第145話誰ですか?

(???視点)

 我は一体ここで、何をやっているのか。何故戦っているのか?


 あの時、海でゆっくり漂っていた時、あいつが現れた。闇の力を感じたが、別に闇の力を感じたからといって、全部の闇を使う生き物が悪い者とは限らない。それに久しぶりの人間に会えて嬉しかったのだ。しかし…。


 我の前に現れた人間は、かなりの闇の力を持っていて、我がやつに心を開きかけ隙を見せた瞬間、無理やり契約をして来たのだ。抵抗する間もなく、我は奴の契約魔獣になってしまった。


 それからは契約を破棄しようと力を使ったが、契約しているせいでなかなかそれも上手くいかず、無理に破棄しようとしたせいで、かなりの苦しみを受ける羽目になった。それでも何度か上手くいきそうな時もあったのだが、結局出来ずじまいだ。


 それに他の魔獣も見捨てては行けなかった。最初の奴が我の所に来て以来、同じような人間が何人も我の所に現れた。全員黒い洋服を着ている。奴らはたまに、我の背中に生えているたくさんの木の所へ魔獣を連れて来た。全て契約されている魔獣で、そこそこ魔力も力も強い魔獣達だ。


 黒服達の命令はいつも同じで、全てを破壊しろと言うものだ。何個も人間の住む小さな村を破壊してまわった。練習だと言っていたが。

 我の所に連れてこられた魔獣は、それが嫌でとても苦しんでいる魔獣が多かった。中には闘いを好み、自ら契約して力を上げる魔獣も居たが。もし我が逃げる事が出来たとしても、苦しむ魔獣達を見捨てて、自分だけが逃げる事は出来ない。


 そんな毎日を過ごしていたある日、いきなり森を移動する事を黒服達は始めた。よく分からなかったが、上手く我々と契約できているかどうか、最初の確認の日が近づいていると、話しているのを聞いた。


 そして移動が始まって数日、ついにここに辿り着いた。とても大きな街だ。着いた所で、最初に命令にを受けたのは我だった。最初に大きな攻撃をしろと言われ、前足を使い、街を攻撃しようとした。しかし、強力な結界に阻まれ、街にはキズ1つ付ける事が出来なかった。この結界は我が攻撃しても、簡単には壊れなほどの強力なものだ。それもよく見れば、結界が2重になっているではないか。


 こんな結界を張れる者などそうはいない。少しの間結界を攻撃していたが、そのうち2人の人間と1匹のねこの魔獣が現れた。魔力の感じからいって、この強力な結界を張ったのはこの2人だろう。しかもこれは…。人間の姿をしているが人間ではないな。おそらくドラゴンだ。挙句男の方は、古龍エンシェントドラゴンか。

 何故そんな奴がここにいて、人間の味方をしている。さらに探ってみれば、これは契約か?まさかエンシェントドラゴンが人と契約していると言うのか?


 驚いているうちに、2人が我に攻撃を仕掛けて来た。その攻撃を自分に結界を張り防いでいる最中、俺に無理やり契約をさせた男の力が少し弱まったのを感じ、ドラゴン達の攻撃をかわしながら、契約破棄を試みた。だが…。


 その時後ろにいたはずの奴の力を、前の方から感じたと思った途端、今までにない1番強い奴の力が我に流れ込んできた。それは激しく我を痛めつけ、2度と契約破棄をさせないという奴の考えが、流れ込んでくるようなそんな力だった。

 痛みに苦しむ我に変化が起きたのはそんな時だ。我の体の奥から、人間を許さないという気持ちと、他によく分からない何かか外の溢れる感じがしたのだ。我の意識はそこでなくなった。


 次に我が気づいた時、我はアスピドケロンの変異種へと変化していた。そして目の前には、大地が割れ、だいぶ壊れた街の姿が目に入った。

 どんどん力が溢れてくる。今までに感じたことのない膨大な力。この力が有れば、何でもできる気がする。

 我らにあんな苦しみを与える人間達にも、その1番の原因であるあの男にも、今なら反撃出来るはずだ。しかし奴め。今までで1番強い契約魔法を使ったようだ。とりあえず目の前のドラゴン共を倒さなければ。気が散って契約破棄どころではない。


 ドラゴン達との戦いは先程よりも、楽なように感じたが、そこはさすがドラゴン。奴らの方も力を上げて来た。早く倒して奴を殺したいというのに忌々しい。

 その時、城の方から、暖かいものを感じた。太陽のような優しい暖かさだ。奴の黒いドロドロとした嫌なものではない。あれは何だ?奴と同じ人間が放っているものなのか?


 本当にこんな人間がいるのか。ああ、暖かいな。どうせならば、こういう人間と契約してみたかった。きっと我は幸せになれたはずだ。きっとそうに違いない。どうして我の所に来たのは奴だったのか。まあ、今更それをいっても変わらない。今の我は、人間共を殺す事しか考えられん。だが…。

 あの優しい暖かい光を持つ人間に会ってみたかった…。


(ユーキ視点)

「ん?」


「ユーキ、どうしたの?」


 シルフィーが僕に話しかけて来ました。う~ん。今誰か僕に話しかけてこなかった?僕は周りをキョロキョロ見ます。でも、皆んなエシェット達に方見てて、誰も僕の方見てません。気のせいかな?うん。気のせい。よし、もっとエシェットの応援だ!


「エシェット、がんばれでしゅう!!」


『………か?』


「???」


『………人間か?』


 やっぱり聞こえる。前にキミルの声が聞こえてきたみたいに、誰かの声が聞こえます。それに人間か?って何の事だろう。不思議に思ってたらまた聞こえてきました。


『お前は人間か?それとも別の生き物か』


「ぼくは、ユーキでしゅう。」


『………声が聞こえるのか?』


「ん?どうしたのユーキ。誰とお話ししてるの?」


 僕が誰かとお話してるのに気づいて、お兄ちゃん達が僕のお顔覗いてきました。


「うんと、だれかのこえきこえるでしゅ。ぼくのこと、にんげんかって。だからぁ、ユーキでしゅうっていいまちた。」


「え?そんなこと誰かユーキに言った?」


 マシロもディル達も、お兄ちゃんもアシェルも、皆んな不思議なお顔してます。それに気づいてサルバドールさん達も近づいてきました。


「ユーキ君、どうしたんだい。」


 皆んなおんなじ事聞いてくるんだけど、僕も分かんない。だって声しか聞こえないんだもん。僕はもう1度周りをキョロキョロ。でもやっぱり誰も居ません。


『お前は、あの人間と違うのか?』


「うゆ?だれでしゅか?」


『我を、我らを苦しめる人間だ。』


「くるちめる?いじわるでしゅか?だれかに、いじめられてるの?」


『無理やり契約をし、痛めつけてくるのだ。』


 無理やり契約?この前のくろにゃんみたいのかな?無理やりお友達になって、痛い事するの?そんな悪い人がまだ居るの?だってこの前皆んなお仕置きしたんでしょう?

 皆んなには僕の声しか聞こえないみたい。だから、聞こえてきた声、皆んなには伝えてあげながら、僕は声に答えます。


『お前も我らを苦しめる人間か。』


「ぼくは、いじめないでしゅよ。みんなであしょぶでしゅう。えっと、おままごとでしょう、のりものでしょう、ブランコに、クルクルぽんっに、あとあと、おかしもみんなで食べるでしゅよ。」


『痛い事はなしか?』


 僕は皆んなで遊ぶのが、とっても楽しい事、声の人?に言いました。そう言えばお名前聞いてなかったよ。


「えと、おなまえなんでしゅか?」


『我の名前か。我に名前はない。ただのアスピドケロンだ。』


 僕がお名前難しくて、覚えられなかった魔獣だ。亀さん魔獣。亀さん魔獣、お話できるんだね。お兄ちゃん達はその名前聞いて、とってもびっくりしてます。

 それからね、亀さんはいろいろ教えてくれました。本当は仲良くしたくて、今のお友達になった人とお話したのに、騙されてお友達になっちゃった事。亀さんの他にも、嫌なのにお友達になった魔獣がいる事。それでね、


『我は人間が憎い。我々を苦しめた人間を全て、消してしまいたい。』


 そう言いました。この間のエシェットみたい。ダメだよそんなの。僕皆んな大好きだもん。そうだ僕、亀さんに聞いてみよう。僕とお友達になれば、楽しい事いっぱい一緒にできるって。マシロ達や、お父さん達、それに僕のお友達皆んな。亀さんも皆んなに会って一緒に遊べば、きっと楽しいよ。今みたいにいじめる人達は、この前みたいにお仕置きして貰って。そうだよ。それが良いよ!!

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