ユーキが危険な所へ来なければならなかった、とイライラしたらしく、移動しながら男の顔を殴りながら戻って来たと。殴りすぎてユーキがいつも言う、偽者ブタ獣人になっているらしかった。
手足がなくなった人間を、絶対にユーキに見せることはないが、そのおかげで偽者ブタ獣人姿も見せずに済んで良かった。見ていたら今頃あのちびっ子軍団は、大騒ぎになっていただろう。
ブタだ!と騒ぎ、悪い人間なのだから、自分達も男に突撃して、さらにブタ獣人にすると言いかねないからな。
「ユーキ達には、この事件が解決したとき、我が別に偽ブタ獣人を見せてやる」
いや、エシェット、別にわざわざ見せなくて良いんだぞ。
そんな話をしているうちにある部屋にたどり着いた。かなり奥まで来たようだが…。
「だいぶ奥に来たようだが、奥というか地下か?」
同じことを思っていたエシェットが、妖精王に確認する。
妖精王によれば、妖精の国に何か良くない物が入ってしまったとき、それをさっさと消滅させてしまえば問題はないが、もしそれができない場合、対処の方法が決まるまで、それを閉じ込めておくために、地下深くに部屋を作ったのだと。
「もし敵が来ても、ここまで来るのはかなり時間がかかるだろう。それにこの部屋に続く道は私しか知らない。迷う事間違いないからな。あの私達の力の源があるのはもっと深い場所だ。気づかなかったか?」
そうだったのか。ユーキが魔力を流しに行っていたあの妖精の中心の石がある場所。あそこはこの部屋よりも深い場所にあるらしい。
「さぁ、話を始めるぞ」
皆が妖精王が出してくれた、切り株の椅子に座り話を始める。
「我はこの石がどういう物かだいたい分かったぞ。ユーキのおかげでな」
「本当か?」
あの時の顔、やはりエシェットはこの石の正体に気づいていた。
「が、その方法が我には分からん。人間達にはそれをする方法があるのかもしれんが。おそらくこの石は、これ1つの石ではない」
どういう意味だ。1つではない?
「確かに奴らはまだ他に、全員が石を持っているが、俺達だってそれくらいは分かっているぞ」
ハロルドがエシェットに聞くと、
「そういう事を言ったのではない。この石は、何個もの魔力石が集まって出来ている、と言っているのだ」
「何個もの石?」
「そうだ」
私達が普段使っている魔力石は、冒険者や商人達が見つけてきて、その石が加工されたものを購入したり、自分で見つけてきたものを自分で加工して使ったりしている。私の家では昔から取引のある商会から定期的に購入している。が、
「そんな魔力石が集まってできている石など見たことがないぞ」
そう、魔力石はどれも他の魔力石と混ざったりせず、1つの力しか使えない。火なら火、水なら水。同じ場所から発掘されても、くっ付いていたり混ざっていることなど絶対にない。
「もちろん我も見たことはない。今回初めて見た。だが…。ちょっとやってみたいことがある。危ないから離れていろ。結界を張る。妖精王お前も我の周りに結界を張れ」
訳の分からないまま、エシェットの周りに結界が張られた。
結界が張られた事を確認するエシェット。手に光りが集まり始めた。くろにゃんがササっと私達の後ろに隠れる。
「おい、かなり濃縮された魔力だぞ。この部屋爆発するかもしれないぞ」
おい、何だその危険な言葉は!?
「エシェット!! 何をしようとしている! 止めろ!!」
「爆発させるわけないであろう。心配するな。くろにゃんは心配性過ぎるんだ。これ位時々使っているではないか」
「時々? それを使うと山がなくなったり、地面に穴が開いたり、まぁ時々だな」
さらに下がるくろにゃん。
「今日は妖精王の結界もあるからな。大丈夫だ」
大丈夫? 大丈夫とは!? 皆でエシェットを止めようとする。しかしエシェットは大丈夫だとしか言わずに、さらに魔力を溜めそして、私達は目を瞑った。
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