第134話動き出す驚異

(例のあの組織)

「2日後の朝、作戦開始だ。いいか、今回は魔獣の力と、どれだけ我々の言うことを聞いて動けるか、見るためのものだ。」


 ダルイの話を聞きながら、俺はその時にやるべき事を考える。2日後、我々は今までに契約した魔獣を連れ、ボルフィスを攻撃する。今回の攻撃は今どのくらい魔獣を使えているか確認するものだ。いくら契約がなされていても、魔力の強い魔獣を完璧に従わせることはとても難しい。下手をすれば、契約を解除されこちらが反撃されかねない。

 今俺達が所有している魔獣の中で最強の魔獣達は、あの方が契約をし従わせているが、やはり全てが上手くいっている訳ではない。移動しながら命令に従う訓練をしていたが、何度か反撃されそうになり、その度に契約をしなおしていた。


 今回俺達が練習のため襲撃する街は、国の中心の街ボルフィス。この街が戦争や魔獣の襲撃にあい被害を出したのは、もう何十年も前のことだ。それ以降はどんな事が起きようと、街に攻め入ることさえさせない、今この世界にある国の中で、1番の攻撃力と防御力を誇っている。

 これから先の事を考え、今、どれだけ俺達に力があるのか調べるには、ちょうどいいと言うわけだ。そして、もしこの襲撃が力を見るだけではなく、うまく今回の襲撃でボルフィスを落とす事が出来れば。こんなにいい事はない。


 ダイルの話が終わり、俺達幹部だけが別の部屋に集まった。


「それで、準備はどうなっている?」


「こちらはいつでも行けるが、どこまで我々の魔力が通用するか。」


「まだまだ俺達の魔力の向上が必要だからな。」


「今回の作戦にはあの方も参加する。無様なところは見せられんぞ。」


 魔力の向上。それが今の俺達にとって1番必要なことだ。それを1番よく分かっているのは俺だろう。

 あの日あの時、俺はブラックを置いて自分だけアジトへ戻ってしまった。アジトへ戻る途中、突然現れた男。俺達と全然違う力のレベルの差に、一瞬で動けなくなってしまった。あれは本当に人間か?そう思わずにいられない程の力。


 数日後、騒ぎが収まってきたのを確認し、あの場所へ行ってみた。男のいた痕跡はなかったが、俺達のいた場所から森の外へ向かう足跡が残っていた。おそらくブラックの足跡だろう。足跡は街とは反対方向に向かっていて、その足跡を追ったが途中で消えてしまっていた。逆方向に進んだと言う事は、殺されもせず、騎士の連中に捕まりもしなかったという事だろう。

 なら何故戻って来ない。魔力石の魔力を使い過ぎていたとはいえ、帰るくらいの力は残っていたはず。

 考え込んでいた俺に、ダルイとギスターが声をかけてきた。


「どうしたんだアブラム。話し合いはもう終わっているぞ。」


「またあれの事を考えていたのか。その事は取り敢えず、今は忘れろと言っておいただろう。今回の作戦は力をみるためとはいえ、上手くいけば1つの国が手に入るかもしれないんだぞ。」


「分かっている。だが、もしああいう男が、街に何人も居たら?作戦どころではなくなるぞ。俺達が止められてしまえば、せっかく契約した魔獣が逃げるかも知れない。そうなれば、あの方々に迷惑をかけることに。」


「確かに迷惑はかけられん。だが俺は今のお前の状態の方が問題だと思うぞ。ちゃんと作戦のことだけ考えて、それを確実に実行する事だけ考えろ。」


「2日後だぞ。しっかり気を引き締めなおせ。いいな。」


 2人が部屋から出て行く。俺もそれに続いて部屋を出た。魔獣達の所へ様子を見に行きながら、魔力石の補充もしに行こう。

 何故か分からないが、嫌な予感がする。本当に今回の襲撃は上手くいくのか?あの時と同じように絶対的な力が突然現れ、俺達を魔獣達を全て押さえ込んでしまうんじゃないのか。

 俺はそんな感覚に襲われていた。何もなければいいが…。


(ユーキ視点)

 魔獣から街を守るために、毎日いろいろな人達が、お城に来たり出て行ったりしてます。エシェットは、


「我が居るのだから、慌てる事もないだろうに。シャーナも居るから、結界は二重で張れるし。慌てる意味が分からん。」


 って言ってました。そうだよ。エシェット達が居るんだから大丈夫だよ。そうだ僕、エシェットにもう1つお願いがあったんだ。僕は雪のお家で遊ぶのやめて、外でお父さん達とお話ししてるエシェットの所に行きました。エシェットの洋服を引っ張ります。


「どうしたユーキ?もうおやつの時間か?」


「おやちゅ、まだでしゅよ。おひるもまだでしゅう。えと、ぼく、エシェットにおねがいあるでしゅ。」


「何だ?」


「うんとう、エシェットけっかいはれるでしゅ。みんなをまもってくれりゅでしゅ。ぼくのゆきだるま、いっしょにまもってくだしゃい。とうしゃんも、かあしゃんも、マシロたちも、みんなみんな、こわれるのやーでしゅ。おねがいでしゅ。」


 だって雪だるまだけどお父さん達だし、壊れちゃったらお父さん達居なくなっちゃう気がするんだもん。それに頑張って作ったから、こわれるの嫌だ。お顔とか上手く作れたし。僕がそう説明したらエシェットは、雪だるまと雪のお家は、街の結界じゃなくて、別の結界張ってくれるって。ありがとうエシェット。エシェットが頭を撫でなでしてくれます。お話聞いてたお父さんも。


 あと今日は、エイムさんが僕にお菓子をいっぱい持って来てくれました。お部屋の中はお菓子の箱でいっぱいです。


「ふおお、ふふおおお!!しゅごいでしゅ!!おかしいっぱいでしゅう!!」


「お菓子だー!!お菓子の池だー!!」


「たくさん!!ボクも!」


「野菜のお菓子ある?」


「僕もやる!!」


 ディル達が、お菓子の箱の中に飛び込みました。僕は飛び込めないから、絨毯の上に箱を倒して、絨毯をお菓子だらけにしました。


「ありがとでしゅう!!」


 僕お菓子貰えてとっても嬉しかったんだけど、でもお母さんもお父さんも、このお菓子はすぐに食べちゃいけないって。えー。僕もディル達もブーブーです。ブーブー言ってたらエシェットまで、今は食べない方がいいって言ってきました。エシェットどうして?エシェットの大好きなお菓子だよ。お菓子たくさんだよ。


「ユーキ、それは魔獣達が来ないってわかった時に、雪の家で食べたらどうだ。そうだな人間がよく言ってるだろう。パーティーって言うやつだ。お菓子パーティー。どうだ、楽しそうだろう。」


 お菓子パーティー!雪のお家でお菓子パーティー!!とっても楽しそう!そっか。パーティーのためなら、お菓子ちゃんとしまっておかなきゃ。でも…、少しだけ食べたいなぁ。僕達がじっとお菓子見てたら、お父さんが1つだけだぞって、お菓子の箱からクッキーを皆んなにくれました。僕達はそれ食べてニコニコです。


 お菓子の箱の後にも、たくさんの箱が運ばれて来ました。箱の中を見ようと思ったんだけど、アシェルがささって、すぐに片付けちゃいました。お部屋の端っこの方に箱がいっぱい。

 あとね、箱が運ばれてきた後に、ベッドも運ばれて来ました。今日からお兄ちゃん達も一緒に寝るんだって。やったぁー!!じいじ達はそのままのお部屋でちょっとだけ残念だったけど、それでもお兄ちゃん達と一緒に寝られて嬉しいなぁ。今日は枕投げして遊びたいな。


「マシロ、まくらなげ、れんしゅうでしゅ。」


 伏せしてくれたマシロによじ登ります。僕はマシロに乗って、お兄ちゃん達の枕から逃げるから、それの練習しなくちゃ。後は、僕が枕投げて、それをマシロとくろにゃんが飛ばす練習も。


「くろにゃん!むこうにとばすでしゅう!」


 たくさん練習して、夜ご飯食べて、枕投げする前に僕寝ちゃいました。練習し過ぎちゃって、疲れちゃったの。でも、明日は絶対枕投げしよう!


「…寝たか。あれだけ動いてればな。」


「旦那様、荷物もほぼ運び終わりました。後程部屋を移動して、エシェットも交えて、もう1度話をすると。」


「分かった。エシェットもちゃんと来てくれ。」


「分かっている。」


「このまま何事もなく終わればいいんだがな。」

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