第54話自己紹介だけど、それは突然?

<ユーキ視点> 

 朝起きると、僕はお布団のくるまって寝てて、皆んなはもう起きてました。

「ユーキちゃんおはよう。」

「うにゅう…。おはよでしゅ…。すうー。」

「はは、相変わらずの寝坊助か。どれ、顔洗いに行くぞ。それで目を覚ませ。」

 お父さんに連れられて、顔を洗いに行きます。久しぶりです。顔洗って、やっと目が覚めて、今度は朝ご飯です。

 朝ご飯は、お宿の1階で、ほかの人達と一緒に食べます。僕はパンとスープです。ほかの騎士さん見たら、朝からお肉の塊を食べてる人達が。アレは、別にお金払って食べるんだって。パンとスープは、お泊まりにくっ付いてるんだって。

 話を聞いてたら、お父さんの前にもお肉の塊が。そして何と、お母さんの前にも。

 エシェットのお話した後に、とっても大変なお仕事があって、だから、今からお肉食べて、元気になるんだって。

 お仕事か…。僕お留守番かな?しょんぼりです。そんな僕にお父さんが、お仕事する所に、一緒に連れてってくれるって。

 やった!お父さんのお仕事見れるんだね!

「あなた、良いの?」

「まあな、事務室までなら良いだろう。何か聞きたい事があった時に聞きやすい。それに、やっと会えたんだ。マシロ達が居るとはいえ、今はあまり1人にさせたくない。ほら、見てみろ。」

 お父さんが見たのは僕の手。右手はスプーン持って、左手はお父さんのお洋服掴んでます。だって、せっかく会えたのに、夢だったらどうしようと、思ったんだもん。

「そうね。じゃあ、ユーキちゃん。お父さんの言う事、よく聞いて静かにね。邪魔しちゃダメよ。」

「はいでしゅ!」

 楽しみだなあ。お父さんのお仕事どんなだろう。

 ご飯を食べて、お部屋に戻ります。少しして、オリバーさん達とアメリが部屋にきました。エシェットのこと紹介するためです。


 皆んながそれぞれベッドや椅子に座って、いよいよ自己紹介。僕がエシェットの良い所、皆んなにしっかり教えるからね!

「えっと、エシェットはエシェットで、とってもやしゃしくて、カッコイイでしゅ。あとは、あとは!」

「待て待て、ユーキお前、昨日から同じことしか言ってないだろ。」

 ん?そうだっけ?お空飛べるとか、変身できるとかは?あれ?そう言えば、ドラゴンだってまだ言ってなかったような。

 そんな考え込む僕を見て、エシェットが笑ってます。マシロが僕に静かにしてるようにって。お話が出来ないから。

 ちぇー、僕が自己紹介したかったのに。僕はマシロにブーブー文句です。お父さんが、静かにしなさいって怒ってます。お母さんはニコニコお顔のまま。

「我は、ユーキに名をもらった。エシェットだ。我はドラゴン。伝説の古龍、エンシェントドラゴン。」

「ほらユーキ静かにしろ!」

「エンシェントドラゴンのエシェットだ。」

「ユーキもマシロもいい加減に………。は?」

 お父さんが突然、お話止めたから、どうしたのかなと思って見てみたら、お父さんそもままの格好で固まってました。


<ウイリアム視点>

 今、なんて言った?古龍って言ったか?エンシェントドラゴンって言ったか?

 うん、私の聞き間違いだな。そうに決まってる。

 ふと、私の後ろに立っている、オリバー達を見た。全員が驚いた顔のまま微動だにしていない。私の隣にいるオリビア達も同じだ。まさか全員が聴き間違えたか?

 オレは恐る恐る、男に聞き返した。

「いや、すまない。今ユーキ達を注意していたものだから、聴き間違えてしまったようだ。もう1度、紹介をお願いしてもいいか?」

「ああ、もちろんだ。いくらでも自己紹介しようではないか。我はユーキに名をもらった、伝説の古龍、エンシェントドラゴンのエシェットだ。お前達はユーキの家族なのだろう。これからは我も一緒に行動する。よろしく頼む。」

 聴き間違えじゃなかった。伝説の古龍?エンシェントドラゴン?なんの冗談だ。

 私はユーキ達の方を見た。ユーキは胸を張り、新しい友達だと自慢げに言ってきた。マシロと言えば、大きくため息をつき、それから目を逸らした。妖精達は男の周りをクルクル周り、シルフィーはおじさんカッコイイと、それぞれが勝手な反応をしていた。

「いやいやいや、だって人間だよな。ドラゴンじゃないだろう!」

「ああ、これか?これはマシロが、ドラゴンの姿のままでは街に行けないと言うものだからな。それに、ユーキの家にも入れないそうじゃないか。我は人間に変身出来るのだ。だから今は人間の格好だ。」

「エシェットとってもおおきでしゅ。うんと、しゃんがいくらい?」

「…しゃんがい?」

「ああ、三階建ての家くらいだと、言いたいのだ。」

 マシロが、さも当たり前のように言ってきた。


 うん、何だ?ついて行けていないのは、私だけか?

 いやおかしいだろう。何故古龍なんてものがここに居る?この世界にはどれだけの、伝説とされて来た生き物が、本当に実在しているんだ?

 しかもその伝説が2つも、我々の目の前にいる。これは異常な事だ。

「マシロ、本当にエンシェントドラゴンなのか?この男が嘘をついているとか…。」

「それは無い。」

 私の言葉に、食い込み気味に返事を返して来た。分かっている。ユーキは、絶対に嘘を付かない良い子だ。分かってはいるのだが、どう反応していいのか。

 オリバー達も同じようだった。何とも言えない顔をしたまま、その場に立っている事しか出来ないようだった。

 部屋の中を、沈黙が包んだ。

 最初に沈黙を破ったのは、ユーキだった。


「エシェット、ボクとおともだちでしゅ。とうしゃん、どんどんおともだち、ちゅくりなしゃいって。ぼくおやくしょく、まもったでしゅよ。」

 それはもう、満面の笑顔で。

 いや、確かにそうは言ったが。だが、ユーキのこの笑顔を見てしまうと、何も言えなくなってしまう。

 だがどうする。エンシェントドラゴンなんて、本当に我々と一緒に居られるのか?シルフィーはどうにかなったが。

「因みにだが、もしユーキに何かあれば、我は容赦しない。このくらいの街など、一瞬で消し去ってしまおう。」

 男、いやエシェットの言葉に、また沈黙に包まれようとしたが。と、ここで、

「ねえ、本当にエンシェントドラゴンなのね。伝説の。」

 オリビアがエシェットに話しかけた。

「ああ、そうだ。」

「ユーキちゃんを守ってくれるのね。悲しませたり、苦しめたりしないわよね。」

「もちろんだ。我がユーキには害を及ぼす事は、絶対に無い。」

 自信満々にエンシェントが答えた。

「なら良いわ。」

 おい!何言ってる!良いわって、相手はドラゴンだぞ、伝説だぞ!私の頭の中はパニックだ。

「おい、オリビア!」

「良いわって言ったの。私は認めるわよ。」

 ああ、あんな少しの会話で、簡単に認めてしまった。もう少し考える事はないのか?相手は我々が絶対に敵わない相手だぞ。もしかしたら、この国、いや、世界がなくなってしまう可能性だってあるんだぞ。それを、なら良いわの一言で。

「だってもう契約しちゃってるのよね。」

「ああ、そうだ。そして我は契約を解除するつもりはない。」

「でしょうね。それにそれは、ユーキちゃんが絶対嫌がるわ。ね、ユーキちゃん。エシェットとお別れ嫌でしょう。」

「ふえ!しゃよならでしゅか?やーでしゅ!」

 ユーキの目には涙が。オリビアがユーキを抱き上げて、サヨナラしないわ、と言ってあやす。

「ほら、もうお別れなんて無理よ。今の姿のまま、力も押さえてくれてれば、周りの人にはばれないわ。このままユーキちゃんの側に居てくれれば、安全面を強化出来るし、良いじゃない。」

「いや、しかしだな。」

 オリビアの言葉に、何も言えなくなってしまった。順応が早過ぎないか。

 私はオリバー達を見た。皆、肩をすくめたり、マシューにいたっては、声には出さないものの、お腹を押さえて笑っている。


 私はどうしたらいい?慌てているのは、私だけなのか?

 私の街や、他の街、国の事を考えれば、こんな危険な存在を、認めて良いはずがない。しかし。

 オリビアが言った事も正しい。ばれなければ良いのだ。私達さえ黙っていれば、ユーキはこのまま、友達で居られる。

 あの満面の笑顔を、無くしてしまう事もない。あの可愛い笑顔を。

「とうしゃん。」

 ユーキが私の様子をうかがって、声をかけて来た。

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