第131話報告とベッド下の冒険
(久しぶりのアシェル視点)
雪の降る道を、なるべく休憩を取らずに走る。カージナルを出て8日、今日あの街まで着けば、明日にはボルフィスに着くはずだ。
道の所々に雪のトンネルのような物があったため、雪が降っているとは思えない速さでボルフィスに着けそうで、少しだけ心に余裕が出来た。もしかするとあれはエシェットかマシロあたりがやったのかも知れない。街の人が言うには、ある朝突然、一瞬で雪のトンネルは出来たらしいからな。そんな事の出来る魔獣など殆どいない。本当に規格外のことをやる。まあユーキ様は雪のトンネルを見て、かなり喜んだと思うが。
でも今は、エシェット達の規格外の行動に感謝しなければ。そのおかげで早く報告が出来るのだから。
旦那様達がカージナルを出発してから2日間は、何事もなく街の復興も進んでいた。オリバー様達が書類の整理を、リアム様が街の復興の指揮をとってくださったおかげだ。しかし3日目、その知らせは届けられた。
木が足りなくなり、雪の積もる森へ出かけた冒険者が慌てて戻って来たのだ。我々はその冒険者達に言われるまま、森へと向かった。森へ行く途中話を聞くと、いつもなら小さい動物の足跡が雪に残っているのに、今回はそれが1つも見られなかったらしい。不思議に思いながらも、まあこういう日もあるだろうと思いながら、森の奥へ入って行くと、そこには思いがけない光景が広がっていたそうだ。
そして案内された場所で、我々もその光景に目を疑った。木は折れて倒れているもの、根本から倒れてしまっているもの、広い範囲の木々が倒れていた。そして雪の上には大きな魔獣の足跡がいくつもついていたのだ。多分この足跡からいって、かなりの大きさの魔獣だろう。大きければ力が強いのは当たり前だが、持っている魔力も相当なものに違いない。そんな魔獣の足跡が複数見られたのだ。私達は慌てて辺りを調査した。
しかし不思議なことに、足跡は木が倒れていた場所にしかなかったのだ。おかしい。こんな大きな魔獣が、足跡を残さず移動できるわけがない。私達は調査の範囲を拡げたが、そのあとも足跡を見つけることは出来なかった。
どういう事だ?突然現れて、突然消えたとでもいうのか。
屋敷に戻り、緊急の話し合いが行われた。集まったのはオリバー様達と、冒険者ギルドマスターイルス、商業ギルドマスターロイ、あとはギルドマスター推薦の上級冒険者が数人だ。
森で見てきたことを伝えると、先程の光景を見ていないメンバーが、険しい顔をした。それからは、これからどうするか話し合いになったのだが、足跡が一部にあっただけで、その他に魔獣がいた証拠がないため、どこまで警戒して良いのかという話になった。
とりあえずは今から上級冒険者に、近くにある森や林を調査して来てもらう事になった。今から向かえば、明日の夕方までには街に戻ってこれると考えたからだ。冒険者達は自分の仲間と共に、すぐに行動を開始した。
そして調査から帰って来た冒険者の話をまとめたところ、ある事が分かった。向かった森や林では、私達が見てきたものと同じ、大型魔獣による破壊が見られたそうだ。しかも場所はごく一部だけという、これも同じ状況だ。しかし、話をまとめていった事で、ある重大な問題が持ち上がった。
雪に残された足跡から、どこの足跡が1番古いものか、どれが新しいものか確認した結果、足跡は少しずつ、ボルフィスの方へと移動していたのだ。必ずしもボルフィスに向かうとは限らないが、これは大問題だ。ボルフィスはこの国の中心。リチャード国王の居る1番大きな街だ。もし、この魔獣達が、ボルフィスに向かっていたら大変な事になる。
すぐに各方面へ伝令を出した。ボルフィスとは逆方向でも、もしかしたら魔獣が向かう可能性があるため、すべての大きな街に警戒をするように伝令を出した。カージナルはオリバー様達がいる。私は急いでボルフィスに向かう事になったのだ。
すぐに準備をし、すぐにボルフィスへと出発をして、もうすぐ街に着くという所まで来ていた。早くお知らせしなければ。これは国の一大事だ。そしてもし街が魔獣に襲われれば、私の大好きなユーキ様が、また悲しい思いを、傷つく事があるかも知れない。
早く、早く。
(ユーキ視点)
「きょうのよるごはん、おしゃかなしゃんでしゅ。ならんでくだしゃい!」
今日は夜ご飯ないからおままごとで夜ご飯です。
「くろにゃん、ごはんはこんでくだしゃい。にいしゃんのところでしゅよ。」
「分かった。」
今日はくろにゃんが、お店の人の役です。マシロとエシェットは何か2人でお話があるんだって。
「わわっ!」
アンソニーお兄ちゃんの方見たら、くろにゃんに運んで貰ったごはんの代わりに入れた、小さな綺麗な石、溢しちゃってました。ありゃ、ベッドの下まで入っちゃった。よしおままごと1度中止。今度は冒険者さんごっこ。
「みんなぼうけんでしゅう!どうくちゅにたんけんでしゅう!」
「おおっ~!!」
みんなでベッドまで行って、最初にリュカがベッドの下に入ります。魔法でベッドの下、明るくしてくれました。
「しゅっぱちゅ!!」
皆んなで中に入ります。お兄ちゃんが溢しちゃった小さな石が、いろんな所に散らばってます。
「いち、はっけん!あちゅめましゅよ!このカゴにいれてくだしゃい!」
僕は小さいカゴ、真ん中に起きました。はいはい出来ないから、うつ伏せになったまま進みます。どんどん集めて、最後の1つをシルフィーが拾ってカゴに入れました。その時、ジョシュアお兄ちゃんが、
「大変だ!雪が洞窟の入り口塞ぎそうだぞ!!」
そう言って、毛布を下ろして来ました。
「たいへんでしゅ!!みんなはやくでるでしゅよ!」
皆んなで急いでベッドの下から出ます。僕達が出ようとした方は、ジョシュアお兄ちゃんが塞いじゃったから、反対側から出なくちゃ。またまたみんなで急いで、反対側に向かいます。そしたら今度はアンソニーお兄ちゃんが、
「今度はこっちの雪が、入り口塞いじゃうぞ!!」
今度はアンソニーお兄ちゃんが、毛布落として来ました。
「いしょぐでしゅう!!」
最初にディル達がお外に出て、次にシルフィーが、最後に僕がベッドの下から出ました。僕が出たらちょうど、毛布が全部おちました。僕はカゴの中の石を見ます。全部入ってるみたい。ふう、冒険成功です。
「やったでしゅう!!ぼうけん、しぇいこうでしゅううう!!」
僕は手をグーにして腕を上げました。皆んなも真似します。ベッド洞窟冒険、とっても楽しかったです。
お父さんはお仕事で戻って来なかったから、今日はお母さんと2人で寝ます。いつもお父さんが寝てる場所には、シルフィー達が寝ました。お父さん戻って来たら、皆んなちゃんと退いてあげてね。お父さんベッドに入れる分だけでいいからね。そしたら皆んなで一緒に寝られるからね。
「おやしゅみなしゃい。」
「おやすみね。ユーキちゃん。」
明日は何して遊ぼうかな。
(マシロ視点)
全員が寝静まったあと、我は静かにエシェットに話かけた。
「やはりあの少しの間の魔獣の反応は、間違いではなかったな。」
「そのようだ。ほとんど一瞬だったから、あまり気にしなかったが。人間達は騒いで居るが、まあ我はユーキが無事ならば、関係ないからな。ここに攻め込まれるようであれば、結界でも張ればいい。」
「確かにそうだが、もし主が街の人間も助けろと言ったら?」
「それもだ。街全体に結界を張れば済むことだ。あとは我が人間に隠れて、魔獣を倒せばいいだろう。」
「そうだな。しかし、あの魔獣の現れ方は普通ではない。しかも魔獣の種類も、あの森にいる奴らではない者ばかりだ。気をつけておくべきだろう。」
突然現れて、突然気配を消す。最初からいなかったように、完璧に姿を消すなど、そんな事のできる魔獣はいない。まあ、エシェットみたいのは別だが。あまりにもおかしい。我の考えだが、多分このまま何事もなく終わるはずがない。エシェットもそう思っているのだろう。結界の話をしたとき口元は笑っていたが、目は鋭いままだった。
エシェットが主の顔を見て、それからベッドに寝直した。我も主に近づき寝顔を見てから、もう1度眠りにつく。街へ帰るまで、何も起こらなければいいが。
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