第157話消える黒服、消えるアブラム

(アブラム視点)

「ん?ここは?」


 俺は目を覚まし周りを確認しようとしたが、目が霞んでいたため擦ろうとして、手足が自由に動かせない事に気づいた。微かに冷たさを感じたため、おそらく鎖で手足の自由を奪われているのだろう。仕方ない。目はそのうち元に戻るだろう。とりあえず頭を軽く振り、眠っていた頭の働きを促す。


 それにしても何が起きた?魔力が使えなくなり、そしてそれが闇の精霊様によるものだということも覚えている。その後大きな衝撃を受けたと思ったが…。その後の記憶が全くない。


 ようやく目が慣れてきて目の前を見てみれば、頑丈そうな魔力封じの石で出来ている格子が目に入ってきた。城の地下牢か何かに閉じ込められられたか?


「起きたか?大人しくしていろよ。どうせ何も出来ないと思うがな。」


 格子の前には騎士が2人立って見張っている。さらに情報を集めようとして周りを見渡せば俺の反対側、やはり鎖で繋がれている俺の仲間であろう人物が転がっていた。


 しかし初め、その人物が誰かなのか全く分からなかった。顔、頭と言ったらいいか?頭に闇がまとわり付き、全く顔が分からなかったんだ。しかもここは薄暗いため、1番大事な印に気づくのが遅れてしまった。


 薄暗いのにも慣れた頃、ようやく寝転んでいる人物が誰なのか分かった。寝転んでいる人物はキュルス様だった。我々が着ているフード付きのマントの裾には、能力や実行する役割が上に行くにつれ、指揮者としてマントの裾に印が入れられる。今寝転がっている人物のマントの裾には、赤色で二重の線が刺繍されていた。あの色はキュルス様のものだ。


「キュルス様。」


 ぴくりとも動かないキュルス様に声をかけてみるが、全く反応がない。呼吸をしているのかさえマントのせいで分からない。だが死んでいる者を牢屋に入れることはしないだろうから、おそらくは生きている筈だ。

 一応魔力が使えるが試してみたが、やはり俺が気を失う前と同じで、魔力の反応はない。まあ使えたとしても、この魔力封じの石の格子で囲まれていれば関係ないが。

 しかしキュルス様の頭を覆っているあの闇は何だ?あれをやったのは闇の精霊様だと思うが、何故あんな事に?


 今外はどうなっているのか。全員捕まったか、それとも闇の魔力を消され、無理やり契約していた魔獣共に殺されたか。大体俺はどれくらいの間気を失っていたんだ?分からない事ばかりだ。


 何も出来ないまま、あの時の戦いのことを思い出す。

 キュルス様に呼ばれて駆けつけてみれば、そこに居たのはあの男。私とブラックを殺そうとした規格外の力を持っている男だった。指揮をしていたせいで気付くのに遅れてしまった。

 キュルス様の力によって、子供の事も、他の事も全てが上手くいくと思い、これならばブラックの事も聞けるのではと思っていたが。


 あの時我々を殺そうとしてきたのは、あの子供が居たからか?あの子供は一体なんだ。ブラックの報告では、変異種のフェンリルと伝説の生き物カーバンクル、それと妖精2匹を従える、かなりの魔力を持っている子供と報告を受けていた。しかしその他にもあの規格外の男を側に置き、挙げ句の果てには、あの最上級の闇の魔力石を使えるキュルス様がようやく魔獣契約をしたアスピドケロンを、簡単に奪いさって魔獣契約をしてしまった。

 あれだけの力、我々の力として使えたら。あともう少しで我々の物にできたのに。


「パチパチッ…。」


「?」


「パチパチパチッ。」


 火花が散るような音が、どこからともなく聞こえてきてきた。何だ?そう思った瞬間だった。


「何だこの様は。」


 声と共に、牢屋の中に我々の仲間が現れた。すぐさまマントを確認する。まさか?!何故ここに!!現れた人物は思いもよらない人物だった。

 そのお方は魔力が使えないはずの牢屋の中で、簡単に魔力を使い闇魔法を繰り出すと、見張りの騎士をさっさと殺してしまった。そして闇で牢屋を包むと次の瞬間、見覚えのある場所に移動していた。そこは数ある我々のアジトの1つ、1番大きなアジトへと移動していたのだ。


 我々を待っていたのか、仲間が鎖を素早く外しキュルス様はどこかへ運ばれて行き、俺はついて来るように言われそのお方の後に続いた。

 連れて行かれた部屋には、俺の力が到底及ばない、俺達の組織のトップの面々が揃っていた。俺は部屋の真ん中に立ち、そんな俺を囲むように椅子に座っている。ざっと10人くらいか。あの方も席についた。その圧に勝手に体が震える。


「ずいぶん早く戻ったな。」


「あれくらいの結界ならばこの石を使えば問題無い。よし、話をはじめよう。アブラム、何があったか全て話せ。全てだぞ。」


 俺は圧に何とか耐えながら、起こった全ての事を話した。少しでも間違えのないように。全てを話し終え、そこで俺は膝をついてしまった。

 緊張のし過ぎで、周りの話が入ってこない。気づけば話し合いは終わっていた。あの方の呼びかけで、はっと我に帰る。


「よく聞け。我々は少しの間、闇に紛れる事にした。その間、今回のような大規模な行動は一切行わない。いや、今回のような大規模な行動だけではない。今までやってきた小さな物も全てだ。お前達下の者達はこれから各自、個々の力を強化する事だけに専念するように、全てのアジトに伝令を出す。」


 それはびっくりする内容だった。


「何故です!それでは今まで我々がやってきたことが無駄になってしまう!」


「話は終わりだ。お前は自分が属しているアジトへ送らせる。そこで魔力の回復に励め。」


 引きずられるように部屋をでて、すぐに俺が属しているアジトへと送られた。

 何故だ、何故なのだ!今あの子供と精霊様を何とか仲間にする事が出来れば、全てが手に入り、我々の悲願を達成出来るかも知れないのに。


 数日後、全てのアジトに伝令が送られた。その内容はあの時俺が聞いたものと変わりがなかった。ほとんどの仲間も俺と同じ思いだったらしく、組織から抜ける者も現れた。

 どうしてこんな事に。これも全てあのガキのせいだ。魔力の復活していない今の俺には何も出来ないが、いつか、いつか必ず思い知らせてやる!絶対だ!!

 俺はそう誓うと、組織からも世間からも姿を消した。


(ウイリアム視点)

 それは急な知らせだった。地下牢へと続く階段の所で見張りをしていた騎士が、慌てて報告にきた。地下牢が丸ごとなくなったと。そして見張り付いていた騎士は体を切断されて死んでいたらしい。


 国王様、殿下と、慌てて地下牢に向かったが、報告の通り地下牢が丸ごとなくなってしまっていた。ただただ穴の空いた空間が広がっているだけだ。ここの牢にはあの重要人の黒服2人が入っていたはず。あの2人はどうなったんだ。

 そこでハッとする。他の牢に入れてある黒服達はどうなったんだ?慌ててそちらの牢を見にいくと、捕まえた全ての黒服が殺されてしまっていた。見張りの騎士と一緒に。


 穴の空いた牢の方に戻り、階段の上にいたの騎士に話を聞いたが、何も見ていないらしい。気づいた時には穴が開いていたと。

 我々ではどうしようもなく、寝ているエシェットを呼びに行きこれを見せる。


「やられたな。我の結界を破る程の魔力の持ち主か?」


 やはり黒服の仲間か。くそっ、今度こそ奴ら事が分かると思っていたのに。重要人物は連れ帰り、他の人間は見捨てたか?どちらにしろ、残された死体を調べるしかなくなってしまった。

 一体今何が起きているのか。この黒服達の狙いは何なのか。ユーキが黒服達の最大の戦力であっただろうルトブルと契約してくれたおかげで、すぐにまた攻撃を仕掛けてくるとは思えないが。油断はできない。

 はぁ、まだまだ心休まる時間はこないらしい。

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