第307話なぜちゃんと話さない!(ウイリアム視点)
(ウイリアム視点)
ようやくユーキが眠りについてすぐ、ドアをノックする音が。
「兄貴、起きてるか」
「ああ、ちょっと待ってくれ。休憩室を借りよう」
森へ行っていたハロルド達が帰ってきたらしい。ユーキの頭を撫で、オリビアにハグすると部屋を出る。部屋の前にはハロルド達が待っていたが、その格好に驚いた。
「何だその格好は」
「兄貴、あの森はヤバイぞ」
洋服は泥だらけで、しかも所々洋服が切れている。ハロルド達がこんなにボロボロになる程の森だったか? 調査に行った時はそんなでもなかったはずだが。
休憩室に移り、陛下と殿下、父さんが揃ったところで話を始める。
ハロルド達は今回、私達が調査した森の半分よりも奥へと進んだらしい。調査の時はレシーナ達も一緒で、森の半分までなら普通の冒険者なら問題なく進めると言われ、確かに半分まで進んだ時、現れた魔獣達は新人冒険者でなければ、そして少し冒険者として慣れた者なら、力を合わせれば進めるくらいの森だった。
が、それより先はお楽しみだと、レシーナが我々を森の奥へとは入れなかった。そのためハロルド達には先行して、森の奥へと進んでもらったのだが。
「まず、この前よりも奥に進んですぐ、キラーアントとジャイアントスパイダーの群れが居た」
「は?」
何でそこで高ランクの魔獣が出てくる? どちらもかなりの攻撃力で、ギルドでは高ランクに指定されて、中級クラスの冒険者から討伐対象になっている魔獣だ。
「半分を過ぎてすぐだったぞ。で、そいつらを倒そうとしたとき、レシーナが現れて、お互い正々堂々と戦えと言われた」
その言葉通り正々堂々戦い勝ったハロルド達に、ニッコリと微笑むレシーナ。
「あなた達のように、正々堂々と楽しんで進んでくれる人達ばかりなら良いのに。そうそうこの森、もう少し大きくするつもりよ」
おい、聞いていないぞ。レシーナ曰く、森に移動したい魔獣がまだまだたくさんいるらしい。今回作った森では間に合わないようで、さらに広げると言ってきたのだ。そして森繁殖が進んで森が落ち着けば、今までで1番最高の森が誕生すると。
それから、さらにどんどん森を進めばもしかしたら、レシーナ達にとってはいつも見ている魔獣だが、人間にとっては初めて見る魔獣がいるかもしれないから気をつけて、と言って、さっさと消えてしまったらしい。
私は溜め息をついた。殿下も父さんも同じく。違ったのは陛下だ。ユーキ達のように目が輝き、殿下に勝手に森へ行かないようにと注意を受けた。
何故この前、私達が調査に行った時にそれを言わなかったのか。あの時レシーナ達は、もう少し強い魔獣達がいるだけで大して変わらない、1番奥の方まで行けば別だけど、と言っていたんだぞ。
その後もハロルド達から出てくる魔獣の種類に頭が痛くなった。
ブラッドベアにワイバーンの群れ、ゴーレムの群れにダイアウルフ、それはまぁ、あまり聞きたくない名前が上がって。それ以外にもかなり強そうな魔獣がいたらしい。これらは姿を見ていないため、何の魔獣だが分からないが威圧が凄く、近づくのをやめたと。
「あれはもう少し仲間を集めて行かないとダメだ。上級者ならなんとかなるかもしれないが、俺としてはグループを組んで挑んだ方が絶対に良いと思う。それと…」
なんとかさらに森の奥へ行くと洞窟があり、そこでまたレシーナが現れたらしい。
「ここは3人じゃ無理よ。何個か洞窟作ったのだけど、ここは1番危ない洞窟の次に危ない洞窟よ。3人じゃ無理。ちなみに1番危ない洞窟の主はヘビよ。バジリスクね。それでこちらの洞窟と周りを守るのはコカトリス」
………はぁ、何でそんなものが森に。というか何でそんな危険な生き物を森に連れてきた。バジリスクはヘビの王だし、コカトリスは近くにいるだけで死者が出る、ドラゴンの翼とヘビの尻尾を持つ鳥の魔獣だ。
「それを聞いてすぐに帰ってきたんだ。帰る途中見つけた洞窟は大丈夫そうだったぞ。ミミックやロックがいると言っていた。と、それから」
まだ何かあるのか? これ以上驚く物が?
ハロルドが話そうとしたとき、レシーナ達が部屋に現れた。3人全員がニコニコしていて、そして俺達にお礼を言ってきたのだ。久しぶりに活気のある森を見ることができたと。ここ何百年、静かで同じ日々の繰り返しで、それが悪いとは言わないが、それでも昔のように一緒に暮らしている魔獣達が、楽しく我々人間と戦っているのが嬉しいと。
楽しいか…それは良かった。良かったが。
殿下と私が森の奥にいる魔獣達のことを聞くと、だって驚かせたかったのよ、とひと言だった。がっくりする殿下と私。ユーキ以外でがっくりする事があるとは。
他にも何か言うことはないかと聞けば、エシェットとシャーナを呼んできてくれと言われ、不思議に思いながらも2人の事を呼んだ。
「貴方達2人には、もしこっちの森に入っても何もしないで欲しいの。あっ、そうか貴方はユーキと一緒にいるのよね。う~ん…やっぱりどっちの森に入っても、貴方達から戦いを挑む事はしないで。彼にも貴方達には手を出さないように言っておくから」
「やはりそうか」
「街の方には来ないから、放って置いたけど、やっぱりあれの気配よね」
2人はレシーナが何を言っているのか分かっているらしい。
「彼はあの森の王よ。簡単に人間にはやられないけれど、貴方達だと話は別ですもの」
「エシェット、何の話だ」
「ああ、あの森の1番奥にはドラゴンがいる。気配からいってアースドラゴンだろう?」
「ええ」
「………」
こんなに周りにドラゴンがいて良いのか? いや良くないだろう。一体どうなっているんだ。エシェットに出会ってから今日までそんなに経っていないのに、もう3匹目のドラゴンがそこにいるのだ。
アースドラゴンがいる森の1番奥へ行くには、そう簡単ではない。バジリスクやコカトリス、さらにはおそらく私たちが確認していない、レシーナが隠している魔獣達がまだいるだろう。
「あっ、彼だけどね、かなりの子供好きなの。だから時々ユーキ達が行く森のほうに遊びに来るわよ。もちろん小さくなってね。彼の背中を滑り下りたり、しっぽにぶら下がったり、きっと子供達喜ぶわよ」
もし子供の森のほうにいる時に大人が攻撃するなら、レシーナがすぐにその大人を消すと。それか大人の森のほうに移動させて、バジリスク達の餌にすると言ってきた。あくまでも子供の方にいる時は、子供達と仲良く遊ぶためにいるのだから、それ以外の事をするのであれば容赦しない、ということらしい。
もう何も言えなくなってしまった。すぐにギルドに伝えなければ。
森にはもう、たくさんの家族が子供を連れて行っているはずだ。それに両親が冒険者や騎士ではない子供達のために、代わりに冒険者ギルドから借り出された冒険者が、子供を連れて行っている。その冒険者は冒険者としてかなりランクが上で、信頼ができる者ばかり。ドラゴンを見れば危険と判断してすぐに攻撃を始めてしまうだろう。
話を聞いていたエイムがすぐに動いた。陛下からの手紙を持ち、すぐにギルドへと向かう。レシーナにはそのアースドラゴンに、我々の知らせが浸透するまで、子供の森には来ないようにお願いしてもらうことにした。
私たちが森に入る2日後には、なんとか近くの街までには連絡が行くはずだ。最低でも2日は待ってもらわなければ。
「分かったわ。じゃあユーキが森に来る時に彼には森に入ってもらうわ。ユーキならドラゴンに慣れているでしょう。ドラゴンと遊ぶユーキを周りの子供達が見れば怖くないと分かって、一緒に遊ぶでしょうからね。最初が肝心だもの。じゃあ伝えてくるわ」
スゥッとレシーナ達が消えた。溜め息をつく私達。それぞれの部屋に戻り、私はオリビアに今の話し合いの内容を伝えた。
それを聞いたオリビアは、ユーキがドラゴンに逢えば、また鼻息荒く興奮して何かやらかしてしまうかもと、クスクス笑っていた。笑い事ではないのだが…。
何事も起きなければ良いが、ユーキが何かやらなくても、他にも危ないメンバーが大勢いるからな。
************
「そういえばあの子のこと、話すの忘れたわね」
「大丈夫じゃないかしら。だってあの洞窟よりも奥にいるもの」
「また悪戯しそうになったら、止めれば良いさ」
「そうね。ふふ、早くユーキ森に来ないかしら」
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