第32話楽しかったよ。でもちょっと失敗。そして動き出す闇。

「しょれでね、しょれでね!」

「待って待って、ちょっと落ち着いて。」

 夕ご飯を食べて、休憩室に移動したお父さんとお兄ちゃんに、リク君と何して遊んだか報告です。とっても楽しかったから、報告する事たくさんあって大変。

「なあ、あんなに興奮して、今日寝られるのか?」

「大丈夫じゃない。体は疲れてる筈だから、そのうち眠くなるわよ。」

「とうしゃん、ちゃんときいてましゅか!」

「ああ、聞いてる聞いてる。」

 お母さんと話してるお父さん、僕ちゃんと聞いててくれてるか見てるからね!

 お父さんを注意する僕を見て、アシェルがちょっと笑ってます。

 あのねアシェル、最初は何考えてるか分かんない人だったけど、少し前からだんだんと、僕の前で笑ってくれるようになったんだよ。それにね、僕の知らない事、たくさん教えてくれるんだ。先生みたい。

 でも、僕には優しいけど、お父さんはいつも叱られてる。それで、お父さんに似ないようにって、僕に言ってくるんだ。どうして?お父さん優しいのにね。

「それでユーキ、剣貰ったんだって。良かったね。」

「はい、これでしゅよ。」

 僕は腰に付いてる木の剣を持って、リク君がやったみたいに剣を振ってみました。

「小さな冒険者の誕生だな。…何か剣が重そうに見えるけど。」

「良いじゃんジョシュア、本人喜んでるんだから。」

 僕はまた嬉しくなって、剣を振り回しました。

 そしたら、手を下ろすのと、僕が剣を離しちゃったのがぴったり合わさって、剣がお父さんの飲んでるティーカップに向かって、勢い良く飛んでちゃった。

「カシャンッ!」

「………。」

「………。」

 皆んながお父さんとティーカップを見てる。

「お、おお…、でしゅ…。」

「おお…、じゃないだろう、ユーキ、剣を部屋の中で振り回すんじゃない!」

 お父さんがソファーから立ち上がりました。怒られる、そう思った僕はさっと、逃げ出しました。お部屋の中を走って逃げます。

「きゃあああー、ごめんしゃい!」

「こらユーキ待ちなさい!」

 休憩室の中、すぐに捕まっちゃった僕。お父さんが僕の頭を、手をグーにしてグリグリしてきました。

「ごめんでしゅ~。」

「お前は、まったく!」

 でもね、お父さん笑ってた。それを見て僕も怒られてたけど、何か笑っちゃった。

「それにしても、綺麗に飛んだね。タイミングが良かったかな?」

「ユーキ剣の才能あるんじゃないか?」


 剣をお兄ちゃんから貰って、腰に付けてマシロに乗ります。

 新しいお父さんの飲み物を、アメリアが持ってきてくれました。お父さんほんとごめんね。今度から剣で遊ぶ時はお外だね。あとは自分のお部屋。自分のお部屋なら大丈夫なはず!

「そう言えばユーキ、マシロに乗るの上手くなったね。たまに転がってるけど。」

「毎日俺と練習頑張ってるもんな。」

「はいでしゅ!」

「えらいなユーキは、これからも頑張りなね。」

 僕は褒められてニコニコです。

 そしてお兄ちゃん達が、今日学校で何したとか、アシェルがお父さんの仕事の愚痴を、お母さんに言ったりとか、そんな話を聞いてるうちに…。


「あなた、ほらね。」

「ん?ああ、本当だな。どれ連れてってやるか。」

 僕はうつらうつら、マシロの上で頭が前にいったり、後ろにいったり…。眠い…。

 お父さんが僕を抱っこしてくれます。

「旦那様、少々お待ちを。マシュー様から手紙が届きました。」

「どれ。」

 うーん、誰からの手紙?僕眠いよ…。

「…、アシェルすまないが今から伝言を頼まれてくれ。オリバー達に明日の朝1番に集まってほしいと。」

「畏まりました。」

 ドアの閉まる音が聞こえました。

「うにゅ…。」

「悪い悪い。さあ、ベットへ行こう。その前に歯磨きだ。」

 この日僕はぐっすりと眠りました。ベッドじゃなくて、マシロベッドで…。

 リク君いつ遊びに来てくれるかな。


 <カージナルから離れた、森の中の建物>

「明日だぞ、あの方が朝から動くらしい。」

「そうか、この前は最悪だと思ってたが、これでまたツキがまわって来たぜ。」

 建物の中には、この前酒場にいた男女が居た。その腕には黒いヘビの刺青が入っている。

「まさか俺たちが、あの方の仲間になれるなんて思わなかったな。」

「ええそうね。私達の実力が評価されたのね。冒険者ギルドなんて私たちの実力を認めないどころか、ランクを下げるって言って来たのよ。これで見返せるわ。」

「クエー!!」

「うるせえな、もう飼い主は死んだんだよ!」

 建物の奥からは、魔獣の鳴き声が聞こえてくる。1匹だけではなく、複数の魔獣の鳴き声が、家の中に響いていた。

「おい、あの死体外に出しとけよ。明日からまた忙しくなるからな。」

「分かってるよ。」

 男は床に転がっていた死体の足を掴むと、外へ向かってダラダラ歩き出した。外へ出ると家の周りには暗い森が広がっている。自分の周辺しか見えないくらいの暗い森。その中をある場所へ再び歩き出す。着いた場所には大きな穴が開いていて、男はそこに死体を投げ入れた。穴の中には、何体もの死体が重なり合っていた。

「黙って言うこと聞いてれば、死なずに済んだもんを。来る奴来る奴、自分の契約魔獣守ろうとしやがって。大体、仲間になるって言えば、魔獣とも別れずにすむのによ。少しは考えろよ。」

 男は建物に向かって歩き出す。

「そう言えば、今度は小さいガキだって言ってたな。ガキならすぐ俺達の言うこと聞きそうだし、今回は楽そうだな。明日のために今日は早く寝るか。」

 男が建物に入って行く。男女があの方と呼ぶ人物は今、カージナルの街で暗闇に紛れていた。ある計画のために。

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