第150話闇の最上級魔法。
(マシロ視点)
アンソニーの傷を治そうと、我から離れてしまった主を急いで止めたが、黒服はユーキに闇魔法をかけた。くろにゃんがそれを弾こうと魔法を使うが、全然効いている様子がない。何かがおかしい。前に使われた転移魔法ならば、くろにゃんの魔法で弾ける筈だ。モヤモヤとした闇はどんどん主を包み込んでいく。
「ふぇ、マシロ!!」
「主!!」
我を呼ぶ声とともに、主とディル、リュカとモリオンが、モヤモヤに完璧に包まれた。それはまるで卵のように主達を包んでいる。
やはりこれは転移魔法ではない。何だこれは。我でも見たことがない。エシェットの方を見た。エシェットはとても難しい顔をして、主が包まれている闇を見ていた。
「何をした?」
エシェットは威嚇と共に、黒服に質問をした。どうも今の闇が支配する状況ではあまり威嚇が出来ないらしい。前に見たことのある黒服は、少しだけ動きが悪くなったか?もう1人の黒服は平気そうだ。エシェットも分かっていたから威嚇を最初から使わなかったのだろうが、今は主があんなものに包まれたために、無意識に威嚇したのだろう。
エシェットに質問された見たことない黒服が、ニヤニヤと嫌な笑い顔を浮かべる。そしてその手には闇の魔力石だろうか。とても大きな黒い魔力石が握られていた。
「今頃その中の子供は夢を見ている頃だろう。とても良い夢だ。安心するといい。そしてその夢から覚めた時、その子供は闇魔法の使い手として、我々の仲間になっているだろう。いい素材を見つけることが出来た。くくくくくっ。」
「そうか。これは闇魔法でも上位の魔法。使役魔法か。」
その言葉に、皆がエシェットの方を振り向いた。
使役魔法。まさかこの男が使えたとは。使役魔法とはその魔法をかけた人物に偽物の夢を見せ、だんだんと心を支配していき、最後には自分に従うように心を変えてしまう、とても恐ろしい魔法だ。この魔法を使える者はそうは居ない。通りで見たことがなかったはずだ。
だがこの魔法を使うには、強力な闇魔法の使い手と、そして幻と言われる闇魔法石が必要な筈だ。強力な闇魔法の使い手。奴はそこまでの闇魔法の使い手なのか?そして幻の闇魔法石だが、我は1度だけ石を見たことがあった。
それはもう何百年も前の話だ。この世界に大きな国ができ始めた頃、我が暮していた森の奥深くにそれはあった。闇の魔力石はいつも、近づいてきた魔獣達の魔力を吸い取り命を奪っては力をつけていた。吸い取る魔力も闇の魔力だけではなく、なんでもよいのが問題だった。
ある時森に住む人狼がその石に近づいた。奴は石を自分の物にし、森を支配するつもりでいたのだ。我はそのとき嫌な感じがして、隠れて人狼の様子を伺っていた。
人狼が石に近づき手にそれを持った瞬間、石は禍々しい黒い光を放ち、すぐにその光は収まった。代わりに人狼の体が黒く輝き、奴は下品な声をあげ笑い始めた。
この時我は人狼が魔力石に認められたと思った。そしてあの強大な闇の力を手にしてしまった人狼が、この森をどうするのか。考えただけでも恐ろしくなった。だが…。
下品に笑っていた人狼が突然、自分の体を掻き毟りながら苦しみ始めたのだ。何だ。何が起こっている?そのまま黙って見ていると、黒く輝いていた人狼は元の人狼に戻り、石は人狼の手から離れ、元の場所にかってに戻ったかと思うと、何も動きを見せなくなった。それと同時に、人狼はその場に倒れ込んだ。
我がそっと人狼に近づくと、奴はいつ死んでもおかしくない程、魔力を吸い取られ、全ての力をなくしてしまっていた。だが一応まだ意識はあり、そんな人狼に我は話しかけた。
「バカなことを。」
「………石にはちゃんと意思があった。手にして魔力がながれこんだ瞬間、石の方から話かけてきた。」
奴いわく、石は自分の魔力を超えないようなら、他のものを捧げろと言ったらしい。人狼の魔力は石程なく、力を手に入れるために何でも捧げると言ったらしい。その途端、体の全ての機能と生命力を奪われてしまったと。
けっきょく全てを奪われたにもかかわらず、石の力には到底及ばず、全てをなくした人狼を見限ったらしい。
人狼はそのあとすぐ死んでしまったが、我はその日のうちにその森を後にした。いつ自分に害が及ぶか分からなかったからだ。そういえばあの黒服が持っている大きな闇の魔力石。あの時の石よりも少し大きいくらいか?
黒服に聞いてみることにした。答えるかどうか分からんが、それで時間稼ぎをして、その間に主を助ける方法を考えなければ。
「それだけの魔力石。お前自身、安全に使えるような物ではないはず。よく使う事が出来たな。」
「そこの変異種はこれがどういう物か知っているらしいな。もちろん扱うのは大変だっだが。」
「………なる程。お前はもう、そんなに命は長くないな。」
エシェットがそう言った。どういう事だ?
「体の機能ほぼ全てそれに捧げたか。マシロが見た人狼は全て捧げてもダメだったが、此奴はすれすれで耐えたようだ。だがそれも後少し。数週間という所か。その前に色々仕掛けてきたというところか。しかし面倒臭い魔法を。」
「あの子供が我々の仲間になるのも時間の問題だ。」
「そんな事をさせると思うか?ルドックお前の闇魔法でどうにかならんか?」
エシェットがくろにゃんに聞くが、
「奴の力が強すぎる。俺には無理だ。」
さすがにあれだけの魔法石を使われては無理か。
「だがアイツなら何とか出来るんじゃないか?」
そうだ。今主にはモリオンが付いている。モリオンは闇の精霊。闇の源だ。これをどうにか出来るとしたらもモリオンだけだろう。
頼むぞモリオン。我らが何とか時間を稼ぐ。その間に何とか主を助けてくれ。
(モリオン視点)
う~ん。誰騒いでるの。僕もう少しだけ寝てたいんだけど。僕は誰かが騒いでるの声で目を覚ましたよ。
「ねえ、うるさいよ。僕休むっていったでしょ!」
「やっと起きた!何度声かけても起きないんだから!」
「大変なんだぞ!!」
妖精のリュカとディルがとっても怒ってる。何なの一体。僕は目を擦って大あくび。それから周りを見渡すと。あれ?何この闇。僕こんな所で何してるの?なんか僕やリュカ達、それからユーキの周りを変な闇が包んでる。僕はユーキに話しかけたよ。
「ユーキ、僕寝てる間に何でこんな変な闇の中にいるの?早くここから出たほうがいいよ。ユーキ?」
ユーキ全然僕と話してくれない。眠っちゃってるみたい。それにユーキの中にこの変な闇が流れ込んでる。おかしいなぁって思ってたら、リュカ達がまた騒いでるよ。
「モリオンどこに居るの?ボク達何にも見えないんだけど。」
「お前ユーキのこと見えるのか?」
え?あっ、そっか。ここ今真っ暗だもんね。僕はみんなのこと見えるけど、みんなは見えないんだ。僕は2人の手を握って、ユーキの肩の所まで連れて来た。
それで僕が寝てる間に何があったか聞いたんだ。それで大体の事が分かったよ。疲れて寝ちゃってたし、それにあの強い人達居るから、ちょっとだけ安心してたんだ。失敗失敗。
まさかこんなに強い闇の力を使ってくるなんて。きっと使った奴って馬鹿なんだね。こんな力使ってたら、最後には自分が闇に落ちて消滅するのに。
こんな変な闇の中にいたら、ユーキもみんなも具合が悪くなっちゃうよ。それにユーキは体の中に入っちゃってるし。早く体から闇を出してあげて、みんなで外に出ようっと。それにはまず、ユーキを起こさなくちゃ。
「リュカ、ディル。僕これからユーキの中に入っちゃった闇の中に入ってくるよ。それでユーキのこと起こすから、そしたらみんなでここから出よう。ユーキが起きちゃえばこんな闇、すぐに出られるからね。」
「それ大丈夫なの?」
「ユーキの中に入るって事だろ。ユーキ痛くないのか?」
「大丈夫。痛くなんかないよ。じゃあ行ってきます。」
体力も魔力も回復したしたぶん簡単。僕はユーキの中にある闇の中に移動しました。待っててねユーキ。すぐ起こしてあげるから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます