第280話ジュードとセオドリオ。そして…

(ジュード視点)

 私は今木の板に捕まり海に浮かんでいた。ここは私達が攻撃した陸の街の海岸で、かなり破壊出来ていたことが見て分かるくらい、私の周りには残骸の木の板や、なにかの破片がたくさん浮かんでいる。

 そして岸の近くだというのに、そこまでも辿り着けないほど、今の私には力が残っていない。人魚の姿のままただただ浮かんでいる状態だ。


 セオドリオはどうしただろうか? 私を助けるために力を使い、今頃は跡形もなく消されてしまっただろうか。そしてあの時の事を、そしてその後に起こった事を思い出す。


 それは突然の事だった。船から下り陸の街を攻撃していた私に、突然大きな水晶からの魔力が流れてこなくなり、そのせいで私から部下の人魚達やクラーケン、シーサーペントに魔力が流せなくなってしまった。部下達も今まで使っていた強い魔力が急に使えなくなりその場に止まってしまう。

 それはクラーケンもシーサーペントも同じだった。クラーケン達は私が無理やり契約し、痛みで私の指示に従わせていたため、その痛みを与えていた魔力がなくなり動きを止めた。

 そのせいで私の周りは一瞬にして鎮まりかえる。そして…。次の瞬間にはクラーケンとシーサーペント達が倒されてしまっていた。


「魔力阻害が…」


 私の魔力阻害までもが効かなくなっていた。慌てて魔力確認をすれば、クラーケン達を攻撃していた人間と魔獣達の本来の魔力が完全に戻ってしまっていて、そのせいでクラーケン達は一瞬で倒されてしまったのだ。

 

 クラーケン達を倒した人間が、私の方を見て威嚇してきた。私がどこに居るかばれてしまっている。その威圧になんとか耐え、船に戻ろうとすれば、今度は船の方から大きな土の塊が飛んできて、クラーケンの死体の所に落ちてきた。一体何が起きている?

 

 魔力が流れてこないのと、魔力を使いすぎたせいで、私の体は今最悪な状態だ。なんとしても船に戻り、あの子供か大人から魔力を奪わなければ。


「ゴホッ、ゴホッ…」


 一瞬で船まで戻る。そこで見たのはあの子供達が逃げる所だった。


「ぐっ、ゴホッ!! ま、て…!!」


 いつの間には子供に付けていた『従属の鎖』が外れてしまっている。止めようとしたが、今の私にそんな力は残っていなかった。子供達は闇魔法の中へと消えて行ってしまった。


 部下が私に気づき、何があったのかを話しながら、予備に魔力を溜めておいた石を持ってくる。その男にセオドリオのことを聞けば、先程私の方に飛んできた土の塊のに閉じ込められたと。この魔力石であと2回転移できるかどうか。


 男に撤退を言い渡し、私は転移でセオドリオが閉じ込められている土の塊の所へ移動した。そして何とか塊を破壊すると、中からセオドリオを助け出す。


「大丈夫か?」


「ぐっ、けほっ、ごほっ。何とか…。ジュード様これは奴の仕業です」


「分かっている、話は聞いた。私のミスだ。お前の言う通り、もう少し慎重になるべきだった。1度撤退する。もう1度魔力を溜め作戦を練り直す」


 再び転移をし私達が拠点にしているサンゴの国へ戻る。


「ぐっ…がっ!?」


 戻った途端、血を吐きながら咳き込み、その場に膝をついた。


「ジュード様!!」


 セオドリオが慌てて私を支えてながら、私を部屋に運ぼうとした。ゆっくりと廊下を歩く私とセオドリオ。


 そこで城の中がおかしな事に気づいた。誰も城の中を歩いていないのだ。確かにまだ戻ってきていない部下達もたくさん居るが、城に残してきた部下達の姿がまったく見えない。しんっと静まり返っている。セオドリオも様子がおかしい事に気づき、魔力が上手く使えず、動けない私の代わりに警戒を始めた。

 唯一魔力の気配を感じるのは王の間に1人分の魔力の気配だ。


「ジュード様、いかがいたしますか?」


「おそらく王の間の人物は私を待っているのだろう。治癒士の気配を感じない今行くしかあるまい。私には今逃げる力は残っていない」


「ジュード様は私が必ずお守りいたします」


 ゆっくりと歩きながらようやく王の間に着くと、そっとセオドリアが扉を開いた。

 王の間の中心には1人の男が立っている。あれは確か…最後のシーサーペントを連れてきた男だったか?


「ジュード様、お待ちしておりました」


 男がニヤリと笑った。セオドリオが警戒しながら私の前に立とうとしたが私はそれを止め、逆に1歩前へと進み出た。そして弱っているところを見せないように、堂々と奴の前に立つ。


「他の者達はどうした?」


「大丈夫ですよ。彼らにはすでに後退の命令を出しておきました。皆もうここから離れた所まで後退しているはずです」


「お前が命令を出した? 誰がそのような指示を? 私は出した覚えがないが」


「私もね、下っ端として貴方に支えてきましたが、ここ最近、いや少し前からの貴方の考えには疑問を感じていたのですよ。貴方の理想とする世界。世界を征服すると言っておきながら実のところ、人魚や海の魔獣達そして陸で暮らす人間や魔獣、すべての生き物が幸せに争いのない世界を作る。私はね貴方のその本当の考えに気づいていたのですよ」


「………」


「前の貴方だったらそんな生温い考えは持たなかったはず。何が貴方を変えたのか。まぁそれでも、その平和な世界を作るために、力を手に入れ力でねじ伏せる。途中までは本当によく動いてくれましたよ」


 そう言うと男は服のポケットから黒い石を取り出した。あの石は…。何故あの石をこの男が。私が使った他人から力を奪うことができる石を男が持っていたのだ。それを見つめながら話を続ける男。


「あの子供から無理やりにでも、すべての魔力を奪っていたら、少しは今の状況が変わったかもしれないですね。だが、貴方はあの子供に『従属の鎖』は付けたものの、あの子供が魔力を流さなくとも、傷つけず殺そうと脅すこともせず放置した。その瞬間私の心は決まったのです。これからは私が『海の死神』の王として生きようと」


 男が石を掲げる。今の私に逃げる力は残っていない。私はこのまま力を奪われ消えていくのか。


 そうか…。すまない私はお前との約束を守れそうにない。

 今まで私はすべて力で奪うことしか考えて生きてこなかった。今だってお前との約束を守るために力で解決しようとした。お前は力が全てではないと言っていたのに。それを私は聞かなかった。やはり私には人を思いやる心など持ち合わせていなかった。それがこの結果だ。

 男の持った石が光り始める。私は目を瞑った。


「ジュード様!!」


 いきなりセオドリオが私の前に出てくると、男に気づかれないように闇の魔力石を渡してきた。そしてそっと。


「私の今のありったけの魔力を流しました。これだけあれば逃げる事はできます。ここは私が」


 そう言って男に挟撃を仕掛けた。男はそれを予測していたように、軽くセオドリオの攻撃をかわす。それでも攻撃の手を緩めないセオドリオ。そのおかげで、少しだけだが2人が私から離れた。


「行ってくださいジュード様! 貴方の思う未来を作るために!」


「何だ? まさかそんな力残って!?」


 セオドリオが私に向かって笑いかけてきた。すまないセオドリオ。

 私は石から力を借り、何処でもいい、行ける所まで転移しようとありったけの力で転移した。転移する瞬間、セオドリオが男を押さえている姿が見え、男の顔は醜く歪んでいた。


 そして転移した場所がさっきまで攻撃していたこの海岸だった。転移に全ての力を使い、もう何もすることができない状態だ。せっかくセオドリオが命をかけて私を送り出してくれたが…。

 このまま死んだらあいつと、もしかしたら死んでしまったかもしれないセオドリオに怒られそうだ。

 空を見上げると綺麗な丸の、大きな月が出ている。そして星が煌めいていた。そういえばあの日もこんな綺麗な夜空が見えていたな。


 そう昔の事を思い出している時だった。陸の方から何人もの人の声が聞こえてきた。私はバレないように息を殺し様子を伺う。

 だんだんと近づいてきた声は近くで止まると、男の声で浜辺を壊してと言う言葉と、子供の声が聞こえてきた。あの声は…。


 そっと目を凝らしその人影を確認する。やはりあの子供だ。何故この場所に? と、あの子供が一点を見つめている事に気づく。その一点を見てみれば、私が掴まっているような木の板の上を、何かが動いていた。

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