第168話可愛いルーリア

(ウイリアム視点)

 帰り道は何事もないまま順調に進み、ちょうど家まで半分くらいのところまで来ていた。あまりに順調で予定よりも1日以上早く着いたため、今日は御者と馬を休ませるために、通りすぎるはずだった街で1日泊まることにした。これもエシェットの雪のトンネルのおかげだが、私としては少し複雑な気持ちだ。ユーキがこれを普通だと思わなければ良いが。


 昼前に着いたため、少し休憩したあと昼食を食べ、ユーキ達とアンソニーとジョシュアはお店通りへと遊びに行った。アシェルが見張りとして付いて行ったから大丈夫だろう。

 これからの予定を軽く確認し、1日泊まったとしても家に早く帰れるだろうと話がまとまった。帰ったらまた仕事の日々だ。嫌になってくる。

 部屋に薬草茶を持って来てもらいゆっくりする事にした。ちょっとした薬草茶に合うお菓子も用意してもい、父さんや母さんオリビアと一緒にゆっくりする。


 それにしても大変だった。ボルフィスへは確かに報告とユーキのことで訪れたが、ユーキにはボルフィスで思いっきり遊んでもらおうと思っていたのに。それに私達も「死黒の鷹狩り」の事やいろいろな事でバタバタしていたため、久しぶりに羽を伸ばそうとしていたのだが。

 まさかこんな大事件に巻き込まれてしまうとは。そしてどれだけユーキ達はやらかしてくれたのか。まさかアスピドケロンと闇の精霊と契約してしまうとは。それにあの虹色の魔力石。あきらかにユーキの魔力に変化をもたらしている。ディル達が力が上がったのはおそらくあの虹色の魔力石のせいだ。


 さて、本当にどうしたものか。ユーキにはこれからゆっくりと、一般常識を教えていかなければいけない。だがどこまで分かってくれるか。

 それに魔力を使うなと言ってきたが、これも考えを変えなくてはいけないかもしれない。だがあんなに小さいユーキにどうやって教える。もし間違った事を覚えてしまったら、魔力の使いすぎで魔力が暴走してしまったら…。

 確かに私達家族は全員一応魔力は使える。だがそこまで専門ではないのだ。それを見かねてエシェット達が教えてみろ。家が吹っ飛ぶかもしれない。いや街か?はあ、考えてたら頭が痛くなってきた。


 私が難しい顔をしているのに気づいたオリビアが、私の手を握ってきて優しい笑顔を向けてくれた。


「大丈夫よ時間はあるわ。ゆっくり間違った方向に向かわないように、私達がユーキちゃんを導いてあげましょう。」


「ああ、そうだな。」


「それにしても今回はあまりお酒が飲めんかったのう。リチャードともソルイともゆっくり話せんかったわい。まあ、あのちび達には追いかけられんでよかったが。」


 まったくそのとおりだ。私もジャニスと飲んだ日は次の日危ないと思ったが、キミルのやらかしのおかげで助かった。ん?もしかしてそれが今回1番の良いことか?これが1番良い事?思わず笑ってしまった。オリビア達も笑っている。


 そんな感じでゆっくりしていると…。


「ふぇっ、ヒック、エグっ。」


 ボロボロ涙を零しながら、アシェルに抱っこされたユーキが部屋に入ってきた。


「ユーキどうした?!」


「まあまあユーキちゃん。そんなに泣いてどうしたの。」


「かあしゃん!!ふえええっ。」


 アシェルに下ろしてもらったユーキが、立ち上がったオリビアに駆け寄り抱きついた。


(ユーキ視点)

 お母さんに抱きついた僕。今僕とっても悲しいです。

 あのねお店通りで遊んでたら、ルーリアたくさんいたの。ルーリアと一緒にいたおじさんは、お母さんとはぐれちゃったルーリア達と一緒に暮らしてて、この街に住んでるおじさんでした。それでね僕がルーリア好きって言ったら、触って良いよって言われたんだ。だからおじさんの肩に乗ってたルーリアが1番好きだったから、そのルーリア触らせてもらおうとしたの。そしたら…。


「そう、威嚇されちゃったの。ユーキちゃんルーリア大好きだものね。」


「他のルーリアはそんなことなかったのですが、ユーキ様が1番気に入ったルーリアだけ何度試しても威嚇されてしまって。」


「それで泣いて帰って来たのか。ユーキ。もしかしたらそのルーリアはとっても気分が悪かったのかもしれないぞ。」


 もしかしたら具合が悪かったかもしれないし、何かに怒ってて触って欲しくなかったのかもって。そうなの?ならディルに治してもらえば良かったかな。そうすれば仲良しになれたのかな。だってどうして唸るのかマシロに聞いてもらったけど、唸るだけで何も言わないって言われたんだ。


「ユーキこれは仕方がないんだ。今回は残念だったな。もしかしたらいつかこの街に来てまた会えたら、そのときはなでなで出来るかもしれないぞ。他のルーリアは触れたんだろう?じゃあ良かったじゃないか。さあ、もう泣き止んで、ほら大好きなおやつの時間だぞ。」


 今日のおやつ全然楽しくない…。もそもそクッキー食べて、今日は1枚しかクッキー食べませんでした。大きなクッキー1枚。いつもはもう1枚食べるんだよ。

 夜のご飯ももそもそでした。ツンツンしてから食べて、またツンツンしてから食べて、とっても時間がかかっちゃった。ルーリアなでなでしたかったなぁ。


 のそのそしてたら寝る時間になっちゃった。お母さんとお父さんに挟まってベッドに入りました。


「コツン…。」


「すうすう…。」


「コツン…。」


「うゆ~。」


 何の音?僕が起きたらマシロもみんなも起きてました。寝てるのはお父さんとお母さんだけ。エシェットが僕のことそっと抱っこしてくれました。


「ユーキに客のようだぞ。ウイリアム達が起きるとまた煩いからな。声が聞こえない結界を張ってやろう。」


 お客さん?誰だろう。僕眠たいの…。ショボショボお目めを擦ってたら、またコツンって音がしました。窓の方から聞こえます。ルトブルが窓を開けたらひょいって何か小さいのがお部屋に入って来ました。


「ルーリアでしゅ!!」


 ルーリアがお部屋に入ってきたんだ。僕がなでなで出来なかったルーリア。絶対そうだよ。ルーリアは僕の前に来てちょこんってお座りして、何かお話始めました。


「キュイキュイ、キュキュイ。」


 う〜ん。分かんないね。マシロにお願いしよう。マシロにお願いして何言ってるのか聞きます。それから何でここに来たのかも聞いてもらったんだ。そしたらね、僕がなでなでしようとしたとき、唸ったこと謝りに来てくれたんだって。


 僕と初めて会ったとき、僕達から変な感じがしたんだって。黒いモヤモヤしてとっても嫌な感じ。このルーリアは他のルーリアには分からない、悪いもの見たり感じたりするのが得意なんだって。だから嫌な感じのする僕に触って欲しくなかったんだって。僕が悪い人間だと思ったみたい。


「まだ、あの黒服共の嫌な気配が残っていたか。」


 マシロがそう言いました。あの悪い黒服さん達の気配?


「主には難しいな。そうだな、匂いみたいなものだ。」


 え〜ヤダ。そんな匂いが僕についてるの。早く取れないかな。あの良い匂いのするお花の中に潜ってたら、早く匂い無くならないかな?


「キュキュイ。」


「ふむ、そうか。」


 それでね、僕達が帰った後、あんなに嫌な匂いがしてたのに、みんなが僕と仲良しなの思い出して、悪い人間にあんなにいっぱいみんなが集まらないはず、僕間違ったかもって謝りに来てくれたんだ。


「えとえと、じゃあなでなでいいでしゅか?」


「キュイキュイ!!」


 ルーリアがエシェットを登って来て、僕の肩に乗っかってくれました。そっと体をなでなで。次に頭をなでなでします。ふわわ。ふわふわだ!


「なでなでありがとでしゅう!」


 そのあとちょっとだけみんなで遊んで、もう帰る時間だって。もう少し一緒にいたかったけどしょうがないよね。お友達になろうって言ったけど、今はまだお友達になれないんだって。そっかぁ。残念。ルーリアにバイバイしたら、窓からサササッてお家に帰って行きました。エシェットが結界を消して、僕はベッドに戻ります。


 朝少し眠たかったけど、僕はルーリアなでなでできてニコニコです。お父さん達がどうしてニコニコしてるのか聞いて来たけど、ルーリアのことは秘密だってエシェットが。


「ないしょでしゅう!ふんふん♪ふんふん♪」


「まあ、機嫌が直って良かったが、一体何があったんだ。」


 この街に来ればまたルーリアに会えるかな。くろにゃんかモリオンと来ればすぐだよね。でもお父さん達と一緒じゃないとダメだよね。う〜んどうしよう。

 馬車に乗ってお店通りを通ったら、あのルーリアが居ました。僕がバイバイしたら、しっぽを振ってくれました。また会おうね。絶対だよ!


『キュイキュイ(付いて行かなくてよかったの?)』


『キュイキューイ(そうだぜ。行っちゃうぞ。)』


『キュキュイ、キュキューイ(だってまだ行けない。きっともうすぐまた連れて来られるよ。僕達がお世話してあげなきゃ。)』


『キュキューイ…(そうだね…)』

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