第136話あの方と魔獣。そして一瞬の出来事

(アブラム視点)

「まさか、こんなに強力な結界が張られているなんて。」


 俺達が街の近くに移動し、あの方が魔獣を連れて来られてすぐ、街へ最初の攻撃をしかけた。アスピドケロンによる攻撃だ。それによってボルフィスの、あの分厚い壁を破壊する予定だった。しかし衝撃音と地響きだけで壁はヒビさえ入らなかった。

 他の魔獣も次々に攻撃するが、結果は同じだった。


 いったいどうなっている。本当ならもう街の内部への攻撃が始まっていたはずだ。力を、契約状態を見るためだとはいえ、これでは何も確認できない。

 あんなに完璧で強固な結界を誰が張った?あれほどの結界を張るには、最上級クラスの魔力の持ち主が、何十人と必要なはずだ。そんな人間が、いくら国の中心とはいえ、そんなに居るわけがない。そう、この間会った男のような。


 人ではなければ、魔獣が結界を張ったことになる。ボルフィスはそれだけの結界が張れる魔獣を所持している事になるが。最強と言われる部類に入るアスピドケロンが、全然手も足も出ない結界を張れる魔獣。こんな街に姿を隠して暮らしているわけがない。


 それからもいろいろ攻撃をするが、最初と何も変わらなかった。それどころか、強い魔獣達は契約を破棄しようと、抵抗さえ見せ始める始末だ。戦いが好きな魔獣は、関係なく攻撃を続けているが。オーガやイーヴィルモンキーなどがそうだ。あれは戦えれば何でも良いからな。


 あの方の契約している魔獣の殆どが、抵抗をみせていた。もちろんアスピドケロンもだ。命令に従い攻撃はするが、こちらにも攻撃してこようとしていた。その度に契約し直していたのだが。


 昼を過ぎた頃だった。それは突然だった。我々の魔獣に攻撃をしてくる者達が現れた。男女1人ずつと、あれはワイルドブラックキャットか?男女の方は強い魔獣を中心に。ワイルドブラックキャットは男女が攻撃しないそこそこの魔獣を攻撃した。そして街と同じ強力な結界も張っていた。


 次々に倒されていく魔獣達。もちろんアスピドケロンなどはすぐに倒されないが、それでも現れてすぐに三分の1の魔獣がやられてしまった。何という人間だ。あれは本当に人間なのか?きっと結界を張ったのはあの2人の人間だろう。


 我々が何も出来ずに、慌てている時だった。あの方が動いた。


「ふむ。やはり国の中心。簡単にはいかないようだ。しかし、こちらももう少しだと思うのだが…。アブラム、私が契約をし直したのは、もう何回目だ?」


「はい。50回は超えているかと。」


「その間に、あのアスピドケロンの魔力も上がってきているな。」


「契約している以上、魔力は上がっているのでは。」


「それもあるが…。アブラム、こちらの指揮はお前に任せる。私は街の反対側へ行ってくる。」


「畏まりました。キュルス様。お気をつけて。」


 キュルス様が闇の中に消えて行った。何をするつもりなのか。ただキュルス様がする事だ。間違いはない。俺はキュルス様にここを任された。戻られた時に、無様な光景は見せられない。俺はすぐに指示を始めた。これにより、倒されてばかりだった我々の魔獣は少し持ち直し始めた。


(ユーキ視点)

 エシェットが魔獣を倒しにお外に行っちゃって、少し経ちました。エシェットを追いかけて行ったお父さんはすぐに戻って来たよ。それからサルバドールさんがお部屋に来て、シャーナも一緒に魔獣を倒しに行ったって教えてくれました。ならエシェット達、絶対負けないね。だって2人ともとっても強いドラゴンだもん。すぐに勝てちゃうはずだよ。


 僕は2人が帰ってきた時、ありがとうでお菓子をプレゼントする事にしました。2人ともたくさん食べるよね。

 僕はお部屋に置いてあるお菓子の箱の方に行きました。たくさん箱が積んであるから、お父さんに1番上の箱と、次の箱をとってもらって、箱の中を確認すると、アメとおせんべいと木の実のお菓子が入ってました。これだけじゃ足りないよね。他の箱も開けて、いろんなお菓子混ぜて、1つずつ、プレゼントの箱が出来ました。

 カバンに入れられなかった分の折り紙で、お母さんがリボン作ってくれました。それを箱に乗っけて完成です。

 ディル達が箱開けようとしたから、ダメって言って、僕がお菓子見張ります。これはプレゼントだからダメだよ。


 すぐエシェット達帰って来ると思ったんだけど、なかなかエシェット達帰って来ませんでした。強い魔獣が多いし、強くなくても魔獣の数が多いから、大変みたいです。それにね、最初はどんどんエシェット達魔獣倒してたんだけど、途中から倒せなくなっちゃったんだって。マシロが教えてくれました。


 僕はお父さんに抱っこしてもらって、窓に近づきます。マシロ達も皆んなでお外見ました。結界に攻撃してくる魔獣は少なくて、きっとエシェット達が戦ってるからだね。


「ユーキ大丈夫だよ。エシェット強いんだから。」


「そうだぞ。そんな心配そうな顔しなくていいぞ!」


「僕、心配しない。」


「くろにゃんも強いから大丈夫。」


 そうだよね。エシェット大丈夫だよね。僕はもう1度お菓子の箱の所に。お菓子のプレゼント、頑張ってるエシェット達に、もう1つ用意しよう。お菓子の箱の2つずつ。僕がお菓子選び始めて、少し経った時でした。


 僕の横にはお菓子の用意、手伝ってくれてるディル達と、お菓子の箱とってくれるお父さんが居ます。お部屋の反対側には、本読んでるアンソニーお兄ちゃんと、いつもみたいに運動してるお兄ちゃん。でも今日はいつもみたいな運動じゃないよ。いつもより静かな運動。それからお母さんが紅茶飲んでて、アシェルはたくさんの紙見てました。その時伏せしてたマシロが、突然ガバって立ち上がりました。


「何だこの魔力は!変異種に変化したか!気をつけろ!!この攻撃はエシェット達の結界でも防げん!!」


 マシロがそう言ってすぐ、お城が凄く揺れました。窓のほう見たら、黒い線みたいな光がお空に向かって伸びてて、その後それがお城の方に倒れて来ました。僕達の居たお部屋の真ん中にそれが倒れて来て、お部屋が半分に割れちゃいました。凄い強い黒い光と、凄くお城が揺れてて、僕は目を瞑っちゃって、それから…。


「ユーキ!!」


「主!!」


 お父さんとマシロと、皆んなの僕を呼ぶ声が聞こえて、僕は目を開けました。あれ?なんか変。僕斜めになってる?お父さんが僕のほうに飛び出して来ました。僕の腕を掴んで、それから僕の事を抱きしめます。そのまま僕とお父さんは、お部屋の割れちゃった所を一緒に落ち始めました。


「きゃあああああああああっ!!」


「ユーキちゃん!!あなた!!」


(マシロ視点)

「主!!行くぞ!!」


 主達が割れ目を落ち初めて、それを見ていたディル達が我の毛の中と背中に乗っかり、すぐに追いかける。割れ目を落ちながら、主達に追いつくため風魔法を使い、スピードを上げる。割れ目はだいぶ深くまで行っているようで、地下まで続いていた。と、主達の姿を見つける。追いついた。さらに風魔法を使い、主達の落下スピードをおとした。追いつくと背中に2人を乗せる。主は気を失っているようだ。


「マシロ助かった。」


「スピードがつき過ぎている。すぐに地上へ戻るのは無理だ。下まで降りてから、これからの事を考える。」


 さっきの攻撃の威力を考えて、もうすぐ割れ目の最終地点だろう。思った通りすぐに最終地点についた。

 主に怪我がない事を確認し、少し安心したが、これからどうするか。登るにしても、そう簡単には行かないだろう。


「様子を見てくる。ここを動くな。」


 少し割れ目を登りながら、様子を伺う。やはり登るのは大変そうだ。


 それにしてもいきなりだった。アスピドケロンが突然変異を起こしたのだ。我と一緒で変異種への変化だ。そのせいで一気に魔力が跳ね上がった。あれでは結界で守れなくて当たり前だ。今頃地上ではエシェットとシャーナが、今までも本気だったろうが、さらに本気で戦っているだろう。あちらはエシェット達に任せ、我々はここを出る事を考えなくては。待っててくれ主。必ず地上へ戻る!!

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