第191話魔力の暴走

(ユーキ視点)

 うゆ? 何かおかしいよ。うんと…。あれ? そっか。僕倒れちゃったんだ。だからみんな横に見えるんだね。失敗失敗。

 僕はすぐに起き上がろうとしたんだ。でも、全然起きられないの。頭がフラフラ。お体も、マシロ達がお話してきた時よりも熱くなってる? あのねお胸がとっても熱いんだ。僕魔力全然使ってないのにね。


「マシロ…。」


「主、すぐウイリアムを呼んでくる。」


 マシロが走ってドアを出ていくのが見えました。みんなとっても心配なお顔してる。大丈夫だよ。僕すぐに起きられるよ。だってディルが居るんだもん。みんなもお父さん達も居るし。


「ユーキベッドに連れて行く。」


 エシェットが僕のこと抱き上げました。あれれ? さっきよりまた体が熱くなったよ? それに何か頭も痛くなってきちゃった…。ちょっと怖いよ。


「すぐによくしてやる。大体の原因は分かっているからな。ただそれをするにはウイリアムに話をしなければな。」


「???」


「心配するな。今は寝ていろ。」


 僕はエシェットに抱っこされて、ルトブルにそっと頭をなでなでしてもらったら、少しだけ頭が痛いのが治ったよ。

 エシェットが寝てろって言うから、僕はそっと目をつぶりました。起きたら治ってるといいなぁ。お風邪引いちゃったのかも。早くディルに治してもらわなきゃ。だって明日はみんなでおでかけだもんね。


(ウイリアム視点)

 仕事のため部屋に篭っていた私の所に、マシロがドアを粉々に破壊しながら入ってきた。何だ? 何の騒ぎだ? マシロがこんなふうに部屋に入って来るとは、私達に怒っているか、ユーキに何かあった時くらいか。怒らせた覚えはないから、ユーキに何かあったという方が合っているだろう。


「マシロ、ユーキに何かあったか?」


 私は立ち上がりながらマシロに聞いた。


「主が倒れた。おそらく今頃エシェットがお前達のベッドに運んでいるはずだ。我はオリビアを呼びに行く。早く行け。」


「は? 分かった!!」


 慌てて部屋を出て、私達の寝室に向かう。何だ? 風邪か何かの病気か? しかしそれならすぐにディルが治すはずだ。前に風邪の引き始めての頃、さっさと治していたからな。それに怪我をした時もさっさと治して、私に報告されたのはずっと後だった。早く知らせに来いと言ったのだが毎回報告が遅く、こんなにすぐ私を呼びに来るのは初めてだ。

 マシロがこんなにすぐ私を呼びに来るとは、しかもオリビアまで呼ぶとは、そんなにユーキの具合は悪いのか? ユーキの魔力でパワーアップしたディルの力でも治せないほど…。

 知らずに小走りになった私と、階段でハロルド達と出くわした。


「何だ兄貴そんなに慌てて、何かあったのか?」


「ユーキが倒れた。」


「は? だってあの妖精がいるんだろう? そんなに慌てなくても…。」


「何か様子がおかしい。」


 急ぐ俺にハロルド達もついて来る。仲直りをしてからだいぶユーキ達と打ち解けたハロルド達。ユーキのことを心配しているのが後ろから伝わってくる。基本この3人は子供好きだからな。アンソニーやジョシュアともよく遊んでくれていた。あの悪戯がなければすぐにでも仲良くなれたはずだったのだが。


 ベッドに寝ているであろうユーキに気をつけ、そっと寝室のドアを開けた。部屋に入るとベッドの周りをエシェット達が囲っていた。

 ベッドに近づきユーキの様子を見る。苦しそうにハァハァ息をしながら眠っていた。


「エシェット一体何があった。何故ディルに回復してもらわない。」


「今はディルが力を使うとさらに具合が悪くなるぞ。今のユーキの症状を無くすための方法は1つだ。しかしそれにはお前達の許可がいるはずだ。規模がどのくらいになるか分からんからな。まあ、我が結界を張れば大丈夫だろうが。」


「何を言っている?」


 さらに詳しく話を聞こうとしたとき、慌ててオリビアが入って来た。父さんと母さんも一緒だ。


「ユーキちゃん!」


 ベッドに駆け寄るオリビア。


「しっ。今は眠っている。」


「そうね。ごめんなさい。マシロが珍しく呼びに来たものだから慌ててしまって。」


 やはりオリビアもマシロが呼びに来たことにおかしいと感じたらしい。慌てるオリビアを目撃した父さん達も一緒について来たと。


 皆が集まったところで、改めて詳しくエシェット達に話を聞く。その間にもエシェットはディルに回復しないように強く言っていた。一体どんな病気なんだ。

 エシェットに聞いた話。ユーキは病気ではないというものだった。なら何故ユーキはこんなに苦しそうにしている。顔を触って見れば凄い熱だ。これが病気でないなら何だと言うんだ。


「溜まりすぎた魔力に、ユーキの体が耐えられなくなっているんだ。」


 魔力。そうか! これは魔力の暴走か! 今まで魔力を何度か使ったが、暴走することなどなく、そんなに素振りを一切見せていなかったから油断していたが。大体どうして急に魔力が暴走した?


「虹の魔力石が原因だろう。それとこの頃お主が、ユーキに魔力を使うなと言ったのが原因だろう。何故急に暴走したのかは分からん。我らも先程気づいたのだ。」


 ユーキに魔力を使わせず、強力な魔力はどんどんユーキの中に溜まり、それが上限を超え、余計な魔力を放出しようと溢れ出て来ているらしい。

 まさかこんなことになるとは。こんなことなら少しずつでも魔力を使わせておけばよかった。悔いる私にオリビアがそっと手を握ってくる。


「今出来ることをしましょう。早くどうにかしないと。」


 そうだ。オリビアに言う通りだ。早く何とかしなければ、このまま魔力の暴走が止まらなければ、ユーキはこのまま寝たきりになるか、最悪死んでしまう可能性がある。

 だが魔力の暴走などどうすればいい。たまに自分自身でそれを抑え込む子供もいたが、ほとんどが…。

 考え込む俺達に、エシェットとマシロが軽い口調で話しかけて来た。


「何をそんなに考え込んでいる?」


「主に魔力を使わせれば済むことだぞ。」


 ずいぶん簡単に言って来たが、それが出来れば苦労はしない。どうやってこれだけユーキを苦しめる膨大ない魔力を本人に使わせる?

 今、魔力の暴走を起こした子供達に、1番有効だと考えられている方法は、魔力石に出来るだけ魔力を流す、これだけなのだ。しかしそれも魔力が暴走している状態で使えば、石が耐えきれず砕けてしまい、あまり成功したことがない。

 しかもユーキは、私達のようにちゃんと魔力石を使った訓練をした事がないんだぞ。今までは何となくで力を使ってしまっていただけだ。あとはマシロ達との契約のときに使っただけなのだ。


 私がそう説明すれば、エシェットもマシロも不思議な顔をしている。何だ?


「我に魔力を流すか、ルトブルに魔力を流し、我々がそれを放てば良いだろう?」


「は?」


 思わずそう言ってしまった。オリビア達もあまり分かっていないようだった。そんな私達にエシェット達はさらに不思議そうな顔をした。


「だから我らがユーキの力を放てば良いと言っているのだ。簡単な話ではないか。ただそれにはいろいろ準備がいる。こんな狭い所では無理だろうしな。」


 エシェットの考えはこうだった。街の近くにある少し小さな森に行き、そこでエシェットとルトブルが結界を張る。そしてユーキがどちらか、それとも2人に魔力を流し、2人がその魔力を放つ。今のユーキの力からいけば森の半分は無くなるだろうから、消し飛んだ森はルトブルとキミルに直してもらう。

 また結界を張るため、それ以上の被害が出ないだろうが、もし結界を破りそうになるようなら、モリオンの闇の力を使い、闇の中に放った魔力を吸収してもらう。

 また、それを勝手にやっても良かったが、さすがに今回の魔力の量を考えると、私達に言わなければ、また後からごちゃごちゃ言われ怒られると思い、私達を呼んだと言うのだ。


 当たり前だ! 珍しくエシェットが思いとどまり良かったが、勝手に森に行かれなくて良かった。私が怒ろうとしたとき、ユーキがうんうん、さらに苦しみ始めた。オリビアがユーキの頭をそっと撫でながら、エシェットに話しかける。


「それは石を使うより、確実な方法なの?」


「そこらへんの魔力石を使うより、ユーキの魔力に耐えられる我々がやった方が、ユーキの苦しみは早く終わるぞ。それに契約している我々なら、さらにうまく魔力を放出できる。」


「そう…。あなた時間がないわ。このままじゃユーキちゃん明日までもたない。ここはエシェット達に任せるのが1番よ。」


 確かに今のユーキなら明日まで持たないだろう。ここはエシェット達に任せるしかない。我々には何もできないのだから。


「………分かった。だが私も連れて行け。後の森の修復の指示は私がしなければいけないだろう。」


「分かった。では行くぞ。」


 すぐに準備を済ませ、ユーキの元に集まる。くろにゃんに頼み近くの森にこれから移動する。苦しそうなユーキを抱き上げ出発だ。オリビアがユーキの額にキスをした。


「行ってくる。」


 そして私達は森へと移動した。ユーキ待ってろ。すぐに楽にしてやるからな。

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