第137話強者と強者

(アシェル視点)

「ユーキちゃん!あなた!」


 割れ目に向かって叫ぶオリビア様に、なるべく慌てずに声をかける。


「オリビア様、マシロ達が行きました。きっとお2人は大丈夫です。」


 私の言葉に叫び続けていたオリビア様は叫ぶのを止め、スッと立ち上がり、そして用意してあった剣を手に取った。それからアンソニー様達に声をかける。


「そうね。アシェルの言う通りね。2人は大丈夫。きっと大丈夫よ。」


 その言葉はおそらく、自分自身への言葉。それからキリッと表情を変え、我々に指示を出した。


「私はお義父さんの所へ。これからどんどん魔獣が街へ入ってくるわ。私はそっちへ行くから、3人はお城を守りなさい。ここにもたくさん人が居るのだから、その人達を守るのよ。そしてもしここが危なくなったら、国王様と殿下をここから逃すの。良いわね。でも皆んなも絶対死んではダメよ。」


 そう言い、壊れた部屋の影に行き、戦闘用の服に着替えると、アンソニー様とジョシュア様を抱きしめ、そして部屋を出て行かれた。私はお2人に着替えをするように言い、自分も動きやすい洋服に着替える。

 ジョシュア様はなかなかの剣を使えるが、このような戦闘は初めてだったはず。私が補助すれば良いだろう。アンソニー様は剣は使えるが、どちらかと言えば、指示を出す方が得意だ。状況を把握し、ジョシュア様に指示を出すように言おう。

 確かにこの国の国王様と殿下はとても大切な存在。だが私にとってはお2人も大切な存在だ。いざとなれば、命をかけてお2人を守ろう。


 お2人の着替えが終わり、剣を持ち部屋を出る。お2人は先程から黙ったままだが、お顔はキリッとしっかりしている。そのお顔を見て少し安心した。怯えはないようだ。これならば大丈夫だろう。あとはどんな魔獣が襲ってくるかだ。


 先程の攻撃でどれだけ犠牲が出ただろう。市民の方にも城の方にも、かなりの犠牲が出ているはずだ。

 さっきの攻撃はおそらく、方向と威力からいってアスピドケロンによるものだろう。マシロが変異種に変化と言っていた。まさか変異種に変化してしまったのか。このタイミングで。最強と言われる部類に入るアスピドケロンが。


 変異種に変化したアスピドケロンを倒せる者は、今この街にはエシェットとシャーナくらいだろう。2人でも倒せるかどうか。だが今は2人を頼るしかない。頼む。国を救ってくれ。

 だが私の本当の願いは、生きていると信じたい、ユーキ様と旦那様、そしてご家族の輝く未来の為にも、アスピドケロンを倒して欲しい。それが1番の望みだ。


(エシェット視点)

 契約を解こうと暴れるアスピドケロンを攻撃している最中、街の反対側の方で、強力な闇の力を感じた。この感じ。この闇の力の持ち主が、アスピドケロンの契約者か?

 そしてその力を感じたとほぼ同時に、アスピドケロンの真下に契約の陣が現れた。暴れるアスピドケロンに更に契約を重ねるためだろう。


 しかしその時だった。突然アスピドケロンの魔力が、膨大に膨れ上がった。そして今まで緑色をしていた体がどす黒い赤色に変わり、目の色も赤色に変わった。そして変化したと同時に契約が終了した。

 一瞬の沈黙の後、アスピドケロンは上を向くと、口を大きく開け魔力を溜め始めた。黒い光の筋が空に向かう。不味いと思い、シャーナとルドックに離れるように言う。あれを喰らえば、我々とて、無事では済まないと思ったからだ。


「シャーナ!避けろ!!ルドックもだ!!」


 離れた瞬間、アスピドケロンは街に向かって、その光で攻撃をした。我々の張った結界は破られ、その光は街を半分に分断した。分断したところは、地下深くまでも抉られている。そして。


「お城が…。」


 シャーナの声に城の方を見れば、城も半分に両断されていた。


「サルバドール!!」


 城へ向かおうとするシャーナを止める。


「ちょっと離して!サルバドールの所に行かなくちゃ!」


「落ち着け。良く魔力と気配を確認しろ。大丈夫だ生きている。今は城の上の方に気配を感じるだろう。」


「………本当だわ、良かった。でも…、これって?!」


 ユーキとあれはウイリアムか?それからマシロ達の気配が、分断された割れ目を落ちていくのを感じた。そしてバラバラに落ちて行っていた気配は1つになり、だいぶ深い所で止まった。良かった死んではいない。魔力を感じるし、契約が解けていないのがその証拠だ。


 すぐにでも助けに行きたいが…。それはダメだ。まずはこのアスピドケロンを倒さなければ。アスピドケロンが居る限り、ユーキの安全は確保出来ない。

 助けに行きたい気持ちをどうにか押さえ、アスピドケロンを見据える。早く倒してユーキの所へ。しかし…。


 変異種になってしまったアスピドケロンを、どうやって倒すか。我々が奴の防御魔法を突破し、更に攻撃をするとなると、今までに経験した事がないくらい、大変な戦いになる。奴の目の前に浮かび、お互いを威嚇し合う。様子見が続くなか、シャーナに質問をする。


「シャーナ、人前でドラゴンになったのは?」


「ないわよ。サルバドールと一緒に居るには、バレない方が良いし。もし私がここに居ると知れたら、私を狙って戦いが起こるかもと思ってたから。」


「人間の姿のまま、これに勝てると思うか?」


「無理でしょうね。でも、私達がドラゴンとバレるのは絶対にダメ。やるしかないわ。でもどうにもならない時は。」


「そうだな。よしでは始めるか。」


 その言葉が終わると同時に、我々はアスピドケロンに攻撃を仕掛けた。まずはアスピドケロンが自分に張っている結界を、破壊することから始めた。

 これがなかなかに大変だ。我々の結界の何十倍も強い結界だ。そしてその結界を破壊する最中にも、攻撃を仕掛けてくる。


 シャーナが奴の気を引いている間に、我が魔力を溜める。そして溜めた魔力を結界にぶつける。一瞬結界にヒビが入ったが、すぐに修復してしまった。何度かそれを繰り返したが、結果は同じだ。


 仕方なく、一応街に結界を張り直し、街に入ってしまった魔獣は人間に任せ、もう1段階、魔力を上げる。地上にどれだけの被害が出るか、分からないくらいの魔力だ。それを奴に向かって放った。爆発と共に物凄い量の土煙りが上がる。それが静まった時、奴の結界には今までで1番のヒビが入っていた。少し穴も開いている。しかしそれも少しの間だ。すぐに元に戻ってしまった。


 だがこれを続ければ、結界は何とかなると思えた。まあ、地上に大きな穴が空いているが、それは気にしない。

 我は続けざまに、どんどん攻撃する。そこら中が爆発と土煙りで、凄い事になった。だがそれのおかげで、土煙りがおさまると、結界の破壊されたアスピドケロンが現れた。結界を張り直される前に、どんどん攻撃しなければ。


 シャーナも魔力を最大まで上げ、どんどん攻撃している。奴がまた魔力を貯め始めた、今度はあの黒い光の攻撃ではなく、雷の攻撃を仕掛けてきた。そこら中に雷が落ちる。それを避けまた攻撃だ。奴の周りに居た仲間のはずの魔獣が、今の雷の攻撃でだいぶやられていて、それはちょうど良かったが、また結界が復活し始めた。本当に面倒くさい結界だ。


 たまに来る雷の攻撃、変異種に進化した事で、動きが早くなり、動きも良くなった奴の前足攻撃、いろいろな攻撃を避けながら、こちらも攻撃する。そして。


「また来るぞ!!」


 先程の黒い光の攻撃だ。攻撃は街とは反対の方、我々の方に放ってくれたおかげで、街が壊れる事はなかった。あれ以上壊されたら、今度こそユーキ達が死んでしまうかも知れないからな。

 黒い光が消えて、また攻撃開始だ。半分まで回復してしまった結界を、もう1度破壊する。我々の攻撃に奴もイライラしてきたのか、だんだん攻撃の方が雑になってきた。それでも結界を張ることを忘れてはいない。


「ラチがあかないわね。あいつ全然疲れを知らないみたいだし。」


「だがやるしかないだろう。これが我々が人型で攻撃出来る、最大の魔力だ。それに、今までの戦いから、奴も今は、これが最大の力らしい。まだ変異種になったばかりで、これ以上は使えないようだ。」


「それだけでも救いかしら。」


「どんどん行くぞ!」


 早く倒さなければ。あまり時間を使うのは良くない。それに奴の契約者が、何か仕掛けてくるかもしれないからな。これ以上、アスピドケロンのような魔獣を増やされてたまるか。

 ユーキ待っていろ。必ず助けてやるからな。

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