第265話あの人物達の影
(ジュード視点)
「本当に良いのだな」
「彼らは皆、自ら志願してきた者達です」
「確認だ。私の力になってもらうのだ。きちんと私自ら確認しなければ」
私の前に並ぶ5人の人魚。私が彼らに尋ねれば、皆静かに頷きその場に跪いた。
「そうか。では始めるぞ」
セオドリアから特別な魔力石を受け取り、私はそれに魔力を流す。魔力石が黒く光り始めると、私の前に並んでいる人魚の体から白いもやが出始めた。やがてその白いもやは私の方に向かってくると、私の体の中に入り始める。
そしてそのもやが消えると、人魚達は次々に倒れて、すっ、と目の前から跡形も無く消えていった。
「これは凄いな。今までにない程の力だ」
「ジュドー様、体に違和感はございませんか。彼らの魔力と能力を全て取り込んだのです。しばらくの間、静かにお過ごし下さい。何か変わりがあればすぐに治癒師を」
「分かっている。確かに今のままでは魔力が暴走しかねん。落ち着き次第招集をかける。それまでお前も休むが良い」
お辞儀をし、部屋から出て行くセオドリア。私は自分の手を何度か握り、首を回して次は肩を回す。その他の体の部位も何度か動かすと椅子に座り直し、セオドリアの言った通り、落ち着くまで静かに過ごすことにした。
私が今おこなったのは、他人の魔力とその能力を自分に移し変え、自分の力にするというもの。
それを行うために必要な特別な魔力石があるのだが、とても珍しいもので、何百年何千年と生きてきた我々一族でも、手に入れられたのは3度程。今回がその3度目だった。例の奴を捕らえに行ったとき、捕まえ体を調べていたとき、奴の鱗の間に挟まっていた石を、偶然発見したらしい。
石の話を聞きつけ、5人の人魚が自分達の魔力と能力をと志願し、そのおかげで今回私は、これまでにない力を得ることができた。彼らには全てが終わったあと、捧げ物でもしてやろう。
「ぐっ!?」
突然の不快感に、思わず椅子から崩れ落ちるように床に座ると、力を自分のものにするという感覚で、体の中を暴れる魔力を押さえ込む。
「ぐっ、げほっ、ごほっ。………流石に5人分の力となると、そう簡単に押さえ込むことはできないか。しかしこれが落ち着いてしまえば」
なんとか体を落ち着かせると、もう1度椅子に座り直す。
この力が落ち着いたら、すぐに行動を開始しなければ。あまり時間がかかっては、奴らに余計な対策を取られかねない。
セオドリアの報告では、アルマンドの張った結界が、今までにないほど強化されたと。おそらくあの子供の力を使ったのだろう。
私が5人分の力を手に入れても、最後に私達一族が手にしていた力には程遠い。早くあの子供を手に入れて、完全なる復活を遂げなければ。
それにはまずこれからどう行動するかが重要だ。攻め入るのは陸が先に決まっているが、子供をいつ奪いに行くか。
私は洋服から黒い石を取り出した。これを手に入れたときのことを思い出す。少し前、何度か偵察に陸の街へ出ていた時のことだ。私に2人の男が近づいてきた。私の魔力を見て声をかけたと。すぐに奴らを殺せるように警戒しながら、話を聞くことにした。男達の格好は全身黒尽くめで、顔もなるべく見せないようにしていた。そしてその男達が私に差し出してきたものがこの黒い石だ。
魔力量に応じて、能力が上がるというその石は、物をいろいろな場所へ転移させられるという物だった。私程の力が有れば、かなりの物を転移させられると言う。しかし、自分よりも力の強い者や物は転移させられないという事だった。
そんな物があるのかと石を眺めていると、男達は石を20個程、私に渡してきたのだ。しかも金は要らないと言う。こんな素晴らしい物をタダで渡してくるなど、何かあるに違いないと思い、何が目的だと聞けば、
「お前は私達と同類だからだ」
と。意味が分からず、これは危ないと思い石を返そうとしたが、男達は受け取らなかった。
「そうだな。交換条件とすれば」
何だ、やはり何かあるのか。これはやはり是が非でも返しておいた方が良い。石の入っている袋を渡そうとしたとき、
「これを使って暴れてくれればいい。それは俺達のためにもなるからだ。ちょうど良いのだ。では俺達はもう行く」
男達は勝手に話を切り上げ、歩き始めてしまった。おいっと声をかければ最後にと、
「その石は1度使ってしまえば砕けてしまい2度と使えない。永遠に使える物ではないのだ。使い所を間違うな。それから結界の中には転移出来ないから気をつけろ」
何だ。使い易いのか悪いのか分からん石だな。だが、簡単に転移できるのはやはり良いのか?
「お前達は何者だ?」
「なに、この世界を我々が暮らしやすい世界に変えるために行動しているのだ。あの方のために。もし俺達のような格好をしている物が接触してきたらこの名前を出せ。アブラムと。そうすれば話が早く済む」
そう言い残すと闇魔法を使い、すっ、と消えてしまった。奴らは闇魔法の使い手か? 私達一族にも闇魔法を使えるものは居ない。居ないと言うか先程私が吸収した人魚の中に、私達一族唯一の闇魔法が使える人魚が居て、今は私が力を使える唯一の人魚になった。
その時以降、黒服達に会うことはなかった。陸に上がる頻度も減少していたからかもしれないが。あの黒服達の本当の目的は分からないが、良い物を手に入れたことには変わりない。そして子供を手に入れれば、もし私達に見返りを求めて、力尽くで従わせようとしてきても、追い払う事ができるだろう。
石は残り8個程。大切に使わなければ。そういえば闇の力を得た私は、上手く使いこなせるようになればあの黒服達のように、この石に頼らずに自由に行動が出来るのだろうか? そうなればかなり行動が楽になるのだが。
いろいろな事を考えながら、魔力が落ち着くのを待つ。結局魔力が落ち着くまで1日かかってしまった。
「ジュード様、ようございました。なかなかお呼びいただけなかったので、心配しておりました。魔力の方はいかがですか?」
「もうほとんど違和感はない。少しこれから訓練がいるだろうが、それもすぐに終わらせられるだろう。訓練前にこれからのことを話したい。皆を集めよ」
「かしこまりました」
セオドリアが部屋から出て行く。私の訓練が落ち着き次第、侵攻開始だ。そしてあの子供を手に入れ、今度こそ、今まで一族がなし得る事が出来なかった、世界の全てを支配する事を成し遂げようではないか。
部屋に続々と隊長格の人魚達が集まり始めた。そして全ての人魚が集まると、私は椅子に座り直し話を始める。さぁ、ここからが本番だ。
(ユーキ視点)
「しゅっぱちゅ!」
今日もマシロに乗っかって、スージーちゃんとアーク君と遊んでます。くろにゃんは…昨日のマシロみたいに、今ぐったりお母さんの前でゴロゴロしてます。今日はね先にくろにゃんに乗っかって遊びました。ちょっとしか遊んでないのにくろにゃんすぐゴロゴロなんだよ。
「あなた本当はまだそんなに疲れてないでしょう?」
「何の事だ? 俺はもうヘトヘトだ」
「ふふ。上手く逃げたわね。ユーキちゃん達の体力は凄いから」
「マシロみぎにいってくだしゃい!」
「次は左!」
「みー、みー」
「主、そろそろお休みしないか…」
僕がお泊りしてるお部屋の壁に、イルンさんが板つけてくれて、毎日貝を1個ずつ外してくれてます。貝は全部で4つ。あと4回寝たらお家に帰れるの。あともうちょっと。嬉しいなぁ。海の中も楽しいけど僕早く帰りたい。
マシロ達が帰っちゃって少ししたらシーラお姉ちゃん達が帰ってきました。お姉ちゃん達は毎日悪い人魚さん達が近くに居ないか、お外に見に行ってくれてるんだよ。今日も悪い人魚さん居なかったって。
あのねもしずっと悪い人魚さん来なくなったら、シーラお姉ちゃん達が背中に僕のこと乗せて泳いでくれるお約束してくれました。僕とっても楽しみです。ルトブルに乗って海でバシャバシャ泳ぐのも大好きだけど、きっとシーラお姉ちゃん達に乗って泳ぐのも楽しいはず。
僕お約束してから、ずっとお願いしてるの。悪い人魚さん来ないでくださいって。このまま悪い魔獣も来ないと良いなぁ。
今日もたくさんみんなと遊べて僕ニコニコです。今日はお母さんがお泊まりしてくれるの。
「かあしゃん」
「なぁに? ユーキちゃん」
「ぼく、じぃじのおうちにかえったら、いちばんしゃいしょに、たまごにただいまいうでしゅよ」
だってずっと会ってない。寂しいって卵の中の赤ちゃん泣いてないかな?
「そうね。それが良いわね。さぁ。もう寝ましょうね」
「おやしゅみでしゅう」
そうだ。明日はスージーちゃん達と遊んだあと、みんなでグリフォンの赤ちゃんの名前考えようかな。どんな名前が良いかな? 男の子? 女の子? 早く生まれてこないかぁ。
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