第283話ジュードとエシェット

(ウイリアム視点)

 ジュードを地下の部屋に運び、エシェットに結界を張ってもらう。エシェットによれば、ジュードからは完全に魔力の反応が消えていて、結界など張らなくても大丈夫だと言っていたが、外から仲間が取り返しに来る可能性があるため、強力な結界を張ってもらった。


 そんなことをしているうちに、私達の所にオリビアが走ってきた。またユーキ何かあったのか、それともキミルが何かやらかしたのかと思い慌てたが、まさかもう1人重要人物を捕まえたとは。お義父さんとエシェット達にここは任せて、玄関ホールに向かう。そこには先程のジュードのように土の塊で固められた人間が。名前がセオドリオと言うらしい。


 この男もかなりの重要人物ということで、すぐに地下の部屋へと運んだ。ジュードのいる部屋とは1番離れた部屋に入れ、やはり結界を張る。そしてルトブルにセオドリオがどういう人物なのかを聞いた。どうやらこの男は、ジュードの参謀のような存在らしい。ユーキ達が船の上に居た時は、ジュードに代わりユーキ達の見張りをしながら、指示を出していたと。


「目が覚めるまでどのくらいかかるか」


「どちらもかなり衰弱しているからな。治療しなければもしかしたらこのまま死ぬ可能性もある。我としてはそんなに簡単にはしなせたくはない。ユーキにした報いを受けてもらわなければ」


「それはワシも同じじゃ。ワシの可愛い孫にしたことを許すわけにはいかん」


 エシェットとお義父さんが顔を見合わせて頷いている。まぁそれは私も異論はないが、このままなら死んでしまうかもしれないのなら、最低限の治療はするべきか。だがそれもなんだかな。こんな奴らに治療などとも思ってしまう。


 結局もし本当に危なくなったら、ディルに少しだけ治療してもらう、ということでまとまった。そしてまず私と何人かの騎士でジュードを見張り、セオドリオの方をリアムとマシューが見張ることに。ハロルド達とは朝交代する。


 それからはたまに中を見て、奴に変わった様子がないか確認したり、たまにルトブルが様子を見にきながら、結界を確認したり、そんなことをしているうちに、すぐに朝になってしまった。

 朝食の時間を過ぎ、お昼のご飯をいつもより早く済ませたハロルド達とお義父さんが地下へと下りて来た。そして私の顔を見たハロルド達が苦笑いを浮かべた。


「何だその顔は」


「いや、ユーキ達の事を考えたらな。兄貴、お酒飲む時はこれからさらに気をつけて飲んだ方が良いぞ」


「は?」


「わははははっ!! 確かにあれは最悪だからな。 ワシも気をつけなければな」


 一体何だ? ユーキは今度は何をやらかしたんだ。

 ドキドキしながらリアムとマシューを連れ、まずは洋服を着替えに部屋に向かう。

 先に部屋に着いた私がドアを開けると、オリビアがニコニコしながらお疲れ様と言ってきた。2人がオリビアに挨拶し、自分達の部屋へと向かおうとした時、中からユーキ達の声が。


「とちゅげき!!」


「「「わあぁぁぁ!!」」」


『『とつげき!!』』


 今日は何に突撃しているんだ。中に入りよく見てみれば、何かすごく汚れて丸まっているタオルに向かって、ディル達が突撃していた。そしてリュカの指示が飛ぶ。


「ピュイ、そこはもっと突かないと! ホプリン、もっとしっぽ振って!」


『うんピュイちゃんがんばるの!』


『こうかな? バシバシッ!!』


 何してるんだ一体? 少ししてユーキの所に戻るディル達。あーだこーだ話し合いをしたあと、またユーキが突撃と指示を出す。そして次にリュカに注意されたのはシルフィーとモリオンだ。

 後ろを振り返れば、リアムとマシューが嫌そうな顔をしていた。そういえばリアム達もお酒を飲んだあと、何度かユーキ達のお酒攻撃を受けていたな。


「もしかしたらこれから、ジュード達にお仕置きするかもしれないからって、それにピュイちゃんも増えたから、練習しなくちゃいけないって、朝からずっと練習してるのよ。ハロルド達は1度だけその練習に付き合わされたの」


「あぁそれで、あんな顔してたのか。お義父さんなんか笑いながら汗かいてたぞ」


「ふふ。お父さんは部屋の前通りかかった時に、チラッと見ただけだけど、お母さんがその時一緒に居て、ユーキちゃん達に、もっと練習しなさいって言ったのよ」


 ユーキ達の練習を見て、ハロルド達が言ったように、これからお酒を飲む時はもっと気をつけなければ。


 私が戻ってきたことに気づいたユーキが、私に抱きついてきた。それから少しだけ話をした後、オリビアが私が寝るからとユーキ達を外に連れ出してくれて、私は眠りについた。


 それからは見張りについたり、街の復興を行ったり、アルマンド達と連絡を取り合いながら、『海の死神』のその後を調べたりと、そんな毎日を過ごした。

 そしてジュード達を捕まえてから4日。先に目を覚ましたのはジュードだった。


 ディルに治療してもらわずともジュードもセオドリオも容体が安定していたため、そのまま放って置いたのだが、ジュードが目を覚ましたのはちょうど私が見張りをしている時だった。


「私は…」


「海岸で倒れていたところを私達がここまで連れて来た。話を聞かせてもらおうか」


「………」


 何も答えないジュード。そこにお義父さんとオリビアが、騎士からの連絡を受けて部屋に入ってくる。そしてお義父さんがジュードの首を掴み持ち上げると、壁に投げ飛ばす。起きたばかりのジュードにあまりそういう事をして、また気を失われてもと思ったが、お義父さんの表情を見て止めるのをやめた。


「一応話を聞こうと思っただけだ。さて、お前は話をする気があるか? 話を聞いたところでお前の死は決まっているが、ワシの孫と娘を危険に晒したのだ。簡単に死ねると思うな」


「………あの子供は無事だったのだな」


 無事だった? 変な言い方だ。街を攻撃し何人もの犠牲者を出しておきながら、ユーキの事を無事だったとは?


「もう1度だけ聞く。話をする気はあるのか?」


「………」


「そうか。ではまずあの男から拷問をくわえたあと殺すとしよう。名前は何だったか? 確かセオドリオだったな」


「!! ここに居るのか?」


「別の部屋だが、お前を拾い捕まえた後、誰かが海岸にもう用済みだといい捨てにきたのだ」


「………どうせ殺されるのは分かったが、もし私が話をすれば、奴は拷問せず死を与えてくれるか?」


「それは話を聞いてからだ」


 それからはくろにゃんの知らせを聞いて駆けつけたアルマンドと共に、奴に色々な話を聞いた。

 いつ『海の死神』は復活したのか。これまでにどれだけの海の中の国を侵略したのか、何処からどうやってクラーケンやシーサーペントを連れてきたのか。

 そしてルトブルやモリオンに聞いていたあの変な力と言っていた魔力についても話を聞いた。話を聞けばやはりあの転移する闇魔法は、他者から取り入れた魔力が変異し、新しく手に入れたものだということが分かった。

 アルマンドはジュード達が拠点としていたサンゴの国や他の国のことを聞き、すぐに海に戻り調べると、くろにゃんの力を借り自分の国へと戻って行った。


 どのくらい話をしたか、騎士がお義父さんを呼びに来た。騎士の話を聞いた後、すぐに話に戻るお義父さん。


「それで、セオドリオを捨てた奴は。お前にとってどんな存在だ」


「あいつは何百人といた下の者の1人だ。名前など知らない。が、私達にこれ程のことができる力は持っていたらしい。もしかしたら私が知らないだけで、我ら一族の血が流れている者だったのかもしれない」


「よくお前は消えなかったな」


 と、突然エシェットが部屋にやって来た。


「お前の魔力は完全に消えている。奴に全ての力をその石とやらで取られたと言うことではないのか? お前の話が正しいのなら、お前はすでに消えているはずだが」


「確かに私は転移する瞬間、奴に全ての魔力を取られたようだ。体から魔力が抜けていくのが分かったからな。が、なんとか転移までは間に合ったのだ。それからは私も消える事を考えたのだが、何故か消えていない」


「そのうち消えるかもしれんがな。ウイリアム、やはり此奴からは全く魔力を感じん。今の此奴は弱い魔力しか持たない人間よりも弱い存在という事だ。それは奴も同じ。騒いでいて煩くてかなわん。奴の所へ連れて行くぞ」


 そう言うとエシェットはジュードの事を持ち上げ、勝手に部屋を出てしまった。慌てて止める私達を無視してエシェットが向かった先は、セオドリオの居る部屋だ。部屋からは誰かの騒ぎ声が聞こえてくる。お義父さんが先程の騎士はセオドリオが起きたのを知らせに来たのだと教えてくれた。


 さっさと部屋の中に入り、セオドリオの方にジュードを投げるエシェット。


「ジュード様ご無事で」


「お前が生きていて良かったが、ただ単に死ぬ時間が少しだけ伸びただけのようだ」


「そんな!」


 セオドリオが私達に頭を下げてくる。そして自分はどんな拷問も罰も受けるから、ジュードを殺すなと言ってきた。


「やめろセオドリオ。我らは負けたのだ」


「ですがジュード様、今生きているのはもしかしたら、あの方が生きろと言っているのかもしれないのですよ」


 勝手に話をする2人をじっと見ていたエシェットが、急に私達に話して来た。何かと思えば、この2人の処分を自分に任せろと言ってきたのだ。


「拷問も殺すのもお前がするという事か?」


「もちろん此奴らが死にたいと思う程の拷問はするが殺しはせん」


「何だと!!」


 お義父さんが声を荒げる。


「我が全て引き受けると言っているのだ。」


 そんなことが認められるわけがないと、私もお義父さんもエシェットに言うがエシェットは全く譲らない。それどころか邪魔をするならばと殺気を放ってきた。私達はその場に膝をつく。エシェットの殺気に耐えられる人間などいない。こんな事をするとは、それだけエシェットが本気という事か。

 震える体に気合を入れ、お義父さんにここはエシェットの言う通りにするしかないと言う。これ以上エシェットの邪魔をすれば、私達は殺気だけで殺されかねない。それをお義父さんも分かっているらしい。


「分かりました。エンシェントドラゴン様にお任せします」


 お義父さんがそう言えば、殺気がふっと消えて、私達はその場に座り込んでしまった。

 

 それからすぐ、エシェットは部屋を出て行くとすぐに戻ってきて、2人に手をかざした。2人の体が少し光りその光はだんだんと胸に集まりすっと消えて行く。


「よし上手くいったな。これは難しい魔法でな。我でも簡単にはできんのだが、ユーキのおかげで上手くいったな。いいか。お前達の心臓に魔法を使った。もしもの時は一瞬でその心臓を破裂させることができる、これはそういう魔法なのだ。これからは我の言うことだけ聞いてもらう。少しでも変な動きをすればその場で殺す。良いな」


 何が何やらついていけない私達を置いて、エシェットは話を終わらせてしまった。エシェットは2人の体力が戻り次第、ユーキにしたことに対する拷問をすると言っていたが。全く一体何なんだ。


 部屋を出てエシェットはさっさとユーキの元に戻って行ってしまった。私達も納得のいかない変な気持ちのまま、1階へと歩き始めた。

 歩き始めてすぐにお義父さんが、あれには逆らえないと、怒らせてはならない存在だと、ぼそっと言ってきた。

 あの本気の殺気、『死黒の鷹狩り』のとき以来か? 改めてエシェットが伝説の存在だと思い知らされた。

 

 しかし何故急にエシェットはこんな事を言ってきたのか…。

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