第268話首輪と鎖

「にいしゃん、わるいにんぎょしゃん?」


「多分そう。ユーキ、僕の後ろから出ちゃダメだよ」


「うん」


 僕はお兄ちゃんの後ろから、ちょっとだけお顔出して悪い人魚さん見ます。悪い人魚さん、ずっとニヤッて笑ったままで。とっても気持ち悪いんだよ。僕、そっとお兄ちゃんの後ろにお顔戻しました。

 ディル達はさっきの僕みたいに、ちょっとだけお兄ちゃんの後ろからお顔出して、戦う格好して悪い人魚さん威嚇してます。


「やはり首輪が付いているな」


 悪い人魚さんが首輪って言いました。何のことかな? 


「お前何したの? 僕とおんなじなのに、変な感じがする」


「同じ? 何のことか分からないが」


 僕達の周りの結界が少しだけぐにゃってなりました。でも大きな結界みたいに全部はぐにゃってならなかったよ。ルトブルが頑張って結界張ってくれてるからだね。ありがとうルトブル。


「先に首輪を外してしまうか」


 また首輪って言いました。それを聞いて、お父さん達が動く音がします。僕またちょっとだけお顔出しました。お父さん達がとっても怖いお顔です。

 

 悪い人魚さんが片方のお手てあげました。僕きっと魔法使うんだ、って思ってまたお兄ちゃんの後ろに隠れてお目々つぶりました。でも、大きな音もお部屋もガタガタしません。そっとお目々開けてまた悪い人魚さん見ようとした時でした。僕の首のところがポワッて光りました。


 アンソニーお兄ちゃんが最初に僕の首のところ光ってるのに気付いてお父さん達を呼びます。みんなが僕のこと見たとき、もっと首のところが光りました。そして。

 僕の首の所になんか良く分かんない物が出て来たの。触ろうとしたらお兄ちゃんが触っちゃダメって。僕パッてお手て戻します。


「首輪…」


 僕の首についてる変なやつ首輪だって。何で僕に首輪が付いてるのかな? あの悪い人魚さんが言ってた首輪これ? 僕いらないから欲しいならあげるよ、だからこれあげたらみんなに意地悪しないで帰ってくれないかな? 


 そう思ってたら今度は首輪から何か出てきて、それがアルマンドさんの方に伸び始めました。うんとね石でできてる紐みたいなやつ。


「首輪に鎖! 何故? 俺は何もしていない!」


 アルマンドさんが叫びます。これ鎖だって。鎖はどんどんアルマンドさんの方に伸びていって、最後はアルマンドさんの手首に巻きつきました。


「ハハハっ! やはりこの力は素晴らしい!!」


 悪い人魚さんが笑ったあと、パンッ!! ってお手々叩きました。そしたら僕とアルマンドさん繋いでた鎖が、ブチブチブチっていろんなところが壊れてボロボロに。すって、鎖も首輪も消えていきます。


「まずい!!」

 

 アルマンドさんの声と一緒でした。僕の前に居たアンソニーお兄ちゃんがいきなり横に飛んで、壁にバンッ!! って当たりました。それで僕の前にはお兄ちゃんじゃなくて、あの悪い人魚さんがいつの間にか立ってます。悪い人魚さんが僕のこと抱っこして、今度はいつの間にか、僕お父さん達の前に居ました。ルトブルが張ってくれた結界、全部ぐにゃぐにゃになって消えちゃいます。


 僕そっと振り返ります。僕は悪い人魚さんに抱っこされたままです。悪い人魚さんは僕の頭にお手々乗せて、これで良いって言いました。

 首輪無くなったから良いの? もうみんなのこといじめない? そう思ってたら、悪い人魚さんが急に僕のこと抱っこしたまま、ゴホゴホ咳して座りそうになりました。


「ゴホッ、ゲホッ!!」


 それ見てお父さん達が僕の方に来ようとしました。でも、


「近づけば、すぐにでもこいつを殺す。それに『従属の鎖』はつけた。この子供は私から逃れることはできない。新しい力を手に入れた私からはな」


 悪い人魚さんがまた立ち上がって、僕のお顔パチンっ!! って叩いたの。


「ふえ…」


「ユーキ!!」


「とうしゃ…」


 首輪無くなったから大丈夫じゃないの? 何で叩くの。僕涙がぽろぽろです。


「ユーキ!!」


「今行くよ!!」


 お父さん達が止まってる横をディルとリュカとシルフィー、キミルとモリオンとホプリンが走ってきます。お父さんがみんなのこと止めたけど、みんな僕の周りに集まりました。


「ふん。お前達も何かの役には立つか。そっちの者達が来れば面倒だが、お前達が来たところで、この子供は逃げられんだろう」


 僕やみんな、それから悪い人魚さんの周りを、黒いもやもやとパチパチが包みます。それからお部屋の外に向かって歩き始めました。お父さんが動かないアンソニーお兄ちゃんチラって見て、すぐに付いてきます。

 お兄ちゃん大丈夫かな? 早く悪い人魚さんから逃げて、ディルにお怪我治して貰わなくちゃ。


 ドアから出て廊下をどんどん進みます。僕達の後ろをお父さんがついてくるけど、悪い人魚さんが僕の頭にお手々乗せて、僕がビクッてすると止まります。早く逃げないといけないのに、僕怖くて動けません。廊下には人魚さん達が倒れてて、みんなお怪我してます。この人魚さん達も治してあげなきゃ…でも…。


 お城から出てお外の結界の所まで来ました。悪い人魚さんがぶつぶつ1人でお話してます。そろそろ大丈夫とか、あそこまで移動できるか? とか。それから結界を触りました。その時、途中で止まってたお父さん達が僕達の所に来てくれました。

 ルトブルが睨みながら人魚さんとお話します。


「どこへ行くつもりだ」


「私がそれを言うとでも。この子供には私達の力の復活のため、協力してもらう。お前達はあと数日、自由な時間を味わうのだな。お前達の自由はもうすぐ無くなるのだから」


「ユーキを連れて行くのなら、我も連れてい行け」


「何を馬鹿なことを。ついて来てどうする? 私の邪魔をするのか? お前達が大事にしている子供を危険にさらして」


「お前達は力は欲しいのだろう? お前ももう分かっているだろうが、我もかなりの力を持っているぞ。どうやって力を集めるか知らないが、そんなにユーキを怖がらせて、魔力を引き出せなかったら? 私も連れて行った方が、確実なのではないか?」


「私を嵌めようとしているのか?」

 

 ルトブルと人魚さんがじぃ~と2人を見つめます。それから人魚さんがルトブルについて来いって言いました。


「変な気は起こすな。この子供がどうなっても知らんぞ。これを手首に付けろ」


 人魚さんがルトブルの方に何かを投げました。投げられた物を拾ってルトブルが手首につけます。何だろうあれ? ルトブルがつけたの見て、ルトブルの方に手を伸ばしました。そうしたらルトブルの周りにも黒いモヤモヤとパチパチが出てきて、ルトブルのこと包んじゃいました。


 お父さんがにっこり、いつもみたいに僕に笑ってくれます。


「ユーキ大丈夫だ。すぐにお父さん迎えに行くからな。この前もすぐにお父さん来ただろう」


 僕どこに行くの? 怖いよお父さん…。

 

 お父さんがお話してるのに、人魚さんが途中でお話止めちゃったの。それで人魚さん結界触ってたでしょう。その触ってたお手々がズズズズって結界のお外にどんどん出て行って、僕達結界のお外に出ちゃいました。

 ここに来た時みたいに、僕達の周り全部海です。人魚さんがお手々で来いってやります。やっぱりお手々で結界触ったまんまです。ルトブルも僕達みたいにお外に出てきました。


 結界の中のお父さんが何かお話してるけど、何お話してるか全然聞こえません。どんどんモヤモヤとパチパチが凄くなって、何にも見えなくなっちゃいました。


「あ、今移動した!」


 モリオンがそう言ったら、黒いモヤモヤもパチパチもすぐに薄くなりました。お外が見えるようになって、でも、さっきまで居た所じゃなかったです。お父さんもお兄ちゃんも居なくて、大きなお城もありません。別の海の街の前に居ました。


「こいつ僕みたいに魔法でここまですぐに移動したんだよ。僕とおんなじだけど違う闇の魔法」


「おい良いか、静かにしていろ。騒ぐのならまた痛い思いをするぞ。分かるか? 先程のように叩くと言うことだ」


 人魚さんが僕のこと叩くマネします。僕ビクッとしてみんなのこと抱きしめながら丸くなります。人魚さんは僕のこと抱っこしたまま、結界の中に入って行って、小さなお城まで行きました。

 悪い人魚さんが僕のこと下ろして、ルトブルの方へ行けって。僕達すぐにルトブルの所に走って行って抱っこしてもらいました。


「大丈夫だぞユーキ。我が居る」


「うん…」


 僕ちょっとだけ怖くなくなって、アンソニーお兄ちゃんのこと思い出します。お兄ちゃん倒れたまんまだった。お怪我大丈夫かな?

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