第196話(ウイリアム視点)ユーキの魔力をどうするか…。

(ウイリアム視点)

森と街で1日遊んだ後、思った通りユーキがこっくりし始めた。キミルとモリオンはくろにゃんに乗りすでに寝始めている。マシロの上に乗っているディルとリュカは、姿は分からないが光が動かないところを見ると、やはりもう眠っているのだろう。

 ユーキが私の洋服を掴んできたので、抱っこしてやるとすぐに寝始めた。外で遊んだのだから本当はお風呂に入れたかったが仕方ないだろう。


 家に戻りベッドに寝かせると、私とオリビアは部屋を後にした。オリビアがお風呂に直行し、私は休憩室に向かう。部屋に入れば、父さんとハロルド達がソファーにどかっと座っていた。


「父さん母さんは?」


「風呂に行ったぞ。オリビアもじゃろう。当分出てこんじゃろうな。アシェルが茶を用意すると言っとった。街で花の茶を買っとったらしい。我々と一緒に行動していたのにいつの間に買ったのかのう?相変わらずできる男じゃ。」


 まったくだ。街では1度も離れなかったはずだが? それにしても花のお茶か。香りが良さそうだ。明日ユーキにも飲ませてやろう。


 ハロルド達の方を見れば、3人ともいい顔をしていた。久しぶりに家の仕事以外で、冒険者活動の真似ができたからな。本当だったら魔獣を倒したかっただろうが、それはマシロ達が魔獣達を威嚇していて出来なかったからな。とりあえず動けたただけでもストレス発散にはなっただろう。


 私が部屋に来てすぐにアシェルがお茶を運んできた。カップを口元に運べばすぐに、ほのかにとても良い花の香りが鼻を抜ける。ひと口飲めばそれがさらに広がった。


「なかなかだな。よく見つけたな。いつ買ったんだ?」


「ユーキ様がデザートを食されている間に。街に入ってすぐにお店を見つけておきましたので、すぐに買って戻りました。」


「は? ご飯の時か? いつの間に。だってお前ずっと居ただろう。」


「一瞬離れましたよ。」


 ………おかしいだろう。私達のテーブルの隣で食べていて、ずっとそこに居たのは知っているぞ。じっとアシェルを見る私に、父さんが首を振り目で会話してきた。考えるだけ無駄だと言っている。はあ、確かに考えるだけ無駄か。アシェルだからと自分に言い聞かせまたお茶を飲む。


「因みに、アメリアもユーキ様にお菓子を買っていましたよ。私の後に買いに行っていました。」


「そうか………。」


 こちらも考えないようにしておこう。考えたら負けだ。


 ふうと息をつき、父さんがおもむろに話し始めた。


「それにしても昨日は驚いたわい。今日遊びに行けるとは思わんかった。」


 まったくだ。昨日のユーキの姿を見れば、すぐに元気になったのが信じられないくらいだ。大きすぎる力を全部発散したとはいえ、あんなにすぐに元気になるものなのか? 昨日帰ってきた時、外で遊ぼうとしていたユーキを慌てて止めて、家の中で静かに遊ばせたが、まったくこちらの気も知らないで。


 それにしても魔力を使わせないようにしたせいで、あんなことになるとは思いもしなかった。無理やり魔力を使わなければ、暴走することはないと思っていたのだ。他の子供達は無理やり魔力を使い、その魔力が強すぎるために暴走するのがほとんどで、魔力を使わないのに暴走したのを見たことがなかったのだ。

 それだけユーキが持っている魔力が強すぎるということか。もともとの魔力にあの虹の魔力石のせいで、さらに力が強くなりすぎ勝手に暴走してしまう。本当に厄介な物がユーキを選んでしまった。


 これからどうするか考えなければ。また魔力を使わないで暴走されたら大変だが、どうやってユーキに魔力を使わせる。あの魔力量だ。今までにように少しだけ魔力を使ったくらいでは、また魔力の暴走を起こしかねない。

 マシロやエシェットにも話を聞きながら、これからの対策を考えなくては。


 そんな話をしていると、マシロとエシェットが部屋に入ってきた。


「ユーキを置いてきて大丈夫か? もし今起きたら慌てるだろう? 私達はまだ話があるから行けないが。」


「大丈夫だ。ルトブルとくろにゃんに任せてある。それにオリビアがくれば、今お前達が飲んでいる飲み物を飲んだらすぐにユーキの所へいくのだろう?」


「我らは今お前達が話していた主のことについて話に来たのだ。」


 エシェットがハロルド達をどかし自分が座ると、そのソファーの隣にマシロが座った。


「ウイリアム、お前がユーキに魔力を使わせたくないのは、話しを聞いていて分かっている。我は持っている力を使うのに何がいけないのか分からんが。練習すれば良いだけであろう。」


「そう簡単じゃないんだぞ。あれだけの魔力だ。」


 そう簡単なことではないのだ。ユーキに魔力の使い方を教えるのは。我々とはまったく違う力。未知の魔力量だと言っても良いほどの力だ。そんな力を、平均よりまあまあ強い魔力の私達がどう教えればいい。自分が子供の頃練習していた方法で補える物なのか? 


「そう言うが、主が魔力を使わなければ、また魔力は暴走するぞ。そしてまた森に穴が開くことになる。」


 それもちゃんと分かっている。分かっているが。


「お主達では教えられんのか?」


 父さんがそう言えば、


「我らが教えても構わんが、お前達は後から絶対文句を言ってくるだろう。我らが使う魔法は人間が使うものとはレベルが違う。もしユーキが我らと同じような力を街で使ってしまえば、街ぐらいなくなるぞ。そして我はユーキをそう育てる自信がある。」


 うん、それはダメだ。というか、そんなに自信を持って言われても…。はぁ、どうしたものか。


 お風呂から出たオリビアと母さんが部屋にやって来た。そしてお茶を飲みそろそろ寝る時間だと言ってきた。


「マシロにエシェット。とりあえずは明日すぐに暴走するわけではないのでしょう?」


「ああ、昨日だいぶ放出したからな。」


「じゃあ今日はとりあえず寝ましょう。ゆっくり眠って、明日またどうするか考えましょう。眠ってスッキリすればいい考えが出るかも知れないわ。ね。」


 オリビアに言われ、今日は解散となった。オリビアは先にユーキの元へ。私達は風呂に入り眠りについた。


 次の日の朝、とりあえず今日中に終わらせなくてはいけない書類仕事をしていると、オクタビオが1人で部屋にやって来た。1人で行動するなんて珍しい。何かあるのか? 問題が起きたとか。ユーキの問題以外今は起きて欲しくないのだが。

 机の前にピシッと立つオクタビオ。


「ウイリアム様、ユーキ君の事で私から提案があります。」


「何だ?」


「私がユーキ君に魔力の使い方を教えてもよろしいでしょうか?」


 まさかの申し出だった。私はオクタビオをソファーに座らせアシェルにお茶を頼み、自分もソファーに腰をかけた。すぐにお茶をは運ばれて来て話してを再開する。


「それで、どうして急にユーキを教えると言って来たんだ。」


「ウイリアム様は今回、もしユーキ君に魔力の使い方を教えるのであれば、オリビア様にと思われていたのではないですか? 私のことをお忘れですか? 私はユーキ君には全然及びませんが、それでも他の子供よりもだいぶ早く魔力に目覚めたのですよ。」


「!!」


 そうだった! 言われてみれば確かに。あまりに久しぶりに会ったから忘れていた。


 オクタビオは皆より少し早く、5歳の頃魔力に目覚めた。私達と知り合いだったオクタビオを父さん達が何とか外に漏れないように、オクタビオの家族と一緒に教会に隠していたのだが。

 その頃街には、最上級の冒険者がいた。その冒険者は父さんの知り合いで、家の地下でオクタビオの訓練をしてくれたのだ。今その冒険者はハロルド達のようにふらっと何処かへ行ってしまっていてユーキを頼むことは出来ない。しかしその冒険者の教えを受けたオクタビオだ。もしかしたらユーキにうまく魔力の使い方を教えることができるかも知れない。


「ユーキ君に会って、魔力を持っていると聞いて、昔の私を思い出していたんです。あの時彼が居なかったら、魔力が暴走して死んでいたかも知れない。そして先々日のユーキ君を見て思ったんです。今度は私が彼の教えをユーキ君に伝える番だと。ただ…。」


「ただ何だ?」


「ユーキ君の力は強過ぎますからね。どこまで彼の教えが使えるかどうか。もしかしたら上手くいかないかも知れません。それでもよろしければ。」


「是非頼む。やってみなければ分からないからな。やってみてもしダメでも、お前の教えがユーキに少しでも伝えられれば、この後どうにかなるかも知れない。」


 その教えの最中にエシェット達も参加させれば、オクタビオがもし無理でも、エシェット達が加減というものを知り、ユーキに教えることができるかも知れない。

 私はユーキのことをオクタビオに任せることにした。オクタビオが声を上げてくれたことに感謝しなければ。

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