第148話黒い洋服の人達
(キュルス視点)
この街にこんな強力な結界を張る者が居たとは。しかも後から出てきた変な人間は、アスピドケロンと互角に戦っている。あいつらがこの結界を張ったのか?何者だ?しょうがない。まずは結界を破る事が先決だ。
あの強力な結界を破るには、絶対にアスピドケロンの力が必要だと思った。だが今のままのアスピドケロンではダメだ。もっと強い力が必要だ。
アスピドケロンとの契約は約50回は超えただろう。何回も私の契約に抵抗してきたアスピドケロンの魔力はだんだんとレベルを上げ、おそらく次で最大容量を超えるのではないか。しかもそれだけではなく、我々に対する憎しみもあいまって、より強い物に変わるはずだ。そうすれば変異種へと変化する事ができ、あの結界を破る事ができる。
これは今までに捕まえた魔獣を見てきた結果だ。これまでに何匹かそうやって変異種へと変化させることに成功していた。変異種になる瞬間は命令を聞かなくなる事も分かっている。命令を聞かないどころか多分あれは自分でも無意識の状態だろう。それにもかかわらず魔獣どもは、変異の瞬間1番憎い相手に攻撃を仕掛けてくる。今回はそれも利用するとしよう。
アブラムにこちらの事は任せ、私は反対側、城の方へと移動した。私の方に攻撃をしてくれば、城も一緒に攻撃するに違いない。そう考えたのだ。
そして私の考えは正しかった。それは突然だった。
急に今までで1番の抵抗を示したアスピドケロン。私も今までで1番強い契約魔法を奴にかけた。アスピドケロンにとってはかなりの苦痛だったに違いない。
突然奴の魔力は跳ね上がり、黒い赤色に変わり、目の色も赤色に変わった。そして一瞬の沈黙の後、アスピドケロンは上を向くと、口を大きく開け魔力を溜め始めた。黒い光の筋が空に向かう。一瞬の沈黙の後、その黒い光の筋が私に向かって倒れてきた。
その攻撃を避ける。光の筋は結界を破り、街を半分に両断した。もちろん城も半分に破壊されている。結界のなくなった街に魔獣共が雪崩れ込む。騎士や冒険者がその対処にあたっているのが見えた。
成功だ。そう思っていたのも束の間、すぐに結界を張られてしまった。あれだけの結界を一瞬で?何の用意もせず?あの2人の人間は、本当に人間なのか?
その後、アスピドケロンと人間の戦いは激しいものだった。地上にはいくつもの穴が開き、変異種となったアスピドケロンにも劣らない力で2人は戦っていた。
挙句よく見れば、結界を張り直す前に街に侵入した魔獣共が、だいぶ倒されているではないか。
ちっ、さすが国の中心と言ったところか?戦力が他の街と比べて全然違った。上手くいけばこの国を支配できると思っていたが、そう簡単にはいかないようだ。
少し様子を見てアブラム達の方へ戻ろうと考えていた時だった。何か分からないが違和感を感じた。それが何か分からなかったが、本当に些細な違和感だ。違和感はアスピドケロンから感じた。そしてそれが何か分かったのはさらに少し経ってからだった。
相変わらずあの2人と戦っているが、今まで散々契約に抵抗していたのに、その抵抗が一切なくなったのだ。殺意も感じない。何だ?アスピドケロンはどうしたのだ?
そしてそれは突然だった。契約が解消されてしまったのだ。慌てて契約し直そうとしたが、アスピドケロンはすでに別の人物と契約した後だった。契約し直すため魔力を溜めたが、新しくアスピドケロンと契約した人物は、私よりも強い魔力を持っているらしく、全て魔力を弾かれてしまった。
契約を変更したアスピドケロンは静かになり、一切の攻撃を止めた。
誰だ!!誰が契約をした!!私からアスピドケロンを奪い取ったのは誰だ!!私は探知の魔法を使い魔力が強い人間を探す。この魔法を使うと魔力を使い過ぎてしまい、後の戦いに響くかも知れないが、今はその人間を探す事が重要だ。探し出してその人間を殺し、もう1度契約し直す。まったく余計な事を。
そしてそれはすぐに見つかった。城の上の方から魔力を感じる。見つけた膨大な魔力に驚いた。何だこの魔力は。私が敵うような魔力量ではない。しかし…。私はその人間の元へと向かった。
(ユーキ視点)
エシェットが僕達みんなに結界を張ってくれました。シャーナもね。それから僕はマシロのしっぽにくるまりました。
僕達の前に黒いお洋服着た男の人が浮かんでます。どうやって浮かんでるのかな?それにあのお洋服見たことあるよ。あれ僕達のことお部屋に閉じ込めた悪い人達と一緒だ。
「あのひと、わるいひとでしゅ!ぼくやましろたち、みんないじめたでしゅ!」
「僕達初めてあの黒服見たけど、あれが父さん達の言ってた。」
「今回私達の街を城を襲った黒幕といったところか。お前、何者だ!」
サルバドールさんが怒鳴ります。サルバドールさんの隣にシャーナが立ちました。黒服の人は、みんなのこと見た後、最後に僕のこと見ました。
「まさかお前が。それにそのフェンリルは…。そうかあの時逃げられたのはお前達か。まさかこんなところで会うとは。」
そう黒服の人が言った途端、お城の周りが真っ暗になりました。何これ怖い。僕はマシロのしっぽにぎゅううううってしがみ付きます。
「これ、闇の空間だよ。」
モリオンが僕の肩の乗っかりました。それでねこの黒いのが何か教えてくれました。僕達みんな今、闇の空間に居るんだって。この中にいると魔法使えるけど、闇の魔法が1番強くて、他の魔法はあんまり使えないみたい。
「剣で戦っても良いが、ここは奴の闇の空間。自由に行き来できる奴に、剣で対抗するのは少し無理があるか?だが、何も出来ないよりはいいか。」
サルバドールさんが剣を持ち直しました。僕とマシロの前にエシェットとくろにゃんが立って、僕のこと守ってくれてます。それから僕の後ろに、さっきエシェット達と一緒に来た男の人が立ちました。
「大丈夫だユーキ。我が必ず守ってやる。」
ん?この声。確か亀さんのルトブルの声と一緒。
「ルトブルでしゅか?」
「ああ。我がアスピドケロンのルトブルだ。ユーキよろしく頼む。」
わぁ、ルトブル人に変身出来たんだね!エシェットと同じだね。亀さんの姿のルトブルも、人の姿してるルトブルもカッコいいね!僕はニコニコです。だって変身だよ。
「え?アスピドケロンなの?!」
「まじかよ…。変身できる規格外が2人になったって事か。ユーキ凄いな。」
お兄ちゃん達が黒服の人見たまま驚いてました。良かった。これで一緒に居られるね。だって大きいままじゃお家に帰った時、お父さん達に怒られちゃうもん。それにおやつの時間とか大変。お菓子、絶対足りなくなっちゃう。
「みんなよかったでしゅね!みんなおともだちでしゅう!」
「勝手に話をしているが、そいつはもともと私のものだ。返して貰う。しかもちょうどここには殿下も居る。ここに居る人間全てを倒し、魔獣共は我の契約魔獣にしてやる。しかし…。よし奴も呼ぶか。」
黒服の人が何かボソボソ言いました。その後すぐ黒い闇の中からもう1人、黒いお洋服着た人が出てきました。あっ!あの人見たことある!エシェットがお仕置きした黒服の人だ。この前は2人居たけど、今は1人だけだね。
「ほう。あの時の1人か。」
エシェットも気がついたみたい。
「お前は…。よくよく見てみればあの時の…。指揮していたせいで気付くのが遅れたな。まさかお前がこんな所に居るとは。お前を倒し、あいつの居場所を聞き出してやる。」
「何のことだ?」
「ふんっ、すぐに思い出させてやる。しかしまずは。キュルス様、俺は何を。」
「あの子供以外人間は殺してしまえ。あの子供は捕まえた後、奴隷の首輪をつけて我々のために働いて貰う。」
「畏まりました。では。」
みんなが黒服の人達を睨みます。黒服の人達も僕達を睨んでます。最初の黒服の人はずっと僕を見てるけど。奴隷の首輪って何だろうね。でも、なんかダメダメな感じがする。
肩に乗ってるモリオンが、僕に小さい声で言いました。
「大丈夫だよ。僕は闇の精霊だから。あいつら僕の事知らないでしょう。みんなが危ないと思ったら、僕がお手伝いするから。それまでユーキの肩でおやすみさせて。さっきまで動いてたから疲れちゃったよ。少しすれば、全部力が戻るからね。」
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