第141話まさかの話
(マシロ視点)
風の結界を張り、向かってくる人形の方へ移動しようと、その前に1度振り返り、主の方を見る。
「がんばれぇー!!」
主は両手を上げ拳を作り、我達の事を応援してくれている。もちろんディル達もそれぞれが、応援をしてくれていた。その姿を見て俄然やる気が出た。早くあの人形を倒し、主の元へ戻ろう。
ここで戦ってもいいが、もしもの事を考えて、離れたところで戦う。
「では行くぞ。我から離れるな。しっかり掴まっていろ。」
「うん。」
モリオンが我の毛の中に入り、頭だけ出して毛をしっかり掴んだ。それを確認して走り出す。すぐに人形の姿が見えた。あちらも我らの存在に気づき、先程のように攻撃をしてきた。
あちらこちらに攻撃が当たり、壁がボロボロと崩れる。あまり壁が崩れるのは良くない。今はいいかも知れないが、主達が地上に出る前に、他の壁が連鎖して崩れたら大変だ。相殺した方がいいな。
次々にくる攻撃を、今度は避けずに風魔法やいろいろな魔法を使い、人形の魔法攻撃にぶつけて相殺していく。その時の煙に紛れて、今度は殴りかかって来た。
さて、人形を粉々に破壊すれば止まるか?
「モリオン、粉々に破壊すれば止まるか?それとも魔力石を取れば止まるのか?少しでも止まっていれば、お前の闇魔法で闇に落とせるだろう?」
「…うん。でも…。」
モリオンが言うには、一応ちゃんと破壊してから闇に落としたいらしい。何故か聞こうと思ったが、今はゆっくり話してる場合でもない。ここはモリオンの言う通りにしておく方が良いだろう。
「後でちゃんと説明するから。ね?」
モリオンもこう言っている。どんな理由があるのか。後でゆっくり聴くとしよう。
人形を完璧に破壊するのは、完全に魔石を壊さないといけないらしい。魔石を壊さない限り、人形を破壊しても、元の人形に戻って攻撃を続けるらしい。まったく昔の人間は面倒な物を作った物だ。
まずは魔石の気配を感じとり、人形のどの部分に何の魔石が埋まっているか確認する。まず最初に壊す魔石は風の魔石だ。人形があれだけの動きができるのは、風の魔力石による物だ。気配を探るとどちらの人形も、胸のところに風の魔石が埋められているようだ。
「よし、攻撃するぞ!離れないように注意しろ!!」
一気に加速し、まず1体目の人形の胸の部分を攻撃する。攻撃はうまく決まり、人形の胸の部分を破壊した。それと同時に風の魔力石が飛び出した。すぐに近づき、それを噛み砕く。魔法石は粉々にに砕け散り人形は動きを止め、その場に膝をつく。もう1体の人形の攻撃を避け、そのまま動きの止まった方の人形に、さらに攻撃を加える。足、腕、頭、それぞれから魔石が飛び出した。その全てを噛み砕くと、完全に動きが止まった。
「うん。完全に壊れたよ!」
「よし、あと1体だ!」
もう1体の方に攻撃を仕掛ける。しかし、今度は簡単にはいかなかった。我が胸を攻撃しようとすると、ちゃんと胸のところを防御し、我から距離をとって、魔法攻撃だけをしてくるようになった。何だ?考える力があるという事か?
「ずいぶん頭の良い人形だな。知っていたか?」
「ううん。僕は動く人形があるってことと、どうやって動くかだけ、なんとなく分かってたんだ。あの変な文字あったでしょ。あれにそんな事書いてあったの。文字が読めたのは、最初の闇の精霊の記憶が引き継がれたから。」
昔の人間は、ずいぶんと魔法陣などに詳しかったようだな。最初モリオンが石の時に、石の下にあった魔法陣。あれは確かに契約の魔法陣だった。しかし、今使われている魔法陣とは違う。もっと複雑な物のように見えた。後で戻ったらエシェットに聞いてみるか。
よし。もう1体もさっさと破壊してしまおう。攻撃さえ当てれば、あとはさっきと同じようにすれば良い。
「モリオン!スピードを上げるぞ!!」
一気にスピードを上げ人形に接近すると、奴が胸を防御する前に攻撃を加える。胸に穴が開き、魔力石が飛び出す。それをさっさと噛み砕き、動きを止めた人形の全ての魔石を壊す。これで我の仕事は終了だ。
2体の動かなくなった人形を、あとはモリオンに任せる。
「ようし、これで完璧。今から闇に落とすね。これで出てきても大丈夫。」
今、何と言った?出てきても大丈夫?どういう事だ?我が不思議に思っている間に、闇が広がったと思うと、人形が闇の中に吸い込まれていく。ズルズルと引き込まれていく人形。最後に残っていた片足が吸い込まれ、これで全てが完了だ。
「はぁ、まったく、これでもう何もないであろうな。」
「うん。大丈夫。ごめんね忘れちゃってて。失敗失敗。」
モリオンがへへへと笑っている。本当に大丈夫なのか?本当に忘れている事はないのだろうな?心配になってきた。まあ、とりあえず人形は倒した。主達の所へ戻ろう。
それにしてもだいぶ壁が崩れてしまった。大きな崩れはないが、あまりこちらには来させないようにしよう。
戻ろうとしたとき、攻撃で崩れた壁の中に、十数個の綺麗な石を見つけた。ほう、これは珍しい。長い年月をかけ、ようやく出来上がる魔力の結晶石。キラキラと輝いている。ふむ、主が喜びそうだな。持って帰ってやるか。
「モリオン、闇の中に入れて持ち歩けるか?」
「どういう事?」
「この結晶を、主に持ち帰りたい。闇の中にしまって運べるか?」
「これを運ぶの?うんできるよ。ユーキはこういうの好き?」
「主が遊ぶ道具にちょうどいい。」
「僕も一緒に遊べる?」
「勿論だ。さあ、これを採って早く戻るぞ。」
結晶を全て爪で採り出し、それをモリオンが闇にしまう。そして主の元へ走り出した。走りながらモリオンに先程の事を聞いてみた。後で説明すると言った事についてだ。
「モリオン、先程の事だが。何故完璧に、人形を破壊しなければならなかったのだ。」
「えっとね。」
モリオンの話はびっくりするものだった。
くろにゃんの闇の力とモリオンの闇の力は、ほぼ一緒の物だ。闇の精霊だけあって、成長していけばモリオンの方が、闇の力は強くなるだろうが、使える魔法の種類はだいたい一緒だ。
この間くろにゃんがルオンを落とした、あの永遠の闇と、今回人形を落とした闇は同じだ。2度と光の元へ戻って来れない永遠の闇。エシェットもそのつもりでルオンを闇に落としたのだが。
まさかその闇が、永遠の闇ではないと言うのだ。
モリオンが言うには、あの永遠の闇は数年に1度、いや数百年に1度、綻びが生じるらしい。その綻びが光の世界とを結びつけ、出入りが出来るようになると言うのだ。
まさかそんな事が。モリオンにもそれがいつ起きるかは分からないらしい。明日かも知れんし、何百年も後かも知れない。もしかしたら今の可能性もあると言うのだ。しかも綻びが出来る場所も決まっていないため、人形が外へ出て来てしまうかも知れない。それを考え、我に完璧に人形を破壊するように言ったらしい。もし外へ出てきて、また襲い始めたら大変だからと。だからあの時、これで出てきても大丈夫と言ったのか。
闇の精霊モリオンの言う事だ。その通りなのだろう。
しかし、それならばルオンはどうなる。我々が永遠だと思っていたモノが、永遠ではないと分かったのはいい事だ。これから気をつければいい事だ。だが既にそこに落としてしまったルオンを、我々はどうする事も出来ない。闇に落としてしまえば、こちらからどうこうする事は出来ないのだから。
困った事になった。もしルオンが外へ出て来てしまったら、また同じ事をするかも知れない。そして主を今度こそ殺しにくるはずだ。闇に消えて行く時のルオンの言葉と、表情を思い出す。エシェットが食べさせた木の実の作用で、出て来ても何も出来なければいいが…。エシェットとウイリアムに伝えなければ。
はぁ。1つ問題が片付いたと思えば、もう次の問題だ。それに…。この様子だと、まだ地上の戦いも続いている。どうする。無理にでも地上に戻るか?それもウイリアムと相談だな。
主達の姿が見えてきた。主が我に気づき、にっこりと可愛い顔で笑っている。いつもの笑顔だ。あの笑顔を見ると安心する。とりあえず、今が無事で良かった。
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