第155話グリフォンのお願い

(ウイリアム視点)

 ニコニコのユーキ。ニヤニヤしているエシェット。溜息をつくマシロとアシェル。苦笑いするアンソニーとジョシュア。

 そして知らない男と先程まで戦っていたグリフォン。何だ、この状況は。殿下に呼ばれるまでに少し話を聞いておこうと思ったのだが…。これはあまり話を聞かない方が良いのではないか?そんな気がする。今までこんな状況が何度あった?その度に私は驚かされてきただろう。そう思っていた事が顔に出たのか、隣にいたオリビアが、


「あなた?大丈夫よ。あなたなら受け止められるはずよ。」


「………。」


 オリビアも私と同じ考えのようだ。ユーキ、お前グリフォンと契約したのか?はあ、また凄い魔獣と契約を…。それに私達が居ないうちに、他にも何かやらかしたのだろう。

 深呼吸し、覚悟を決め皆が居る部屋の奥へと入って行った。しかし報告された内容は、もっと大変なものだった。


「は?!」


「え?」


 さすがのオリビアも声を出した。今何て言った?


「ユーキもう1度言ってくれるか?」


 思わずもう1度聞き返してしまった。ユーキは男の隣でニコニコしながらもう1度男を紹介してた。相変わらず簡単な紹介だが。本人はしっかり紹介していると思っているから仕方ないが。


「えと、ルトブルはルトブルで、カメさんのルトブルでしゅ。エシェットみたいにへんしんできるでしゅよ。かっこいいでしゅね。」


 亀さん…。ははは…、まさかな。俺はアシェルとアンソニー達を見た。皆黙ったまま頷いている。男、いやルトブルが話し出した。


「我の名前はルトブル。アスピドケロンのルトブルだ。ユーキにあの地獄から救ってもらった。これからはユーキのために尽くすつもりだ。よろしく頼む。」


「あ、ああ。私はユーキの父親でウイリアムだ。彼女は母親のオリビア。」


 あまりのことに、私の方も普通に返事をしてしまった。そんな俺の返事を聞いてオリビアは笑っていたが、まさかもう受け入れたのか?!


 アスピドケロン…。あの時我々は、アスピドケロンが突然消えた事を不思議に思っていた。相手ができるのはエシェット達だけだった為、倒してくれたのだろうと思っていたが、アスピドケロン自体が消えたのを見て不思議に思っていたのだ。あんな大きい魔獣が消える程の攻撃をしたならば、それだけの衝撃があるはずなのにと。

 まさか消えたのではなく、ユーキと契約していたなんて。


 私の慌てている様子を見てエシェットが笑っている。ユーキはユーキで、


「ルトブルとおともだち、うれちいでしゅねぇ。」


 とルトブルに抱きついている。契約してしまったものはしょうがない、しょうがないが…。ただでさえユーキの周りは規格外ばかりなのに、これを国王様が聞いたらどうなるか。エシェット達の事を聞いても受け入れてくれたのだから大丈夫だとは思うが。やはり見過ごすわけにはいかないと、国に囚われてしまったら…。

 そう考えていた時、閉めていたドアがバンッと大きい音を立てて開けられ、国王様が目を輝かせて部屋の中に入って来た。


(ユーキ視点)

 お父さんとお母さんにルトブルを紹介してたら、バンッてドアが開いて、王様とサルバドールさんとエイムさんがお部屋に入って来ました。それでね僕のこと見てルトブルのこと見て、それからサルバドールさんのこと見ました。サルバドールさんが頷いてます。何だろう?僕がびっくりしてたら、王様が僕の方に来て、ぎゅうって僕のこと抱きしめてくれました。


「よくやってくれたユーキ。怖かったであろう。しかし、ユーキのおかげでこの街はなくならずに済んだ。ありがとう。」


 王様が僕にありがとうしてくれました。ありがとう?僕何もしてないよね?僕ルトブルやモリオンとお友達になったけど。

 王様は僕を抱きしめた後に、ルトブルの前に立ちました。


「お主がやったことは決して許されるものではない。しかしその原因を作ったのは我々人間だ。長い間苦しめ申し訳ない。黒服の者共に謝らせたいが、そうもいかんだろう。ワシはこの国の1番上に立つ者、ワシからの言葉で許してはもらえないだろうか。」


 王様がルトブルにお辞儀しました。それからサルバドールさんがお辞儀して、お父さん達みんながお辞儀しました。悪いのは黒服さんでしょう?どうしてごめんなさいするの?よく分かんないけど、でもみんながごめんなさいなら、僕もごめんなさいしなくちゃ。


「えと、ルトブル、ごめんしゃい?でしゅう。」


 僕がお辞儀したら、ルトブルが僕のこと抱っこして、頭なでなでしてくれました。


「別に謝らなくていい。我は今もお前達人間が憎い。それはそうそう変わらんだろう。だが、ユーキに出会えたことは我にとって、とても幸運なことだ。今回はユーキに免じて攻撃をやめたまでのこと。」


「それでもだ。」


 僕よく分かんないまま、お話終わったちゃったけど、ルトブル許してくれたのかな?もう、黒服さんのせいだよきっと。後でちゃんとお父さんにお仕置きしてもらわなきゃ。エシェットでもいいよね。


「エシェット、あとでくろふくしゃん、おしおきちてくだしゃい。」


「ああ、良いぞ。」


「!!」


 マシロが急にハッてお顔あげました。でもすぐに元通り。それで後でお話があるってお父さんに言ってました。何だろう。僕にも後でお話してくれるかな?


 みんなでごめんなさいした後は、グリフォンのお話になりました。お父さん達が戻ってくるちょっと前にね、ルトブルとグリフォンが、お部屋の大きな窓から入って来ました。お部屋の窓、僕達がお泊りしてたお部屋の窓よりもとっても大きかったんだけど、入ってくる時グリフォン頭ぶつけてました。ごつんって。とっても痛そうな音です。

 そしたらそれ見て笑ったエシェットの頭を、グリフォンがクチバシで突いて追いかけたんだけど、床がねギシギシって音してとっても揺れて、穴が空いちゃうかと思ったよ。


「ああ、だからエシェットの頭の1カ所がハゲてるんだね。それでグリフォンはどうしてここに居るんだい。」


 サルバドールさんが聞いて来ました。そう、突かれすぎて、エシェットの髪の毛、少しなくなっちゃったんだ。でもすぐに元に戻るから大丈夫だって。

 それに、グリフォンのお話まだ聞いてないよ。もう!エシェットが笑ったせいだよ。どうしてここに来たのかな?お話聞く前にお父さん達が戻ってきて、ルトブルの紹介したから忘れちゃってた。


「さっきユーキ達と別れた時、グリフォンにこれからどうするのか聞いていたのだ。それでどうもグリフォンは、ユーキに頼みたい事があるようだ。お願いだな。」


 僕にお願い?何だろう。僕に出来る事かな?僕はグリフォンの前まで行きました。グリフォンは羽を少しだけ動かしてモゾモゾしてます。そしたらモコモコの羽から、コロンて何かが落ちました。落ちたのは僕のお顔よりも大きい茶色い石でした。


「いちでしゅか?」


 ルトブルがその石を拾って、僕に渡してくれます。お、おもいぃぃぃ。僕ヨタヨタしちゃったよ。僕のことをマシロが支えてくれます。


「このいち、どうしゅるでしゅか?」


「ユーキこれは石ではない。グリフォンの卵だ。」


 ふおっ!!卵!グリフォンの卵?こんなに大きくて重いんだね。それにあんなに上から落としても割れない、とっても硬い卵です。僕魔獣の卵見たの初めて!そしたら僕の後ろにいたお父さん達も驚いてます。お父さん達も見たことないのかな?じゃあ見られて良かったね!

 グリフォンが卵と僕のことスリスリしてきました。それから僕にお辞儀したんだ。


「それをユーキに託すそうだ。分かるか?大切にユーキに育てて欲しいらしい。そして生まれてきたグリフォンと友達になって欲しいそうだ。」


 お友達!!グリフォンの赤ちゃんとお友達になれるんだ。凄い凄い!


「ユーキの側にいた方が、そのグリフォンは幸せになれるそうだ。ユーキの側は暖かいからな。我もそれが良いと思うぞ。」


 暖かい?それはよく分かんないけど、でも僕がこの卵の赤ちゃんとお友達になるのは良いんだよね。嬉しいなぁ。僕はニコニコで重い大きい卵をぎゅうって抱きしめました。

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