第343話それぞれの準備

「それで準備はどんな感じだ。もう3日後だからな」


 ユーキが寝てからオリビアが休憩室に戻ってきた。


「くろにゃんに周ってもらって、全員の返事はいただいたわ。それからもう準備はすんでいると」


「そうか。そちらのご両親も大丈夫そうかのう」


「ええ、大丈夫ですわ。もう準備はバッチリです。今すぐに来たいと言うのをなんとか止めていますの」


 かなりプレゼントを用意していると聞き、そして他の招待した人々の事も考え、父さんがユーキのために用意してくれた遊びの部屋に、すべてのプレゼントが収まるのか、ちょっと心配になってくる。


「あと少し、バレないように過ごさないとな。ユーキとディル達がケンカしていてヒヤヒヤする」


「そうね。でもディルちゃん達、頑張って内緒にしててくれてるわ」


 ディル達がここのところ毎日、ユーキを置いて出かけているのを、ユーキはかなりイライラして我慢しているからな。

 いつも出かけるときユーキにブーブー言われるディル達には気の毒だが、ディル達もユーキのためだと、頑張って黙ってくれている。全てが終わったら、何か用意してやろう。


 話をしているとマシロが私達の所にやってきた。明日、マシロとルトブルもユーキのプレゼントを探しに行くと伝えに来たのだ。


「エシェットとジュード達は、今日これから何か探しに行くと言っている。だから明日はユーキの事をエシェットとジュード達に任せ、我々がプレゼントを探しに行ってくる」


 ならと母さんが、きっとディル達に続いてマシロ達も出かけるときなれば、ユーキのイライラは大変な事になるだろうと、明日は母さんが街の広場へと、ユーキを連れ出してくれる事になった。

 マシロ達は私の仕事の手伝いをすると言えば、ユーキは納得してくれるだろうと。

 ユーキは仕事だと言えば、それが不服でも、しょうがないといつも納得してくれる良い子だからな。

 

 マシロにどこに行くのか聞けば、この街からかなり離れた、危険な森に行くと言う。あそこの森は確か、上級冒険者しか行かない、しかもその上級冒険者が大人数で行くような所ではなかったか?


「かなり離れた? ちょっとだろう? きっと何か見つかるだろう」


 はぁ、頼むから変な物持って帰ってくるなよ。そうマシロに釘を刺したが分かっているのか。ユーキが喜びそうな物を探しに行くだけだと、さっさとユーキの元へ戻って行ってしまった。


 不安に思いながらも、自分のプレゼントのことを考えなければ。もう半分用意はできているのだが、父さんと今用意している所だ。

 

 3日後のユーキの誕生日パーティーが成功するように、できる事はしなければ。ユーキの可愛い、喜ぶ姿を見るために。

 


      *********


「お前達、準備はどうだ?」


 朝方、主が起きる前に、我は皆を起こし話を始める。とても大事な話だ。いつもは寝ぼけているディル達もサッと起き、主を起こさないように、部屋の隅へと移動した。


 まずはディルとリュカ達から報告を聞こうとしたのだが、リュカが待てと我を止めた。


「ボク達ね、みんなそれぞれ用意しようと思ったんだけど、それだと時間がかかっちゃったり、物も集められないかも知れないから、みんなで1つの物贈ることにしたの」

 

 話を聞けば、最初それぞれ色々考え、用意しようとしたのだが、思ったよりもそれが大変だったらしい。それで皆で話し合った結果、皆で同じ物を用意しようという事になったと。


「オレ達、ユーキが絶対に行かない部屋借りて、そこで準備してるんだ」


「もうすぐ? 確か3日って言ってたから、それまでに間に合わせないとね」


「キミル達今日もお出かけするから、ユーキに怒られちゃうね」


「でも仕方ないよ。ボク達のことばれたら大変だもん」


 そう言って皆で頷いている。


 その日の朝は大変だった。主がやはりディル達に連れていけないと言われ、かなりの怒りようだった。怒りながら庭に虫取りに行こうとする主を、リズがいつもとは別の場所に連れて行ってやると。家から連れ出した。


 今日は主の事を、夜中のうちに準備は終わったと言うエシェットに頼み、我とルトブルも今日は出かけることになった。

 主にはどうしてもウイリアムの仕事を手伝わなければと言い、お仕事なら仕方ないと、ディル達のこともあり、あまり納得はいっていなそうだったが、エシェットとリズとジュード達と出かけて行った。


 主を見送ると早速、少し離れた森へとルトブルを背に乗せて向かう。森に着くと、中ではバラバラに行動するが、帰りも同じように帰ってくることにし、すぐに行動に移った。


 さて、我は何を用意するか。この森ならばあまり人が近づかない少し危険な森だから、少し変わった物があると思うが。

 邪魔をしようと寄ってくる魔獣達を倒しながら、森の奥へと進んで行く。

 主が気に入りそうな物も見つければ、取り敢えず持ってきたカバンの中に入れ、後でいらない物を捨てるか?

 

 主の誕生日、家族になった日を祝うと聞き、嬉しい気持ちと、主に出会ってもうそんなに経ったのかとしみじみしてしまった。


 ここまで早かったような長かったよな。それにしても主にはこの1年いろいろな事があった。主だからなのか、それとも人間とはこうもいろいろ出来事が起きる生き物なのか。まぁ、主が呼び寄せている事件もあるが。


 最初に主と契約し、それからもう色々な生き物と契約をした。エシェットと出会ったときに奴に言われた言葉は、今もそのままだろうか?

 主は無意識に我を頼っていると、私を1番に思っていると。


主はあの時の奴が言った言葉から、何も変わっていないだろうか。それならばどんなに嬉しいか。

 どんなに契約魔獣や妖精に精霊が増えようと、我が1番だと。我は自分では主の1番だと自信を持って言える。それはずっと変わらない。主も変わっていなければこんなに嬉しい事はないのだが。


 それにしても奴らの加護はちゃんと付与されているのか? かなり危ない時もあったぞ。主には大きくなったらまた会えると伝えたらしいが、我だけ先に会えないものか。会って文句の1つや2つ言いたい。


 最後には事件が解決され、主もディルの回復魔法で何度か無事に戻ってきたが、戻ってきているという事は、一応加護が働いているのか?

 が、もっと事件に巻き込まれないような、強い加護は付与できないのものか。


 いろいろな事を考えながら、目についた物をカバンに入れていたが、どうやら森の1番奥まで来たらしい。そこは沢山の石や岩が落ちている場所だった。

 1歩踏み出し、たまたま近くに落ちていた石を踏んだ。


 もくもくもく。


 軽く踏んだだけだったが、これは!?


 私も久しぶりに見た。我が昔住んでいた森にはよく落ちていた石だ。これは主が喜ぶ事間違いない。


 我は石を何個も拾い、2つ持ってきたカバンは他の物と合わせてパンパンだ。これだけあれば良いだろう。分けようと思ったが、全部持ち帰って、全てプレゼントにしてしまおう。


 そろそろ時間かと、ルトブルの気配をさぐれば、奴は待ち合わせの場所へと進んでいるようだった。急がなければ。

 もう探す必要はないからな。スピードを上げて走り始める。


「ルトブル!!」


「遅かったな」


「すまん。とても良い物を見つけて、拾っていたら遅くなった。で、そっちはそれか?」


「ああ。が、倒してから気づいた。お前に乗って帰るんだったな。大丈夫か?」


「大丈夫だろう。ディルやリュカ、キミルではないが、どうも我の力も主のおかげで上がっているようだ。見ていろ」


 我は近くにあった木に、蹴りを入れた。木はミシミシミシと音を立てて倒れるかと思いきや、蹴ったところが粉砕され、我らの方に倒れてきた。慌てて避ける。


「おい」


「すまん。この前よりも力がさらに強くなっていたようだ。魔力も力もどちらも上がっている。だからお前もそれも運べる」


「そうか。では帰るか。早く帰って、ユーキにバレないように運び込まなければ」


「そうだな」


 ルトブルとそれを背に乗せ、屋敷へと走り出す。

 主は今頃どうしているだろうか。まだ機嫌が悪いままか、それとも新しい虫を捕まえてニコニコか。


「これから我の力も強くなるのだろうか?」


 ルトブルが聞いてきた。


「どうだろうな。お前達は元々が我らと違うからな」


「お前は強くなっただろう?」


「我も驚いた。まさか今まで以上に強くなれるとは思っていなかった」


「我は強くなれるになら強くなりたいと思っている。ユーキを守るためには、力は強い方がよいだろう?」


「そうだな。が、あまり強い力もな。考えて力を使わなければ」


 力が強すぎて、主を傷つけるような事があってはならない。


 が、それを考える前に、今は主のパーティーの事を考えなければ。さぁ、急いで帰ろう!

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