第350話最後の最後で問題が!?

「あら…あなた見て」


 オリビアに呼ばれそちらを振り向くと。


「随分幸せそうな顔して寝ているな」


 私の言葉にそこに居た全員が振り向く。私達が見ている先には、ニコニコ笑ったままの可愛いユーキが、マシロに寄りかかりながら、そしてディル達はユーキの周りに集まり、沢山のプレゼントの中で眠っていた。


 ユーキの幸せそうにすごしている姿を見て、私も少し浮かれていたようだ。気づけばもう夜もいい時間だ。いつもだったらユーキはもうとっくの昔に寝ている。


「私はユーキちゃんを部屋に連れて行くわ」


「ならば我らもディル達を運ぼう」


 オリビアが陛下の所に行き挨拶をする。寝かせる準備をしているうちに、陛下はきっとお帰りになってしまうからな。


「陛下、今日はユーキの誕生日のパーティーにお越しくださり、ありがとうございました」


「なに、わしもユーキの喜ぶ姿が見れたからな、子供の成長というものは、たとえ自分の家族でなくとも嬉しいものだ」


「父上、今日の主役のユーキも寝てしまった事ですし、父上もそろそろ帰る時間なのでは? これ以上遅くなると周りが煩いですよ」


「分かっておるわ。ユーキを見送ったら帰るわい」


 オリビアがそっとユーキを抱き上げる。少しだけ目を覚ましたユーキに、オリビアが寝る準備をしましょうねと言ったが、ちゃんと聞こえているかどうか。


 オリビアやマシロ達がいなくなるとすぐ、陛下が帰りの準備を始め、おかえしのワインを渡すと、くろにゃんの魔法で城へと戻って行かれた。

 帰り際、また城に遊びに来いと、父さんと話をしていて、私達が父さんの家から帰ったら遊びに行くと約束していた。帰る直前にくろにゃんに送ってもらうと。


 陛下が帰られてからは、母さんとお義母さんは、自分達も寝に行くと家の中に入って行き、そのあと帰って来たくろにゃんにオリバー達を送ってもらった。


「送ったらオレはユーキの所へ行くぞ」


「分かった。今日は送り迎えすまなかったな。明日何かお礼をする」


 くろにゃん達が影に消えていった。


 パーティー会場に残ったのは、私と父さんとお義父さん、それからサルバドール殿下にザクス達、そしてハロルド達と男ばかりになってしまった。ハロルド達は、私達から少し離れてお酒を飲んで何か話している。

 私達は椅子を運び、各自お酒を持って、アシェルが作った焚き火を囲んだ。


「良い誕生日じゃった、とワシは思うのじゃが、ユーキもそうじゃと良いのじゃが」


「父さんユーキのさっきの寝顔見ただろう。あんなに嬉しそうなかおして、楽しかったに決まっている」


 今日1日のユーキの姿を思い出し話が弾む。

 が、それも落ち着いてくれば、ユーキの最初の様子についての話になってしまった。


 まさか誕生日パーティーが初めてだったとは。ユーキは今日3歳になったばかりだ。1歳は当たり前だが、2歳はただただ覚えていないだけなのでは?

 そう思いたかったが、誕生日はないと言われたと、あんなにはっきり答えていた。おそらくユーキの言っている事に間違いはないだろう。


 誕生日がないなど、ユーキの本当の親は何ということを。子供の成長は親にとって、どれだけ大切なものか。私などアンソニーやジョシュアの初めての誕生日は、逆に騒ぎすぎてオリビアに怒られたくらいだ。

 そして最近になると、2人とも誕生日パーティーはやらなくて良いと言ってきた。家柄、そういう訳にもいかず、小さいながらもパーティーは開いているが。私は少し寂しい。


 今年の2人の誕生日パーティーもオリビアや私、父さん達の誕生日も、いろんな事件の最中だったため、全員がパーティーをする事ができず、なんとかユーキだけはする事ができた。

 アンソニーの時はあのユーキがあの黒服に攫われた時で、ジョシュアは「死黒の鷹狩り」事件の時だし、まぁ、そんな感じで皆パーティーをする事が出来なかった。

 だから今回ユーキの誕生日パーティーを成功させる事ができて、本当に良かったと思っている。


 私が考えていた事は父さん達も一緒だったようで、皆ユーキの親に対する怒りと、ユーキに対するなんともいえない感情が、混ざったような表情をしている。


「一体ユーキはどんな環境で育てられたのか」


「親がろくでもない、というのは良く分かるが、良くそんな親の元、あんなに素直で良い子に育ってくれていたな」


「もし今ユーキの家族が現れれば、ワシは容赦せんぞ」


「お主だけではない。ワシもだ。地獄を見せてやりたい」


 父さん達が頷きあっている。ああ、これはユーキの本当の親が現れたら、彼らは地獄のような毎日を送ったあと、殺してくれと懇願し、それを無視してしばらくまた地獄をみる。そんな生活が待っているはずだ。


 ディル達も頑張ってくれた。私はディル達がいつユーキにバラしてしまうかと、本当にそれだけが心配だった。

 そして心配したのはディル達だけではない。エシェット達のことも心配だった。ずっとディル達と遊べずプンプンしていたユーキに、しゃべってしまうんじゃないかと心配していたのだ。

 だが全員本当に良く黙ってくれていた。ディル達にも後で何か喜ぶ事をしてやろう。


 皆どんどん酒が進む。こんなに気分が良いのはいつぶりか。明日のちびっ子達による、お酒攻撃が心配だが、今はそんな事はどうでも…良くないぞ!?

 そうだ、殿下が今日はお泊まりになるんだ! 殿下にお酒攻撃などされたら…。


「どうしたウイリアム?」


 私の急に慌てだした様子に、殿下が気づき話かけてきた。皆も私の方を見てくる。


「殿下、殿下はお酒に強い方でしたか?」


「ああ、まぁまぁ強いが。ただ今日はいつもよりは飲んでいるぞ」


「次の日具合が悪くなったりは」


「どうだろうな? 普段は気にならないが、言ったように今日はかなり飲んでいるからな。少しくらいは頭が痛くなるかもしれないし、具合が悪くなるかもしれんな」


「はっ!? そうか!!」


 ここでザクスが叫んだ。そして私の顔を見てくる。私はザクスに向かって頷いた。

 そう、ザクスは何度かユーキ達ちびっ子によるお酒攻撃を受けていて、その威力を分かっている。


「まずいぞ。もうユーキは準備を終えて寝てしまっただろう」


「ああ。ここまで順調…とは言えないか。まぁ、いろいろあったが、ここまで何とかパーティーを成功させられて、私も最大の注意を怠っていた」


「2人ともさっきから何の話をしているんだ」


 私達は殿下に、ユーキ達のお酒攻撃について説明した。しかし体験した事のない殿下には、それがそこまで酷い攻撃だという事があまり伝わらず、それくらい大丈夫だろうと笑っている。


「殿下、これは私達にとって一大事なのです。ユーキは殿下が帰られたと知れば、明日悲しむかも知れませんが、今すぐくろにゃんで城にお帰りになった方がよろしいかと」


 あまりに真剣な私達にようやく殿下の表情が変わる。


「…そんなに酷いのか?」


「おそらく殿下が今考えておられる何十倍も酷いかと」


 そこで今まで黙ったまま、殿下の側でデザートの残りを食べていたシャーナが決定的な事を口にした。


「そういえばあの子たち、さっきお酒攻撃がどうのって言ってたわね。私何のことか分からなくて放っておいたけど、この事だったのね。小さい子達みんな明日が楽しみって言ってたわよ。それから…」


 お酒攻撃だけの話ではなかった。新しく契約したシュプとスライムにお手本を見せると張り切っていたらしい。それからシュプ達には、みんなの攻撃を見て、自分たちがやりたい攻撃を考えるようにと、リュカから指令がくだったらしい。

 

 これはかなりまずい。やはり殿下だけでも逃げた方が良い。私達は何とか殿下を説得しようとした。今なら間に合う。しかし…。


「いや、良い。私は残る。ユーキの初めての誕生日パーティーだ。明日私達が帰るまでがユーキにとってのパーティーの時間だ。あの子の初めては、最後まで完璧でなければ。そのお酒攻撃は、私も受けよう」


 まさかの殿下の発言だった。

 それからも殿下は譲らず、私達は殿下を避難させる事に失敗してしまった。しかもユーキ達のお酒攻撃を邪魔しないようにと。


 こうなったらしょうがない。なんとか少しでも殿下の方に、攻撃が集中しないように私達が盾にならなければ。

 はぁ、最後の最後で、1番の問題が待ち受けているとは。

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