第331話モス達の今後とスライムの正体

 次の日、陛下は森の様子が見たいと、関係者で森へ行くことになった。もちろんユーキ達は留守番だ。

 森へ行ったのは、陛下と殿下、私に父さんとアシェルにそれからエシェットとルトブル、オリバーとエイム。レシーナ達の方からはキャロラインとクレア、アースとストーンと、そして今回の原因を作ったモス達が集まった。


「ずいぶんと酷いのう」


「これからもう少し異変がなければ、私達がすぐに森を元通りに戻すわ。特に子供の森の方はなるべく早く直すつもりよ。ユーキも早くまた冒険の続きをしたいでしょうからね」


「それはありがたい。今回のことで、ユーキだけではなく他の子供達も皆、とても喜んでいたからのう。ワシは早く子供達がまた喜ぶ顔が見たいのじゃ」


 陛下はそう言うとアースやストーン、そしてモス達を見て、今回の出来事を初めから話してくれと。レシーナが森ができるまでのこと、昔住んでいた森での出来事を話し始めた。

 森に現れた黒服、そして黒服達が持っていた石、その石をモス達が持ち出し、今回の事件につながったことをだ。

 

 話を聞き終わると、すぐさまモス達の前に行く陛下。キマイラを前にしても堂々とした姿の陛下を見てさすが陛下だと思っていれば、隣に立たれていた殿下が、あれはキマイラをそばで見たくてワクワクしているだけだ、と言ってきた。それを聞いて頷く父さん。


「モス達の行動に怒っているのは確かだけど、キマイラにこんなに近くでゆっくり会える事なんてないからね。話し合いが終わって、レシーナ達や我々からの罰が終われば、手合わせしてくれと言い出しかねない」


 昨日はモス達が話し合いに来ると聞き、目を輝かせていたと。何故かユーキを思い出してしまった。


 モス達の方に目を戻せば、初めて会った時よりも小さくなっているような感じのするモス達が、お座りをしている。


「それで、お主達は何故、石を黙って持ってきたのじゃ。レシーナ達は石を処分すると言っておったのだろう?」


「僕は止めたんだよ。え~と、僕はクス」


「私も止めたぞ。私の名前はタスだ。このバカが無理やり持ってきたのだ」


「俺は冒険者が喜ぶのが見たくてだな。俺の名前はモスだ」


「だからあれは冒険者は喜んでるんじゃなくて、急に魔獣が現れたから驚いて騒いでるだけだって」


 3人で話を始めるモス達のことをレシーナが叱り、話が進まないと、この前よりも詳しくレシーナが話しをしてくれた。


 クスとタスが反対する中、石を手に入れたモスは、昔の森の事を思い出したらしい。まだ我々の生活の中に冒険者ギルドや、商業ギルドがなかった頃から生きていたモス達。今のように冒険者達が登録し管理されておらず、もし行方不明になっても今のように捜索されることはなく、本当に強い人間だけが森へ入っていた頃。

 モスはその頃がまた戻ってくるのではと思ったらしい。


「あの頃は楽しかった。毎日のように冒険者が我々に勝負を挑んで来て、強かろうが弱かろうが、俺達にとってはどうでもよかった。楽しければな」


 しかしと続けるモス。ある時を境に冒険者達が森に来なくなったと。たまに強い冒険者が来たが、それもついには来なくなったらしい。

 詳しく話を聞けば、それはどうも我々の生活に冒険者ギルドができた頃のようだ。最後に来た冒険者が、金色のバッチをつけていたと。


 金色のバッチ、SSS級の冒険者か? 冒険者に階級がある。冒険者の中で1番ランクが上なのはSSS級の冒険者で、今世界では数人しかいない特別な冒険者だ。その下にSS級と続き、全部で7つのランクがある。

 

 そしてそれは森や林、洞窟や岩場、冒険者が行くような場所にも、ランクが付けられていて、冒険者は自分のランクに合った場所でしか冒険ができないようになっている。

 もしかしたら冒険者ギルドができて、今まではどんな人間でも冒険ができていたモス達の森が、SSSランクの森に指定されて、冒険者が来なくなったのでは。


「それからはつまらない毎日だった。時々来てくれる冒険者も来なくなり、こいつらときたら、人間が置いていった本を読んだり、おもちゃとやらで遊ぶしまつ。俺は体を動かすのは好きなんだ」


「それで私が今回森を作って、昔みたいなみんなが楽しめる森を作るって言ったから、昔の森に少しでも近づけようとしたみたいなの。私ももう長い間人間と関わりを持たなかったから。そう、人間はランクというものを作ったのね。だから人が森に来なくなってしまっていたなんて」


 レシーナがモス達の頭を撫でた。そして森の魔獣達は戦いも好きだけれど、人間と関わる事も好きなのだと教えてくれた。モス達の以外の魔獣も、人間と遊べなくなって寂しいと言っていたらしい。

 それを聞いた陛下が再び話し始める。


「我々の人間が勝手に決めたルールで、お主達には寂しい思いをさせたようじゃな。しかし、今回の事はレシーナ達の再び楽しくという思いと、我々がレシーナ達の話を信じ、安全だと思っていた子供達の森で、子供達の未来を奪う結果になったのかもしれんのじゃ」


 モス達がしゅんと頭を下げている。そしておすわりの姿勢から伏せをすると、


「すまなかった」


 と謝ってきた。


「オレが2人の意見を聞かずに無理を押し通してしまったのだ。2人は悪くない。オレが悪いのだ。本当にすまなかった」


「いや、私もモスを止められなかった」


「ごめんなさい」


 3人とも本当に反省しているようで、こちらを見てきたその瞳は、真剣そのものだった。そんな3人の姿勢に、陛下のキリキリとした雰囲気が少し弱まる。

 そんな陛下とモス達の間に入るレシーナ。


「この者には私が罰を与えます。今回はどうか、私に免じて許していただけないでしょうか。私もウキウキしすぎて、他を疎かにしてしまいました。せっかく皆様に喜んで頂こうとと思っていたのに、申し訳ありません」


 レシーナが頭を下げると、キャロラインやクレア、アース達が皆で頭を下げてきた。


「我々も、我々人間の勝手で、いろいろお主達には迷惑をかけたようだ。今回はお互いの事を考え、後のことは其方に任せる。そしてまた、この森を復活させ、皆で冒険を楽しもうではないか」


 なんとか話がまとまった。キャロラインがすぐにモス達を、元の森に連れて帰る。レシーナが後で罰を考えるそうだ。

 モス達は帰るとき私に、ユーキにまた遊ぼうと伝えてくれ、と言って帰っていった。ユーキはモス達と遊べないと分かれば寂しがるだろうな。早く罰を終えて遊びに来れると良いが。


 陛下が振り返り、エシェットの頭の上を見る。


「さて、次は其方の話じゃな」


 エシェットの頭の上にはあの山を作っていたスライムが乗っている。あの泥の山の時と違い、透明な綺麗な茶色のスライムだ。


 陛下がスライムが召喚されてここに来たと話を聞き、帰る方法はあるのか、住んでいた森がちゃんと分かっているのか、などをスライムに質問する。

 スライムは自分がどこに住んでたかなんて分からない、帰る方法だって知らないよと、プリプリ怒っている。


「お主達、普通に話しているが、このスライムがこの時点で普通のスライムだと思っているのか?」


 エシェットにそう言われてハッとする。確かにスライムという、魔獣の中で最下位の位に属するスライム。言葉を喋れるなどあるはずがないのに、我々はこの前から自然と会話をしてしまっている。


「おい、お前は魔力を消す事ができるな。今はそれを解いて、我にお前の力を見せろ。でないと、話が進まん」


『いいよぉ。でも僕自分のことちゃんと分かってるよ』


「それでもだ。確認せねば」


 少しの後、エシェットがじぃっと見つめる。そして分かった事を我々に伝えてきた。

 スライムはマッドスライムから進化したギガントマッドスライム。そしてその変異種だそうだ。

 変異種、またか!? なぜこうも変異種ばかりが集まってくる! ユーキか? ユーキがまた引き寄せたのか?


『僕はね、いろんなことできるよぉ。あっ、でももう何も壊さないし枯らさないよ』


 話を聞けば、前に住んでいた森でも大きくなって、皆に迷惑だと怒られたそうだ。ここで大きくなったのはあの闇の石のせいだからと、もう大きくなって迷惑かけないと言ってきた。


「それに僕、ユーキのそば気に入ったの。昨日の夜、リュカ達とお話したら、みんなユーキのお友達なんでしょう。僕もお友達になりたいなぁ』


 ………またか? 私はエシェットの方を見る。私達が寝静まったあと、皆で話し合いをしたというのだ。何を勝手に話を進めているのだ。

 私の隣で陛下がガハハハハッ! と笑っていた。

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